転生令嬢の危機回避術の結果について。

ユウキ

文字の大きさ
上 下
40 / 63

40.

しおりを挟む
スティラの家は程なくして辿り着いた。

子供達の家とは違い、煉瓦造りの家は蔦が表面を覆っていて慣れていないと怯みそうになる外観だ。家の周りには柵に囲まれた畑と広々としたスペースをのんびりと歩く鶏や山羊が見える。

年少組は屋根の上の煙突から出る煙を見て、急ぐ様に走って行き家のドアを叩いて開けた。


「スティラさーん!見て見て~!!」
「スティラさーん!甘いの作って~!!」


家主の返事もなく飛び込む様に入って行った2人に驚きながら、スノウは苦笑する年長組と家の中を開け放たれたままの扉から覗く。

入ってすぐにはダイニングと、その奥にはキッチンがあった。テーブルの上には年少組の持っていたカゴが置かれ、2人は頭の天辺を両手で押さえて2人の真正面に立つ人物を涙目で見上げていた。


「まぁーっったく、何度言ったら分かるんだね!ノックと同時に扉を開けるヤツがあるか!返事を待ちなっ!他所様でやったらこんなんじゃすまないんだ、しっかり反省しなっ」

「「はぁ~~ぃ」」


どうやら短い間の内に、2人は頭の上にお叱りの拳骨を食らったらしい。


「おはようスティラさん、朝早くから…色々ごめん」
「あぁ、良いさ。頼んだもんは今日あるんだろ?」
「ある……ついでに相談があって来たんだ」

「なんだい?ん?誰だいその子は?」


スティラは出入り口の年長組に入る様に言ってから、間に見えた小さいスノウに気が付いた。


「昨日の夜に森で見つけた迷子のスノウ。街に連れて行こうと思って」

「ふぅん?迷子か。そりゃ災難だったね」
「あ……の、はい」
「公爵領の街かい?それとも王都かい?」


スノウ達が居る森は大きく、北側にあるスティラ達の家からは王城や王都のある南側とは正反対の場所に位置しているため、王都の北側にある公爵領の街の方が近い。

しかし、王都側と言って良いのか……探されているのか、それともまた追われてしまうのかが判断がつかない。


「え……と、」


どう答えて良いのかが分からなくなって、口籠もったスノウを見たスティラは、少し黙って観察した後「そうかい……ま、取り敢えず悪餓鬼どもは座んな」と言って子供達をリビングに座らせた。


「あんたキッチンを手伝いな。あの悪ガキどもにはやらせらんないからね」


そう言ったスティラは、スノウの答えを待たずに優しく背をポンと叩くと、奥のキッチンへと誘った。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

処理中です...