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そんな一幕もありつつ、多忙な時間はあっという間に過ぎていき、王城に仕える皆が一丸となって頑張って用意した夜会が開催される当日の朝。
クリスティーナはあまりの力の入れように、チェックの最中あんぐりと口を開けた。
たしかに好きな花を聞かれて、「薬草じゃなくて?」と渋々考えたが、思い付かず「ポインセチアとか、白のプリムラ?はどうかしら」と呟いた気がする。
そこまで気に入りの花が無かったが、前世の年末といえばクリスマス。クリスマスといえばポインセチアだよねっ♪くらいの能天気なノリと、よく冬に街中で見かける花の名を口にしただけだったのだが。
しかし、国中から掻き集めたのかと思うほどの量が翌日のためにと会場近くの庭に集められ、庭師がその間を世話を焼きながら右往左往している。
クリスティーナは「問題なし」と頷いて、そっと背を向け会場に向かった。
しかし、そこでも口はパカーンと開くこととなった。
「何か目立つ飾りを」と言われ、会場にあっても邪魔にならないものをと考えて、「飴細工で立体的にお菓子を飾るのはどうかしら?」と答えたら、力強い樹木の形をした飴細工がスイーツコーナーに飾られている。
かと思えば、動き出しそうに羽ばたく小さな白鳥や、美しい花も。そこだけでも力の入れようが分かろうと言うものだった。
しかしクリスティーナが危惧するほど費用がかかっていなかった。お砂糖の素であるてん菜を原料とする砂糖は、国の南に位置する領地から結婚祝いの献上品としていつもの倍の量が収められており、あまり注目されていなかった花をつけないポインセチアは元から値段が安く仕入れることができた。
元々の伝統に倣った夜会なので、衣装もアシェリードの亡き母も着たと言う上半身が総レースのハイネックタイプ、腰についた大きな絹のリボンがボリュームを引き立たせる様な仕上がりで、リボンのテールがスカートのトレーンに沿って優美に流れていく美しく伝統的な逸品を手直しして着ることにした。
朝から磨かれて揉まれ、髪を複雑に結われ、会場の最終チェックをミラから聞いてからコルセットで締め上げてドレスに袖を通す。
王妃が身につけるティアラを最後に飾ると、鏡の中には高貴な1人の女性が映っていた。「ぅわぁ、王妃っぽーい」と心の中で呟きながらマジマジと見つめるクリスティーナの控室に控えめなノック音が響く。アシェリードの侍従が彼の到着を告げた。
「はーい、今行きま」
「美しいな……クリスティーナ。皆に見せるのが本当に惜しい」
到着と同時に遠慮なく入ってきたアシェリードに、クリスティーナの言葉が途中で詰まる。あっという間にクリスティーナの腰を抱いた男は、キラキラしい顔をうっとりとさせながら止める間も無く口付ける。
「ん、ぅ…… 陛下、もう時間です」
「すまない、早くゆっくりしたいものだ」
「私は陛下にゆっくりの定義について話し合いたいものですわ」
壁際に下がっていたミラを呼び寄せ化粧直しをしてもらうと、クリスティーナはまだクツクツと笑うアシェリードの腕に手を絡ませて、王妃の披露目でもある夜会へと足を進めたのだった。
───────────────
<後書き>
2人の温度差を感じてくださると幸いです(笑
クリスティーナはあまりの力の入れように、チェックの最中あんぐりと口を開けた。
たしかに好きな花を聞かれて、「薬草じゃなくて?」と渋々考えたが、思い付かず「ポインセチアとか、白のプリムラ?はどうかしら」と呟いた気がする。
そこまで気に入りの花が無かったが、前世の年末といえばクリスマス。クリスマスといえばポインセチアだよねっ♪くらいの能天気なノリと、よく冬に街中で見かける花の名を口にしただけだったのだが。
しかし、国中から掻き集めたのかと思うほどの量が翌日のためにと会場近くの庭に集められ、庭師がその間を世話を焼きながら右往左往している。
クリスティーナは「問題なし」と頷いて、そっと背を向け会場に向かった。
しかし、そこでも口はパカーンと開くこととなった。
「何か目立つ飾りを」と言われ、会場にあっても邪魔にならないものをと考えて、「飴細工で立体的にお菓子を飾るのはどうかしら?」と答えたら、力強い樹木の形をした飴細工がスイーツコーナーに飾られている。
かと思えば、動き出しそうに羽ばたく小さな白鳥や、美しい花も。そこだけでも力の入れようが分かろうと言うものだった。
しかしクリスティーナが危惧するほど費用がかかっていなかった。お砂糖の素であるてん菜を原料とする砂糖は、国の南に位置する領地から結婚祝いの献上品としていつもの倍の量が収められており、あまり注目されていなかった花をつけないポインセチアは元から値段が安く仕入れることができた。
元々の伝統に倣った夜会なので、衣装もアシェリードの亡き母も着たと言う上半身が総レースのハイネックタイプ、腰についた大きな絹のリボンがボリュームを引き立たせる様な仕上がりで、リボンのテールがスカートのトレーンに沿って優美に流れていく美しく伝統的な逸品を手直しして着ることにした。
朝から磨かれて揉まれ、髪を複雑に結われ、会場の最終チェックをミラから聞いてからコルセットで締め上げてドレスに袖を通す。
王妃が身につけるティアラを最後に飾ると、鏡の中には高貴な1人の女性が映っていた。「ぅわぁ、王妃っぽーい」と心の中で呟きながらマジマジと見つめるクリスティーナの控室に控えめなノック音が響く。アシェリードの侍従が彼の到着を告げた。
「はーい、今行きま」
「美しいな……クリスティーナ。皆に見せるのが本当に惜しい」
到着と同時に遠慮なく入ってきたアシェリードに、クリスティーナの言葉が途中で詰まる。あっという間にクリスティーナの腰を抱いた男は、キラキラしい顔をうっとりとさせながら止める間も無く口付ける。
「ん、ぅ…… 陛下、もう時間です」
「すまない、早くゆっくりしたいものだ」
「私は陛下にゆっくりの定義について話し合いたいものですわ」
壁際に下がっていたミラを呼び寄せ化粧直しをしてもらうと、クリスティーナはまだクツクツと笑うアシェリードの腕に手を絡ませて、王妃の披露目でもある夜会へと足を進めたのだった。
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<後書き>
2人の温度差を感じてくださると幸いです(笑
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