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クリスティーナとひと時を過ごしたスノウは、温まったのか頬を桃色に染めて自室へと送り届けられた。
「さぁ、スノウ様もお勉強の時間ですよ」
こくりと頷いた彼女は、抱きしめていたぬいぐるみを長椅子にそっと置いて、垂れた耳をモフモフと堪能してから教師が来る勉強ようの部屋へと赴いた。
クリスティーナが突如部屋に訪れてから、スノウの全てが変わって行った。
服が可愛くて素敵なものに変わって、たくさん増えた。帽子も貰えたから嬉しかった。
ずっと同じ人が1人側にいるようになった。
勉強は絵本を与えられていたけれど、教える人が来るようになった。
難しいけれど、文字をちゃんと書けるようになれば、クリスティーナへとお手紙を書けるかも知れない。また「偉いわ」って言って貰えるかもしれないと思うと、少しずつやる気が湧いた。
あの日クリスティーナが言っていたことは、勉強をする内になんとなく理解し始めていた。
スノウは何故自分がここに居るのか、誰も側に居てくれないのか、どうして嫌な目をスノウ自身、特に髪に向けられるのかがずっと分からなかった。
部屋から出てはダメと言われていたけれど、あの日はとても天気が良くて、どうしてもちょっとだけでも外に出てみたくなったのだ。
皆んなと違う髪を隠したら大丈夫、ちょっとだけ出てすぐ帰ればと自分自身に沢山言い訳した。クローゼットの隅に落ちていた布を手に掴んで被ると、そっと部屋のドアノブを掴んだ。
人を避けてウロウロしているうちに庭に辿り着き、陽の眩しさに目を細めて綺麗な花や初めて見る虫に夢中になった。
いつの間にか庭の奥までたどり着き、東屋の中へと足を踏み入れると、小鳥が舞い降りて可愛い声で鳴いた。その時だった、─ コツリ─と靴音が聞こえて驚いて振り返ると、クリスティーナが驚いた顔をして立っていた。
小鳥に夢中になって気付かなかったスノウは、また嫌な目で見られる、部屋から出ていて怒られると、パニックに陥った。どうしようもない震えが伝わったのか、頭から布がハラリと落ちた。
咄嗟に布を追って掴んで、部屋に戻らなきゃ、という一心で一生懸命に足を動かして走り去った。
なんとか戻ってこれた自室で上がる息と胸を押さえながら、スノウは扉を背にその場でしゃがみ込む。なんとか落ち着いてきた息を整えて握りしめていた布に顔を埋めた。
あの人は嫌な目を向けなかった。そんな事をぼんやりと思い返しながら。
勉強は文字の勉強と国の名前と身分社会、道徳、基本マナーがメインとなる。
学ぶうちに、クリスティーナが王妃殿下である事を教えられる。そんな凄い人に面倒を見てもらえているが、まだ5歳のスノウには理解し辛かった。ただ、彼女の中で小さな感情の芽吹く。
「おね…………さま。おか……さま。おかあさま。……?」
親代わりと言ったクリスティーナを、家族の名前で呼ぶなら何になるのだろうと、道徳の教科書の中に書かれていた絵を見ながら考えた。
お母様だったら良いのになぁと、教科書の文字をそっと指先で撫でて、クリスティーナが柔らかくて抱いた感触に思いを馳せた。
「さぁ、スノウ様もお勉強の時間ですよ」
こくりと頷いた彼女は、抱きしめていたぬいぐるみを長椅子にそっと置いて、垂れた耳をモフモフと堪能してから教師が来る勉強ようの部屋へと赴いた。
クリスティーナが突如部屋に訪れてから、スノウの全てが変わって行った。
服が可愛くて素敵なものに変わって、たくさん増えた。帽子も貰えたから嬉しかった。
ずっと同じ人が1人側にいるようになった。
勉強は絵本を与えられていたけれど、教える人が来るようになった。
難しいけれど、文字をちゃんと書けるようになれば、クリスティーナへとお手紙を書けるかも知れない。また「偉いわ」って言って貰えるかもしれないと思うと、少しずつやる気が湧いた。
あの日クリスティーナが言っていたことは、勉強をする内になんとなく理解し始めていた。
スノウは何故自分がここに居るのか、誰も側に居てくれないのか、どうして嫌な目をスノウ自身、特に髪に向けられるのかがずっと分からなかった。
部屋から出てはダメと言われていたけれど、あの日はとても天気が良くて、どうしてもちょっとだけでも外に出てみたくなったのだ。
皆んなと違う髪を隠したら大丈夫、ちょっとだけ出てすぐ帰ればと自分自身に沢山言い訳した。クローゼットの隅に落ちていた布を手に掴んで被ると、そっと部屋のドアノブを掴んだ。
人を避けてウロウロしているうちに庭に辿り着き、陽の眩しさに目を細めて綺麗な花や初めて見る虫に夢中になった。
いつの間にか庭の奥までたどり着き、東屋の中へと足を踏み入れると、小鳥が舞い降りて可愛い声で鳴いた。その時だった、─ コツリ─と靴音が聞こえて驚いて振り返ると、クリスティーナが驚いた顔をして立っていた。
小鳥に夢中になって気付かなかったスノウは、また嫌な目で見られる、部屋から出ていて怒られると、パニックに陥った。どうしようもない震えが伝わったのか、頭から布がハラリと落ちた。
咄嗟に布を追って掴んで、部屋に戻らなきゃ、という一心で一生懸命に足を動かして走り去った。
なんとか戻ってこれた自室で上がる息と胸を押さえながら、スノウは扉を背にその場でしゃがみ込む。なんとか落ち着いてきた息を整えて握りしめていた布に顔を埋めた。
あの人は嫌な目を向けなかった。そんな事をぼんやりと思い返しながら。
勉強は文字の勉強と国の名前と身分社会、道徳、基本マナーがメインとなる。
学ぶうちに、クリスティーナが王妃殿下である事を教えられる。そんな凄い人に面倒を見てもらえているが、まだ5歳のスノウには理解し辛かった。ただ、彼女の中で小さな感情の芽吹く。
「おね…………さま。おか……さま。おかあさま。……?」
親代わりと言ったクリスティーナを、家族の名前で呼ぶなら何になるのだろうと、道徳の教科書の中に書かれていた絵を見ながら考えた。
お母様だったら良いのになぁと、教科書の文字をそっと指先で撫でて、クリスティーナが柔らかくて抱いた感触に思いを馳せた。
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