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乗馬服に身を包むと、ミラとクロルが戻ってきた。

他の侍女を下がらせると、クリスティーナは状況を聞いた。


「スノウ様とアトリの行方は未だ分かっておりません。縛られた騎士は眠った状態でした。叩き起こしましたところ、急に眠気が襲い、その場で崩れ落ちたそうです。
最後に見たのは同じように倒れる同僚と、黒い外套を纏った2人組だそうです」

「2人組……?」
「外套の下から見えた靴から、男女ではないかと言っておりました」


クリスティーナは考えこむ。

スノウが目的なのは明らかだ。だけど男女2人と言うなら、連れ去られたのはスノウだけの可能性が出てくる。

幾ら幼女といえど、5歳の子供の体重はそれなりにある。大人のアトリを男性が、スノウを女性が抱えたとしても移動に難儀するだろうし、黒髪の美幼女を連れていれば色素の薄い者ばかりの王宮では目を引く。袋に入れてしまうか、頭を覆い隠す何かがなければ。

男の方なら抱えて外套の下にすっぽりと隠してしまえるだろう。けれどそうなるとアトリを運べなくなる。

部屋にアトリが居なければ……?

考えたくないが、アトリが引き離されていた場合……その生死は……。


「……アトリの捜索を。おそらく城内の何処かにいるはずです。そちらはミラに任せるわ」

「王妃殿下は」
「私はスノウを迎えに行くわ。外に連れ出されているみたいなの」

「しかし、危のうございます」

「子供を迎えに行くのは、保護者の役目でしょう?近衛も連れていくから大丈夫。ここはミラしか任せられないから頼んだわよ」

「~っ、畏まり、ました。ですが無茶はしない、必ずお戻り下さいますよう」
「さ、色々アシェリード煩いのに止められる前に、さっさと行きましょっ。何か言われたらいい感じに誤魔化しといてね~」

「ふふ、畏まりました」


話しながらまた王妃の執務室まで戻ると、クロルに命じて近衛騎士を3人呼び寄せた。
お忍びで外に出るための、最低護衛人数である。恐らく意味は違うだろうがアシェリードに言われた通り「詳しい者」も混ぜた。



「もう夜明けも近い時間にも関わらず、ごめんなさいね。報酬は別途用意するからよろしく頼むわ」

「王妃殿下、この事は陛下は」
「勿論ご存知(だと思うわ)よ」
「あの、私は近衛に入ってまだ日が浅いのですが……宜しいのでしょうか?」
「ええ、貴方森に詳しいのでしょう?」
「え?えぇ、はい。子供の頃から慣れ親しんでおりました」



クリスティーナは近衛騎士の言葉に微笑んで頷くと、魔導具を取り出して見えるように示した。


「これはあの子に持たせている魔石と同じ欠片。共鳴するこの石が指し示す方向が──」



近衛騎士達はそれを食い入るように見つめ、それの指し示す方角を見た。


「まさか王城の裏手の森……?」
「あの森ですか?!」
「ええ、恐らく。共鳴探査具が有るのですぐ見つかると思うのですが……」
「奥深くは魔獣も出るはずですが……」
「魔獣と獣避けもつけさせているの。そこは問題ないはず。森に入るので準備はしっかりとしてちょうだい。出来次第出発します」

「「「はっ」」」


一体スノウにどこまでの魔導具を持たせているのか?と近衛騎士達は首を傾げたが、指示に従って準備に走る。


入れ違いにラケルが準備を整えて部屋に入ってきた。騎士が遠征の時に使う肩掛けのカバンを背負っている。どう見ても限界まで詰め込んだらしい鞄に少々面食らったが、あえて突っ込むことをせずに早い準備を労って、騎士の準備が整うまで仮眠させた。


「王妃殿下も眠らずとも目を瞑って少しでも休憩をお取りください」


ミラの一言でクリスティーナもソファーへ身を沈ませて、少しの間休憩を取ることとなった。


準備が整ったのはそれから1時間後の事。
気は急くが森に入る準備と馬の手配、警備への伝達を考えると物凄く早いと言えるだろう。

厚手の外套を身に纏い、クリスティーナは近衛騎士の先導の元、スノウ探索に出発した。
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