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<ご注意>
子供に危害を加える描写があります。
苦手な方は次回前書きにチョチョイとまとめを乗せますのでスキップしてくださいませ。
鬱展開ですので、皆さま、お読みの際はお気をつけてくださると助かります。
──────────────────
時は少し遡る。
アトリが出て行った後、スノウは言われた通りに大人しくアトリの戻りを待っていた。
ぎゅっと抱きしめるとジンワリと暖かくなるウサギを抱きしめて、窓の外を見た。
今日は夜会。
大人は皆忙しく動き回っている。その中にクリスティーナも一緒にいるのだろう。
今日が終われば、明日には顔を見せてくれるかもしれない。初めて書いたお手紙を見せてみようかな?と、想像するだけで胸が温かく満たされていく。
「スノウ様、専属侍女の戻りが遅いようですので、代わりの侍女が来るか確認して参ります」
スノウは顔を上げてコクリと頷いた。
それから暫く絵本を読んでいると、扉の外からドサリという音が聞こえたかと思うと、黒い外套を纏った男女が現れた。
「へぇ、コレが……勿体ねぇ」
「何言ってるの、あのお方のためにさっさと始末してしまった方が良いのだから、勿体ないも何も無いわ」
「へぇへぇ。あっしや構わないですが……」
嫌な笑みを浮かべて近づいてくる2人に、スノウは絵本を置いてうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。
長椅子から降りて後ろに回って距離を取ろうとするが、リーチの長い大人に敵うはずもなかった。
「コラ、ちょこまかするんじゃない。くそ、余計な物を…離せ」
スノウの抱き締めているぬいぐるみを邪魔に思ったのか、引き剥がそうとする手に抵抗して一層強く抱きかかえた。
「良いわよ、面倒だから一緒に持っていきましょう。早くしないと誰か来るわ」
「ッチ、しゃーねぇ」
女の一言で男は引き剥がすのを諦め、代わりに外套の中から大きい袋を取り出した。
「騒ぐんじゃねーぞ」
鋭く睨み据えると、男は袋をスノウにすっぽりと被せて乱暴に引き上げ肩に担ぐ。
小さな悲鳴を上げたが、スノウは恐怖でそれ以上言葉を出せず。
暗い袋の中、ぬいぐるみを抱き締めて震え続けた。
ガラガラという車輪の回る音。
途中から馬の蹄の音に変わってどれくらい経ったのだろう。
振動が止まり、地面の上に降ろされた事だけは分かった。
袋の口が広げられ、出されたそこは緑の匂い濃くが立ち込める、真っ暗な木々に囲まれた森だった。
女は途中で分かれたのか、男だけが立って、嗜虐的な色を滲ませた目でスノウを見下ろしていた。
「さて……コレも仕事だ。恨むなよ」
そう言って男は猟銃を取り出しゆっくりと構えてガチャリと音を鳴らし、その先端をスノウに向けた。
「……!」
震えるスノウは只管男を凝視する。純粋な恐怖が伝わるその瞳に男はチッと舌打ちすると、引き金を引き「ズドンッッ」と音を立てさせた。
「きゃーー!」
しかし、土埃を巻き上げただけでスノウにこれといった怪我をしていなかった。
一層染まった恐怖の目を恐る恐る挙げると、男はつまらなそうにスノウを眺めていた。
「そら、ぼやぼやしているとすぐに当たっちまうぞ?」
片頬を釣り上げて笑った男に、スノウはぬいぐるみを抱きしめて震える足で立ち上がった。
「ぃや……!」
「ほら撃つぞっ!!」
恐怖に襲われながら足を動かし始めたが、ぼんやりとした月明かりの中ではうまく進めない。
「ハハッ、ほらほらどうしたっ」
ズドンッという重々しい音が聞こえるが、振り向いて確かめる勇気はない。必死に足を動かしてスノウは暗闇の中夢中で逃げ出した。
時折銃声が響く中スノウは必死に走る。その姿を面白そうに眺める男は、銃を撃つが足元は一歩も動いていない。追いかける気がない様だ。
「ちっこいと、すーぐ見つかんなくなるなぁ。まぁ“子供は殺さず”だからコレくらいにするか」
一仕事終えたと、銃にロックをかけて背中に担ぐと、男は懐からタバコを取り出して火種をつけて紫煙を燻らせる。
スハーっと勢いよく吐き出した息は、白く宙を染めた。
「……魔獣に食い殺されるかもだがな」
ぼんやりと浮かぶ月を眺めて、男はタバコを吸い終わると馬に跨り走り去った。
子供に危害を加える描写があります。
苦手な方は次回前書きにチョチョイとまとめを乗せますのでスキップしてくださいませ。
鬱展開ですので、皆さま、お読みの際はお気をつけてくださると助かります。
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時は少し遡る。
アトリが出て行った後、スノウは言われた通りに大人しくアトリの戻りを待っていた。
ぎゅっと抱きしめるとジンワリと暖かくなるウサギを抱きしめて、窓の外を見た。
今日は夜会。
大人は皆忙しく動き回っている。その中にクリスティーナも一緒にいるのだろう。
今日が終われば、明日には顔を見せてくれるかもしれない。初めて書いたお手紙を見せてみようかな?と、想像するだけで胸が温かく満たされていく。
「スノウ様、専属侍女の戻りが遅いようですので、代わりの侍女が来るか確認して参ります」
スノウは顔を上げてコクリと頷いた。
それから暫く絵本を読んでいると、扉の外からドサリという音が聞こえたかと思うと、黒い外套を纏った男女が現れた。
「へぇ、コレが……勿体ねぇ」
「何言ってるの、あのお方のためにさっさと始末してしまった方が良いのだから、勿体ないも何も無いわ」
「へぇへぇ。あっしや構わないですが……」
嫌な笑みを浮かべて近づいてくる2人に、スノウは絵本を置いてうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。
長椅子から降りて後ろに回って距離を取ろうとするが、リーチの長い大人に敵うはずもなかった。
「コラ、ちょこまかするんじゃない。くそ、余計な物を…離せ」
スノウの抱き締めているぬいぐるみを邪魔に思ったのか、引き剥がそうとする手に抵抗して一層強く抱きかかえた。
「良いわよ、面倒だから一緒に持っていきましょう。早くしないと誰か来るわ」
「ッチ、しゃーねぇ」
女の一言で男は引き剥がすのを諦め、代わりに外套の中から大きい袋を取り出した。
「騒ぐんじゃねーぞ」
鋭く睨み据えると、男は袋をスノウにすっぽりと被せて乱暴に引き上げ肩に担ぐ。
小さな悲鳴を上げたが、スノウは恐怖でそれ以上言葉を出せず。
暗い袋の中、ぬいぐるみを抱き締めて震え続けた。
ガラガラという車輪の回る音。
途中から馬の蹄の音に変わってどれくらい経ったのだろう。
振動が止まり、地面の上に降ろされた事だけは分かった。
袋の口が広げられ、出されたそこは緑の匂い濃くが立ち込める、真っ暗な木々に囲まれた森だった。
女は途中で分かれたのか、男だけが立って、嗜虐的な色を滲ませた目でスノウを見下ろしていた。
「さて……コレも仕事だ。恨むなよ」
そう言って男は猟銃を取り出しゆっくりと構えてガチャリと音を鳴らし、その先端をスノウに向けた。
「……!」
震えるスノウは只管男を凝視する。純粋な恐怖が伝わるその瞳に男はチッと舌打ちすると、引き金を引き「ズドンッッ」と音を立てさせた。
「きゃーー!」
しかし、土埃を巻き上げただけでスノウにこれといった怪我をしていなかった。
一層染まった恐怖の目を恐る恐る挙げると、男はつまらなそうにスノウを眺めていた。
「そら、ぼやぼやしているとすぐに当たっちまうぞ?」
片頬を釣り上げて笑った男に、スノウはぬいぐるみを抱きしめて震える足で立ち上がった。
「ぃや……!」
「ほら撃つぞっ!!」
恐怖に襲われながら足を動かし始めたが、ぼんやりとした月明かりの中ではうまく進めない。
「ハハッ、ほらほらどうしたっ」
ズドンッという重々しい音が聞こえるが、振り向いて確かめる勇気はない。必死に足を動かしてスノウは暗闇の中夢中で逃げ出した。
時折銃声が響く中スノウは必死に走る。その姿を面白そうに眺める男は、銃を撃つが足元は一歩も動いていない。追いかける気がない様だ。
「ちっこいと、すーぐ見つかんなくなるなぁ。まぁ“子供は殺さず”だからコレくらいにするか」
一仕事終えたと、銃にロックをかけて背中に担ぐと、男は懐からタバコを取り出して火種をつけて紫煙を燻らせる。
スハーっと勢いよく吐き出した息は、白く宙を染めた。
「……魔獣に食い殺されるかもだがな」
ぼんやりと浮かぶ月を眺めて、男はタバコを吸い終わると馬に跨り走り去った。
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