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自分の新妻が前妻の子供と遭遇したことなど露知らず、アシェリードはその日の最低限の公務を熟して、いそいそと王族居住区へと向かう。
いくら新婚といえども国のトップ。
1週間の婚姻休暇でも最重要書類の処理を熟さなくてはならず、この日の朝、疲れ果てて熟睡する美しい新妻をベッドに残しつつ、後ろ髪を引かれる思いで執務室に向かったのだ。
いつもより書類が少なく、人の出入りも最小限な執務室。
これまでは侍従や近衛騎士も思わず襟首を緩めたくなるほどの張り詰めた重苦しい空気だったが、今日は爽やかな春風が吹くが如く柔らかだった。
「小さな花が舞い踊るのが見えた」とは、いつも感じるプレッシャーに胃をキリキリと痛めている侍従の言葉である。
そして間も無く夕方に差し掛かろうとしている時間、王族居住区に足を踏み入れてキリッとした顔を装いつつ、静かに控える使用人に新妻の居場所を確認する。
「寝所に居られます」
「……そうか」
足を止めずに真っ直ぐ寝室に向かうアシェリード。この時はおそらく薔薇の花びらでも舞い踊りそうなくらい浮き足立った雰囲気を撒き散らしていた。
思い起こすのは昨夜の睦事。
初めてなのに、無理をさせてしまった感は否めない。仕方ない、国王と言ってもアシェリードは26歳の男盛り。国一番の美姫とも言える新妻の吸い付く様な白い肌が羞恥で赤く染まる様や、凛とした声が甘く濡れて自分の名前を呼び続ける(自身でそう強制したのだが)事に、歯止めが効かなくて何度も求めてしまったのだ。
逸る気持ちを押さえながら素早く着替えを済ませ、ラフな格好に着替えたアシェリードは寝室のドアを薄く開いて身を滑り込ませる。
大きな寝台の奥側に山を見つけ、回り込んで腰掛けた。
「クリスティーナ?寝てるのか?」
まだ時間は夕方前。寝ているはずはないと思いながら、そっと上掛けを捲る。
「んんー……あ、アシェリード様、お疲れ様~」
しどけなく色っぽい雰囲気を期待していたアシェリードだったが、口を尖らせて何やら考え込んでいた新妻に少々肩透かしを食らったのだが、コホンと咳払いをして雰囲気は作り出せばいいのだからと気持ちを立て直す。
「身体はどうだ?昨夜は無理をさせた」
「あー……まぁ、処女に対して容赦ないのは如何なものかと思いますが…」
「すまない、君が余りにも扇情的で理性が」
「まぁ、そんな事よりもです。お伺いしたい事がございましてっ」
クリスティーナの顔の横に手をついて、ゆっくりと覆い被さり口付けようとしていたアシェリード。あわよくばこれからもう一度……と想像しながら迫ったのだが、「そんな事」と甘い雰囲気を跳ね飛ばされてしまい、複雑な男心に内心涙しながら座り直した。
「んしょんしょ」と起き上がってベッドのヘッドボードへとずり下がろうとするクリスティーナを手伝って背の後ろにクッションを挟ませてやった。
そんな小さな事でも可愛いなと微笑ましく思っていると、にっこり微笑んだクリスティーナの口から爆弾が飛び出した。
「ありがとうございます。あの、今日、庭で姫?にお会いしましたの」
いくら新婚といえども国のトップ。
1週間の婚姻休暇でも最重要書類の処理を熟さなくてはならず、この日の朝、疲れ果てて熟睡する美しい新妻をベッドに残しつつ、後ろ髪を引かれる思いで執務室に向かったのだ。
いつもより書類が少なく、人の出入りも最小限な執務室。
これまでは侍従や近衛騎士も思わず襟首を緩めたくなるほどの張り詰めた重苦しい空気だったが、今日は爽やかな春風が吹くが如く柔らかだった。
「小さな花が舞い踊るのが見えた」とは、いつも感じるプレッシャーに胃をキリキリと痛めている侍従の言葉である。
そして間も無く夕方に差し掛かろうとしている時間、王族居住区に足を踏み入れてキリッとした顔を装いつつ、静かに控える使用人に新妻の居場所を確認する。
「寝所に居られます」
「……そうか」
足を止めずに真っ直ぐ寝室に向かうアシェリード。この時はおそらく薔薇の花びらでも舞い踊りそうなくらい浮き足立った雰囲気を撒き散らしていた。
思い起こすのは昨夜の睦事。
初めてなのに、無理をさせてしまった感は否めない。仕方ない、国王と言ってもアシェリードは26歳の男盛り。国一番の美姫とも言える新妻の吸い付く様な白い肌が羞恥で赤く染まる様や、凛とした声が甘く濡れて自分の名前を呼び続ける(自身でそう強制したのだが)事に、歯止めが効かなくて何度も求めてしまったのだ。
逸る気持ちを押さえながら素早く着替えを済ませ、ラフな格好に着替えたアシェリードは寝室のドアを薄く開いて身を滑り込ませる。
大きな寝台の奥側に山を見つけ、回り込んで腰掛けた。
「クリスティーナ?寝てるのか?」
まだ時間は夕方前。寝ているはずはないと思いながら、そっと上掛けを捲る。
「んんー……あ、アシェリード様、お疲れ様~」
しどけなく色っぽい雰囲気を期待していたアシェリードだったが、口を尖らせて何やら考え込んでいた新妻に少々肩透かしを食らったのだが、コホンと咳払いをして雰囲気は作り出せばいいのだからと気持ちを立て直す。
「身体はどうだ?昨夜は無理をさせた」
「あー……まぁ、処女に対して容赦ないのは如何なものかと思いますが…」
「すまない、君が余りにも扇情的で理性が」
「まぁ、そんな事よりもです。お伺いしたい事がございましてっ」
クリスティーナの顔の横に手をついて、ゆっくりと覆い被さり口付けようとしていたアシェリード。あわよくばこれからもう一度……と想像しながら迫ったのだが、「そんな事」と甘い雰囲気を跳ね飛ばされてしまい、複雑な男心に内心涙しながら座り直した。
「んしょんしょ」と起き上がってベッドのヘッドボードへとずり下がろうとするクリスティーナを手伝って背の後ろにクッションを挟ませてやった。
そんな小さな事でも可愛いなと微笑ましく思っていると、にっこり微笑んだクリスティーナの口から爆弾が飛び出した。
「ありがとうございます。あの、今日、庭で姫?にお会いしましたの」
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