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お昼頃にクリスティーナ達が城に戻るために出立するまでの間、ラケルは子供達の家に年長組と行って必要なものがないかを確認しに行き、クリスティーナはここでの生活の話をスティラとサロと聞いて過ごした。
スティラは“森魔女”と呼ばれる薬学界でそれなりに名の知れた人物であり、薬学研究のために森の奥を好んで住み着いている事は耳にしたことがあった。
「でもまさか、こちらにお住まいだったなんて」
「10年前くらいかな。この家は木こりをやってた老夫婦から貰ってね。木こりの孫がその子らさ」
「そうなの……あの、ご両親の事をお聞きしても?」
「母さんは……」
言いにくそうに口籠ったロブに、クリスティーナは口元を手で押さえて聞いてはいけない事だったかと顔色を悪くした。
「ゴメンナサイ」と言いかけたまさにその時、あっけらかんとした声を出したのはナットだ。
「お母さんは街で子供を産むんだって~」
「えっ」と口元を押さえたまま小さく漏らしたクリスティーナは目を瞬かせた。
7人の小人がまさかの7人兄弟だった事に、世界は違えど「昭和かよっ」と大家族にビックリだったが、親が健勝であることよりも「まだ増えるんかぃ」と言う脳内ツッコミが止まらない状態である。
「父ちゃんは心配でついて行って、兄ちゃん達はついでに薬を卸しに行ってるんだ」
「立て続けに産んじゃいるけど、流石に高齢出産に入るからね。大事をとって早めに街に行って、医者の近くの宿で備えておけって私が追い出したのさ。薬は作れるけど、産婆はした事ないからね」
薬以外で頼られても困るんだよと、スティラはブツブツと文句を口にする。それを見てケラケラとロブとナットが笑い出す。いつもの事らしいことが伺えた。
「『今度こそ女の子が欲しー!』って言ってたからね~。妹かな~」
「僕は弟でも良いな~」
薬学の話も出来、いよいよ城へと戻る時。
クリスティーナはスノウの手を取ってチャームに触れた。
シャラリと音を立てるとチャームには飾りが一つ増え、両手でスノウの手を包む。
「早く迎えに来られる様に頑張るから、スノウも頑張って待っててくれる?」
ハの字になっている眉の下には、涙が今にも溢れそうに潤んでいる。
キュッと結ばれた口は涙がこぼれない様に顎に力を入れたせいで山を作っている。
感情を少しずつ 出す様になった5歳のスノウが精一杯我慢をしている。
なんて健気で愛らしいのだろうとクリスティーナは緩んだまま微笑みを向けた。
「護衛とラケルが守ってくれるけど、それでも万が一何かあった時、これを引っ張ってね?」
スノウは目元を擦って、クリスティーナが示した追加されたチャームを見つめる。
「フィナ……」
「ふふ、スノウのウサギちゃんと同じ形。可愛いでしょ?」
コクンと頷いて理解した事を示したスノウを優しく抱きしめて、額にキスを落とすとクリスティーナは馬に跨り城へと戻って行った。
スティラは“森魔女”と呼ばれる薬学界でそれなりに名の知れた人物であり、薬学研究のために森の奥を好んで住み着いている事は耳にしたことがあった。
「でもまさか、こちらにお住まいだったなんて」
「10年前くらいかな。この家は木こりをやってた老夫婦から貰ってね。木こりの孫がその子らさ」
「そうなの……あの、ご両親の事をお聞きしても?」
「母さんは……」
言いにくそうに口籠ったロブに、クリスティーナは口元を手で押さえて聞いてはいけない事だったかと顔色を悪くした。
「ゴメンナサイ」と言いかけたまさにその時、あっけらかんとした声を出したのはナットだ。
「お母さんは街で子供を産むんだって~」
「えっ」と口元を押さえたまま小さく漏らしたクリスティーナは目を瞬かせた。
7人の小人がまさかの7人兄弟だった事に、世界は違えど「昭和かよっ」と大家族にビックリだったが、親が健勝であることよりも「まだ増えるんかぃ」と言う脳内ツッコミが止まらない状態である。
「父ちゃんは心配でついて行って、兄ちゃん達はついでに薬を卸しに行ってるんだ」
「立て続けに産んじゃいるけど、流石に高齢出産に入るからね。大事をとって早めに街に行って、医者の近くの宿で備えておけって私が追い出したのさ。薬は作れるけど、産婆はした事ないからね」
薬以外で頼られても困るんだよと、スティラはブツブツと文句を口にする。それを見てケラケラとロブとナットが笑い出す。いつもの事らしいことが伺えた。
「『今度こそ女の子が欲しー!』って言ってたからね~。妹かな~」
「僕は弟でも良いな~」
薬学の話も出来、いよいよ城へと戻る時。
クリスティーナはスノウの手を取ってチャームに触れた。
シャラリと音を立てるとチャームには飾りが一つ増え、両手でスノウの手を包む。
「早く迎えに来られる様に頑張るから、スノウも頑張って待っててくれる?」
ハの字になっている眉の下には、涙が今にも溢れそうに潤んでいる。
キュッと結ばれた口は涙がこぼれない様に顎に力を入れたせいで山を作っている。
感情を少しずつ 出す様になった5歳のスノウが精一杯我慢をしている。
なんて健気で愛らしいのだろうとクリスティーナは緩んだまま微笑みを向けた。
「護衛とラケルが守ってくれるけど、それでも万が一何かあった時、これを引っ張ってね?」
スノウは目元を擦って、クリスティーナが示した追加されたチャームを見つめる。
「フィナ……」
「ふふ、スノウのウサギちゃんと同じ形。可愛いでしょ?」
コクンと頷いて理解した事を示したスノウを優しく抱きしめて、額にキスを落とすとクリスティーナは馬に跨り城へと戻って行った。
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