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ファーストダンスを終えて、皆がそれぞれホールに進み出て踊るのを眺めて暫く経った後、ミラに声をかけて隅っこの半個室風に仕切ったスペースに近衛騎士を引き連れて移動する。
しばらくそのスペースで待っていると、彼女が近づき礼を取ってクリスティーナの声かけを静かに待った。
「ローズアイル侯爵家次期夫人、どうぞ楽にしてください。こちらへ座ってくださるかしら」
「ありがとうございます。失礼いたします」
礼も何気ない動作一つとっても美しい所作で優雅に動く彼女に、クリスティーナはやはり生粋の令嬢は違うな~と圧倒される。
エリザベートはアシェリードと同じ次でで27歳になる。既に子供を男女1人づつ産んでおり、後は当主交代をいつしてもいい様に領地の把握や社交に精を出すだけの様だ。
淑女の鑑と皆に言われる彼女は銀まじりの波打つ金髪を結い上げ、斜めに分けられて一房残した片側の髪が色気を醸し出している。切長の目元は全てを見通す様で、自然と背筋が伸びてしまう。
(なんだろう……この雰囲気、独特だわ)
何だか独特な雰囲気にクリスティーナのセンサーが注意音を発した気がしたが、取り敢えず当たり障りない世間話から始めることにした。
流石は王妃教育を受けていただけあり、エリザベートの話題は豊富で飽きさせず、笑いを織り込むことも忘れない、思わず感嘆のため息が溢れるほどだった。
「─ エリザとお呼びください、王妃殿下」
「ええ、エリザ。私はティナと呼んで?人目がなければ言葉も気楽にしてくれると嬉しいのだけど」
「ええ。ティナ様。……それで、お聞きになりたいのは私のこと?昔のこと?それとも実家のことかしら?」
「正直言うと全部かしら。薬学に夢中で国内の出来事に明るくないの。この王命が無ければやっと開いた薬局に馬車の定期便とか、色々やるつもりだったのよ」
「まぁ、詳しくお聞きしたいわ。けどそれは次回かしらね。そうねぇ、何からお話ししましょう」
エリザベートは繊細なレースで彩られた扇子を広げると、ハタハタと緩くはためかせながら過去に目を向けた。
エリザベートとアシェリードの婚約が成ったのは、お互いが10歳の頃だった。
国王でありながら政略結婚をしたとは思えないほど愛した妻の一人息子であったアシェリードは過度な期待をかけられ、それにただ応えるだけの機械の様な子供だった。
エリザベートもまた公爵家に生まれ、高度教育を受けていたが、こんな機械じみた目はしていなかった。全てがお手本通りの動き、表情、言葉運び。
初対面での第一印象は「気持ち悪い」に尽きる。
正直面白みに欠けるアシェリードに、エリザベートは王族への敬意、親愛以外に湧きそうにもない。ならばと早々に気持ちを切り替えて、アシェリードを将来国を一緒に運営する、機械仕掛けのビジネスパートナーと思うことにした。
婚約者との仲を深めるお茶会も、お互いの忙しさもあり最低限にする様に提案したのもエリザベートだ。
そんな彼に転機が訪れたのは17の頃。
来年以降に結婚する話もポツポツ出始め、そろそろ敷かれていたレールが結婚という節目を経て王太子妃という乗り物にクラスチェンジするようだ。
機械仕掛けな夫の横で、自分もいつか手先から機械仕掛けになっていくのだろうか……などと今思えばマリッジブルーにかかっていたエリザベートに、アシェリードから呼び出しの手紙が届く。
今まで事前に組まれた予定以外で、アシェリードから呼び出しを受けたことのなかったエリザベートは、驚いたものの一先ず身なりを整えて王宮へ向かう事にした。
「すまない、婚約を解消したい」
「はぁ……」
しばらくそのスペースで待っていると、彼女が近づき礼を取ってクリスティーナの声かけを静かに待った。
「ローズアイル侯爵家次期夫人、どうぞ楽にしてください。こちらへ座ってくださるかしら」
「ありがとうございます。失礼いたします」
礼も何気ない動作一つとっても美しい所作で優雅に動く彼女に、クリスティーナはやはり生粋の令嬢は違うな~と圧倒される。
エリザベートはアシェリードと同じ次でで27歳になる。既に子供を男女1人づつ産んでおり、後は当主交代をいつしてもいい様に領地の把握や社交に精を出すだけの様だ。
淑女の鑑と皆に言われる彼女は銀まじりの波打つ金髪を結い上げ、斜めに分けられて一房残した片側の髪が色気を醸し出している。切長の目元は全てを見通す様で、自然と背筋が伸びてしまう。
(なんだろう……この雰囲気、独特だわ)
何だか独特な雰囲気にクリスティーナのセンサーが注意音を発した気がしたが、取り敢えず当たり障りない世間話から始めることにした。
流石は王妃教育を受けていただけあり、エリザベートの話題は豊富で飽きさせず、笑いを織り込むことも忘れない、思わず感嘆のため息が溢れるほどだった。
「─ エリザとお呼びください、王妃殿下」
「ええ、エリザ。私はティナと呼んで?人目がなければ言葉も気楽にしてくれると嬉しいのだけど」
「ええ。ティナ様。……それで、お聞きになりたいのは私のこと?昔のこと?それとも実家のことかしら?」
「正直言うと全部かしら。薬学に夢中で国内の出来事に明るくないの。この王命が無ければやっと開いた薬局に馬車の定期便とか、色々やるつもりだったのよ」
「まぁ、詳しくお聞きしたいわ。けどそれは次回かしらね。そうねぇ、何からお話ししましょう」
エリザベートは繊細なレースで彩られた扇子を広げると、ハタハタと緩くはためかせながら過去に目を向けた。
エリザベートとアシェリードの婚約が成ったのは、お互いが10歳の頃だった。
国王でありながら政略結婚をしたとは思えないほど愛した妻の一人息子であったアシェリードは過度な期待をかけられ、それにただ応えるだけの機械の様な子供だった。
エリザベートもまた公爵家に生まれ、高度教育を受けていたが、こんな機械じみた目はしていなかった。全てがお手本通りの動き、表情、言葉運び。
初対面での第一印象は「気持ち悪い」に尽きる。
正直面白みに欠けるアシェリードに、エリザベートは王族への敬意、親愛以外に湧きそうにもない。ならばと早々に気持ちを切り替えて、アシェリードを将来国を一緒に運営する、機械仕掛けのビジネスパートナーと思うことにした。
婚約者との仲を深めるお茶会も、お互いの忙しさもあり最低限にする様に提案したのもエリザベートだ。
そんな彼に転機が訪れたのは17の頃。
来年以降に結婚する話もポツポツ出始め、そろそろ敷かれていたレールが結婚という節目を経て王太子妃という乗り物にクラスチェンジするようだ。
機械仕掛けな夫の横で、自分もいつか手先から機械仕掛けになっていくのだろうか……などと今思えばマリッジブルーにかかっていたエリザベートに、アシェリードから呼び出しの手紙が届く。
今まで事前に組まれた予定以外で、アシェリードから呼び出しを受けたことのなかったエリザベートは、驚いたものの一先ず身なりを整えて王宮へ向かう事にした。
「すまない、婚約を解消したい」
「はぁ……」
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