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クリスティーナは約束通り時間が空けば、スノウの元へ行き顔を見せた。

公にできない存在とはいえ、妊娠出産が広まっていた以上、スノウの存在は公然の秘密だったようで、王宮侍女や一部貴族は知るところであった。

そんなスノウの世話は当初用意した乳母が一時任されていたが、離乳後は世話係に上がる事なく職を辞してしまい、今までは王宮侍女が交代で行っていた。

ある程度人は居るが寄り添う者は無く、孤独の中で生きてきたスノウにとって、クリスティーナの存在は戸惑いしかないのだろう。

スノウの私室に初めて足を踏み入れた日から早2ヶ月だが、未だに人慣れぬ子うさぎのようにピルピル震えて隅っこに陣取っている。

焦ってはダメだと分かっていても、クリスティーナは苦笑が漏れてしまう。


「でも、まぁ……」


それでもカーテンの後ろに隠れることがなくなり、ずっと大事そうに抱きしめているウサギのぬいぐるみを見ると


「少しは前進しているのかな?」


少しずつゆっくりと歩み寄るクリスティーナは、優しくスノウの手を取ってリフレッシュタイムを美幼女と堪能すべく、王族区の庭が望める大きな窓のあるサロンへと連れて行った。


暖かな日差しの中、向かいの席に座るスノウへと暖かいハニーミルクを勧める。

今日のスノウの洋服は、クリスティーナが用意した中でもお気に入りの、薄いパステルイエローに碧の襟やパイピングが可愛いセーラー風ワンピースだ。
ちょっと自分の趣味に走り過ぎたことは否めないが、自腹で用意しているので文句は受け付けませんと、意気揚々と用意した逸品である。
長く伸びた髪を内側にくるくると丸めてボブ風にして、真っ赤なリボンをカチューシャっぽく飾るように指示もしたのだ。スノウの今の装いは、現代アレンジ・ロリ風白雪スタイルだろうか。

あまりの可愛さにデレデレするクリスティーナを、向いに座るスノウは知る由もなく不思議そうに見つめ返すだけだが。


「あ、そうそう、スノウは夜会ってわかるかな?そう、えらいわね。私も次の夜会から正式に出席することになったの。今まで以上に忙しくなるから終わるまでの間、寂しくさせちゃうかもしれないわ。みんなにお願いはするけれど、何かあったら…無くてもお手紙書いて知らせてくれる?」


クリスティーナの告げた言葉に、一瞬キュッとぬいぐるみを抱く腕に力が込められる。けれど、それを表に出さずにまた静かにこくりと頷くスノウにクリスティーナは「我慢し過ぎはダメよ」と手を伸ばして頬を撫でた。
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