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スティラの家は程なくして辿り着いた。

子供達の家とは違い、煉瓦造りの家は蔦が表面を覆っていて慣れていないと怯みそうになる外観だ。家の周りには柵に囲まれた畑と広々としたスペースをのんびりと歩く鶏や山羊が見える。

年少組は屋根の上の煙突から出る煙を見て、急ぐ様に走って行き家のドアを叩いて開けた。


「スティラさーん!見て見て~!!」
「スティラさーん!甘いの作って~!!」


家主の返事もなく飛び込む様に入って行った2人に驚きながら、スノウは苦笑する年長組と家の中を開け放たれたままの扉から覗く。

入ってすぐにはダイニングと、その奥にはキッチンがあった。テーブルの上には年少組の持っていたカゴが置かれ、2人は頭の天辺を両手で押さえて2人の真正面に立つ人物を涙目で見上げていた。


「まぁーっったく、何度言ったら分かるんだね!ノックと同時に扉を開けるヤツがあるか!返事を待ちなっ!他所様でやったらこんなんじゃすまないんだ、しっかり反省しなっ」

「「はぁ~~ぃ」」


どうやら短い間の内に、2人は頭の上にお叱りの拳骨を食らったらしい。


「おはようスティラさん、朝早くから…色々ごめん」
「あぁ、良いさ。頼んだもんは今日あるんだろ?」
「ある……ついでに相談があって来たんだ」

「なんだい?ん?誰だいその子は?」


スティラは出入り口の年長組に入る様に言ってから、間に見えた小さいスノウに気が付いた。


「昨日の夜に森で見つけた迷子のスノウ。街に連れて行こうと思って」

「ふぅん?迷子か。そりゃ災難だったね」
「あ……の、はい」
「公爵領の街かい?それとも王都かい?」


スノウ達が居る森は大きく、北側にあるスティラ達の家からは王城や王都のある南側とは正反対の場所に位置しているため、王都の北側にある公爵領の街の方が近い。

しかし、王都側と言って良いのか……探されているのか、それともまた追われてしまうのかが判断がつかない。


「え……と、」


どう答えて良いのかが分からなくなって、口籠もったスノウを見たスティラは、少し黙って観察した後「そうかい……ま、取り敢えず悪餓鬼どもは座んな」と言って子供達をリビングに座らせた。


「あんたキッチンを手伝いな。あの悪ガキどもにはやらせらんないからね」


そう言ったスティラは、スノウの答えを待たずに優しく背をポンと叩くと、奥のキッチンへと誘った。
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