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人を下がらせて直ぐ、唐突に告げられた言葉にエリザベートは淑女らしからぬ言葉が出た。
もちろん婚約解消には驚いた。
しかしそれ以上に組まれた予定をぶち壊す発想がアシェリードにあったのかという驚きと、別人かと思うほど様相の変わった長年の婚約者への驚きが重なって、「鳩じゃないけど豆鉄砲を今まさに食わされましてよ?」な心境でフリーズしたと言う方が正しいか。
「どうなさったのですか?何か私が粗相でも?」
取り敢えず聞いておかなきゃいけない事を口にしたエリザベートは、鍛えられた微笑みを貼り付けやや眉を下げて悲しげバージョンを作って見せた。
「いや、君にはなんの瑕疵もない。私が……添い遂げたいと思う女性が……出来てしまったのだ。
本当にすまない」
「そうですの」
エリザベートは「成程」と納得する。
機械仕掛けだった表情に感情を浮かべ瞳に光を宿し、終ぞ見たこともなかった朱の差した頬をこの時初めて目にしたのだ。
その衝撃たるや、「婚約解消」というなかなかなのパワーワードを凌駕した。
婚約してから8年の月日が流れようとしていた。その間エリザベートは彼に対する想いは少しずつ変化していった。
「気持ち悪い」から「お可哀想に」へ。
その彼が人生に喜びを見つけ、瞳を輝かせていていることに、ただただ「良かったですわね」と何処までも他人事の様に感じてしまっていた。
だから恐らく相談の場として持たれたこの場で、エリザベートは心から微笑んだ。
「婚約解消の件、畏まりましたわ」
そう了承の言葉を口にしながら。
「…………ですが、よかったのですか?その、ご生家のこととか」
「ふふ、何とかしたわ。最終的には感情論で押したけれど」
「感情論?」
「……私、昔も今も、好みじゃありませんの、彼」
「えっ」
そりゃぁ感情論だけれども、それで通るのかと瞬きが速くなる頭で考えるクリスティーナ。
「私、幼い頃から気に入ったモノ以外、ほんっと~にどうでも良いのです。こんな状態で結婚しても、恐らく政務以外を励もうなんてこれっぽっちも思わなくてよ?仕方なしに1、2度はあるかも知れませんが……」
「あぁ~……アレですか、はい」
割と絶倫気味な陛下が嫁とNoタッチ生活……早々に側妃話が上がるか……いや、大派閥の公爵家の力を恐れて第一子ができるまでは皆口をつぐむだろうか。
『次代に影響が出るどころか、最悪私のせいで王家の主たる血筋が絶えてしまったら……ごめんなさいね?』
と言って、苦笑しながらペロっと小さく舌を出したエリザベートに、彼女の性格を理解している公爵夫妻は「コイツはやりかねん」と頭を抱えて解消に応じることにしたのだった。
もちろん婚約解消には驚いた。
しかしそれ以上に組まれた予定をぶち壊す発想がアシェリードにあったのかという驚きと、別人かと思うほど様相の変わった長年の婚約者への驚きが重なって、「鳩じゃないけど豆鉄砲を今まさに食わされましてよ?」な心境でフリーズしたと言う方が正しいか。
「どうなさったのですか?何か私が粗相でも?」
取り敢えず聞いておかなきゃいけない事を口にしたエリザベートは、鍛えられた微笑みを貼り付けやや眉を下げて悲しげバージョンを作って見せた。
「いや、君にはなんの瑕疵もない。私が……添い遂げたいと思う女性が……出来てしまったのだ。
本当にすまない」
「そうですの」
エリザベートは「成程」と納得する。
機械仕掛けだった表情に感情を浮かべ瞳に光を宿し、終ぞ見たこともなかった朱の差した頬をこの時初めて目にしたのだ。
その衝撃たるや、「婚約解消」というなかなかなのパワーワードを凌駕した。
婚約してから8年の月日が流れようとしていた。その間エリザベートは彼に対する想いは少しずつ変化していった。
「気持ち悪い」から「お可哀想に」へ。
その彼が人生に喜びを見つけ、瞳を輝かせていていることに、ただただ「良かったですわね」と何処までも他人事の様に感じてしまっていた。
だから恐らく相談の場として持たれたこの場で、エリザベートは心から微笑んだ。
「婚約解消の件、畏まりましたわ」
そう了承の言葉を口にしながら。
「…………ですが、よかったのですか?その、ご生家のこととか」
「ふふ、何とかしたわ。最終的には感情論で押したけれど」
「感情論?」
「……私、昔も今も、好みじゃありませんの、彼」
「えっ」
そりゃぁ感情論だけれども、それで通るのかと瞬きが速くなる頭で考えるクリスティーナ。
「私、幼い頃から気に入ったモノ以外、ほんっと~にどうでも良いのです。こんな状態で結婚しても、恐らく政務以外を励もうなんてこれっぽっちも思わなくてよ?仕方なしに1、2度はあるかも知れませんが……」
「あぁ~……アレですか、はい」
割と絶倫気味な陛下が嫁とNoタッチ生活……早々に側妃話が上がるか……いや、大派閥の公爵家の力を恐れて第一子ができるまでは皆口をつぐむだろうか。
『次代に影響が出るどころか、最悪私のせいで王家の主たる血筋が絶えてしまったら……ごめんなさいね?』
と言って、苦笑しながらペロっと小さく舌を出したエリザベートに、彼女の性格を理解している公爵夫妻は「コイツはやりかねん」と頭を抱えて解消に応じることにしたのだった。
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