45 / 63
45.
しおりを挟む
森を最短ルートで出て、馬を駆け王城に戻った頃には夕刻も過ぎようかと言う頃だった。
クリスティーナは自室に戻ると、ミラに一旦報告をあげた。
「……!お二人共ご無事で何よりでございますっ」
「ラケルをつかせたわ。必要な物はこれに書いてあるから、用意してあの近衛騎士にお願いしてくれるかしら」
「はい、直ぐに…。王妃殿下は湯浴みの準備を致しますので、お着替えを先にいたしましょう」
「そうね……流石に疲れたわ」
「薬湯にしましょうか」
「嬉しいわっ!」
着替えを先に済ませたクリスティーナは、湯浴みの前にアシェリードの元に向かう事にした。勿論夫の顔を見たいとかいう殊勝な心からではない。面倒な事を極上リラックスタイムの後に設けたくないと言う一心からである。
国王の執務室に入ると、近衛騎士が何人か詰めており、報告が終わったところの様だった。近衛騎士の1人に森に追従した者がいるところを見ると、クリスティーナとスノウの件も含まれているのだろうことが窺えた。
「クリスティーナ、よくぞ無事戻った!」
「ご心配おかけしました。ところでアトリは……」
「あぁ。近衛騎士隊長、クリスティーナにも報告を」
「はっ。王妃殿下専属侍女であるアトリ嬢はリネン室の奥で発見されました。襲撃された様で頭部に打撲痕。手足は縛られてておりました。現在は医務室で療養中。意識は先程戻られ診察の結果、外傷以外に異常は無いとのことです」
クリスティーナは握りしめていた手の力を抜いた。身近に接していた人の安否が分かり、やっと心からホッと一息つけた。
「一応秘匿されている存在であるから、誘拐として公表することはできない。そこは分かって欲しい」
「ええ、理解しております。ですが、私の侍女を害したのです。最終的に私を狙った可能性が有るとして、捜査は続けてください」
「はっ。承知いたしました」
近衛騎士の報告では、まだ犯人の特定はできておらず、アトリを呼び出した下級侍女は「ミラ様がコレをアトリ様に渡して欲しいと頼まれたが、自分は外への用事があって行けそうにないから引き継いで欲しい」と言われたらしい。それならと引き受けて、アトリの居場所を人に尋ねて、スノウの部屋に来たのだそうだ。
頼まれた侍女は外套を纏っていたが、侍女服が裾から見えたので、納得して受け取ってしまったと供述した。
「スノウの部屋に訪れたと言う男女の1人でしょうか?」
「恐らくですが」
「特定は難しいですわね。夜会に紛れてしまったと考えると……」
「目的は果たしたのだろう。警戒はするが2度も手を出す可能性は低いのではないか?」
「いえ……スノウを亡き者にしたいのであれば、これまでチャンスは何度でもあったはずです。私が来る前ならもっと簡単でしたでしょう。何かの思惑があってスノウを害したのであれば、これから動くと思われますわ」
何が目的か分からない。
それが一番の懸念事項である。
秘匿されて居たとはいえ、スノウの存在は前王妃亡き今、現在の王妃クリスティーナに何の影響も及ぼさない存在。現国王としても血の繋がりがない子の存在を脅かされたからといっても、何の影響もないのだ。
クリスティーナに脅迫じみた交渉の席につかせるには良いカードとなったのだろうが、誘拐後に殺害目的で夜の森深くに遺棄したのであればそれも使うつもりがないという事。
「警戒は怠らず、調査を続けて」
「はっ」
クリスティーナは自室に戻ると、ミラに一旦報告をあげた。
「……!お二人共ご無事で何よりでございますっ」
「ラケルをつかせたわ。必要な物はこれに書いてあるから、用意してあの近衛騎士にお願いしてくれるかしら」
「はい、直ぐに…。王妃殿下は湯浴みの準備を致しますので、お着替えを先にいたしましょう」
「そうね……流石に疲れたわ」
「薬湯にしましょうか」
「嬉しいわっ!」
着替えを先に済ませたクリスティーナは、湯浴みの前にアシェリードの元に向かう事にした。勿論夫の顔を見たいとかいう殊勝な心からではない。面倒な事を極上リラックスタイムの後に設けたくないと言う一心からである。
国王の執務室に入ると、近衛騎士が何人か詰めており、報告が終わったところの様だった。近衛騎士の1人に森に追従した者がいるところを見ると、クリスティーナとスノウの件も含まれているのだろうことが窺えた。
「クリスティーナ、よくぞ無事戻った!」
「ご心配おかけしました。ところでアトリは……」
「あぁ。近衛騎士隊長、クリスティーナにも報告を」
「はっ。王妃殿下専属侍女であるアトリ嬢はリネン室の奥で発見されました。襲撃された様で頭部に打撲痕。手足は縛られてておりました。現在は医務室で療養中。意識は先程戻られ診察の結果、外傷以外に異常は無いとのことです」
クリスティーナは握りしめていた手の力を抜いた。身近に接していた人の安否が分かり、やっと心からホッと一息つけた。
「一応秘匿されている存在であるから、誘拐として公表することはできない。そこは分かって欲しい」
「ええ、理解しております。ですが、私の侍女を害したのです。最終的に私を狙った可能性が有るとして、捜査は続けてください」
「はっ。承知いたしました」
近衛騎士の報告では、まだ犯人の特定はできておらず、アトリを呼び出した下級侍女は「ミラ様がコレをアトリ様に渡して欲しいと頼まれたが、自分は外への用事があって行けそうにないから引き継いで欲しい」と言われたらしい。それならと引き受けて、アトリの居場所を人に尋ねて、スノウの部屋に来たのだそうだ。
頼まれた侍女は外套を纏っていたが、侍女服が裾から見えたので、納得して受け取ってしまったと供述した。
「スノウの部屋に訪れたと言う男女の1人でしょうか?」
「恐らくですが」
「特定は難しいですわね。夜会に紛れてしまったと考えると……」
「目的は果たしたのだろう。警戒はするが2度も手を出す可能性は低いのではないか?」
「いえ……スノウを亡き者にしたいのであれば、これまでチャンスは何度でもあったはずです。私が来る前ならもっと簡単でしたでしょう。何かの思惑があってスノウを害したのであれば、これから動くと思われますわ」
何が目的か分からない。
それが一番の懸念事項である。
秘匿されて居たとはいえ、スノウの存在は前王妃亡き今、現在の王妃クリスティーナに何の影響も及ぼさない存在。現国王としても血の繋がりがない子の存在を脅かされたからといっても、何の影響もないのだ。
クリスティーナに脅迫じみた交渉の席につかせるには良いカードとなったのだろうが、誘拐後に殺害目的で夜の森深くに遺棄したのであればそれも使うつもりがないという事。
「警戒は怠らず、調査を続けて」
「はっ」
23
お気に入りに追加
2,751
あなたにおすすめの小説




愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる