転生令嬢の危機回避術の結果について。

ユウキ

文字の大きさ
上 下
25 / 63

25.

しおりを挟む
ファーストダンスを終えて、皆がそれぞれホールに進み出て踊るのを眺めて暫く経った後、ミラに声をかけて隅っこの半個室風に仕切ったスペースに近衛騎士を引き連れて移動する。

しばらくそのスペースで待っていると、彼女が近づき礼を取ってクリスティーナの声かけを静かに待った。


「ローズアイル侯爵家次期夫人、どうぞ楽にしてください。こちらへ座ってくださるかしら」

「ありがとうございます。失礼いたします」



礼も何気ない動作一つとっても美しい所作で優雅に動く彼女に、クリスティーナはやはり生粋の令嬢は違うな~と圧倒される。

エリザベートはアシェリードと同じ次でで27歳になる。既に子供を男女1人づつ産んでおり、後は当主交代をいつしてもいい様に領地の把握や社交に精を出すだけの様だ。

淑女の鑑と皆に言われる彼女は銀まじりの波打つ金髪を結い上げ、斜めに分けられて一房残した片側の髪が色気を醸し出している。切長の目元は全てを見通す様で、自然と背筋が伸びてしまう。



(なんだろう……この雰囲気、独特だわ)


何だか独特な雰囲気にクリスティーナのセンサーが注意音を発した気がしたが、取り敢えず当たり障りない世間話から始めることにした。
流石は王妃教育を受けていただけあり、エリザベートの話題は豊富で飽きさせず、笑いを織り込むことも忘れない、思わず感嘆のため息が溢れるほどだった。


「─ エリザとお呼びください、王妃殿下」
「ええ、エリザ。私はティナと呼んで?人目がなければ言葉も気楽にしてくれると嬉しいのだけど」
「ええ。ティナ様。……それで、お聞きになりたいのは私のこと?昔のこと?それとも実家のことかしら?」
「正直言うと全部かしら。薬学に夢中で国内の出来事に明るくないの。この王命が無ければやっと開いた薬局に馬車の定期便とか、色々やるつもりだったのよ」
「まぁ、詳しくお聞きしたいわ。けどそれは次回かしらね。そうねぇ、何からお話ししましょう」


エリザベートは繊細なレースで彩られた扇子を広げると、ハタハタと緩くはためかせながら過去に目を向けた。



エリザベートとアシェリードの婚約が成ったのは、お互いが10歳の頃だった。

国王でありながら政略結婚をしたとは思えないほど愛した妻の一人息子であったアシェリードは過度な期待をかけられ、それにただ応えるだけの機械の様な子供だった。
エリザベートもまた公爵家に生まれ、高度教育を受けていたが、こんな機械じみた目はしていなかった。全てがお手本通りの動き、表情、言葉運び。

初対面での第一印象は「気持ち悪い」に尽きる。

正直面白みに欠けるアシェリードに、エリザベートは王族への敬意、親愛以外に湧きそうにもない。ならばと早々に気持ちを切り替えて、アシェリードを将来国を一緒に運営する、機械仕掛けのビジネスパートナーと思うことにした。

婚約者との仲を深めるお茶会も、お互いの忙しさもあり最低限にする様に提案したのもエリザベートだ。


そんな彼に転機が訪れたのは17の頃。


来年以降に結婚する話もポツポツ出始め、そろそろ敷かれていたレールが結婚という節目を経て王太子妃という乗り物にクラスチェンジするようだ。
機械仕掛けな夫の横で、自分もいつか手先から機械仕掛けになっていくのだろうか……などと今思えばマリッジブルーにかかっていたエリザベートに、アシェリードから呼び出しの手紙が届く。

今まで事前に組まれた予定以外で、アシェリードから呼び出しを受けたことのなかったエリザベートは、驚いたものの一先ず身なりを整えて王宮へ向かう事にした。



「すまない、婚約を解消したい」
「はぁ……」
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

処理中です...