6 / 63
6.
しおりを挟む
「─ さて…この度のこと、急で申し訳なかった」
「いえ……」
「元老院が決定してね。いつの間にか君を選び出して、候補に名前が上がったと思ったらあっという間だったよ。色々忙しくしていただろうに……しかし君以上に適した人物も居ないのも確か。難しいポストだと思うが、受け入れてくれると嬉しい」
ド直球に本題を投げてよこしたアシェリードに、クリスティーナは「ん゛ん゛っ」と詰まりそうになる喉を叱咤して何とか誤魔化してみた。
「コホン、失礼いたしました。
私を評価してくださったこと、嬉しく思いますが……力不足かと。亡くなられた王妃様を思いますと、私なんかでは」
しおらしく、遠慮と見せかけた断りの序章を紡ぎ始めるクリスティーナ。しかしアシェリードはフッと自嘲するような笑みを漏らして続く言葉を止めさせた。
「あぁ、あれは民に人気があったからな」
その鼻でちょっぴり嘲るような息遣いに、クリスティーナは気のせい?と目を瞬かせた。
「まぁ、君の功績はユイマール侯爵領でも周知の事実。国内でその仕組みを徐々に広げていけば、君の人気はあっという間にアレを超えるだろう」
やはり気のせいではないのだろう。アシェリードが愛しんで居たはずの前王妃を「アレ」と言い放ったのだ。何があったかは知らないが、故人を鼻で嗤うのは如何なものかと眉を寄せる。
「あの、私以外にも……」
「君を逃すと他はデビュー前くらいになる。これでも25になる。開きすぎる年齢は侮られやすいし、流石に趣味じゃ無い」
「…そ、ですか」
「これは王命だ。披露目は来年春先。それまでに王族として色々学んでもらう事になる。よろしく頼む」
ここに至って、クリスティーナは自分に退路がないことに気付く。それでもクリスティーナの口は、今までの回避癖のせいか返す言葉がどうしても、
「……謹んで、お……受け、いた……し、ます」
辿々しくなるのは、「NO!」と叫びだしたくなるのを気力で押さえ込んでいるからで。何とかギリギリ「YES」と絞り出せた事は、心の底から褒めてあげてほしいものである。
「いえ……」
「元老院が決定してね。いつの間にか君を選び出して、候補に名前が上がったと思ったらあっという間だったよ。色々忙しくしていただろうに……しかし君以上に適した人物も居ないのも確か。難しいポストだと思うが、受け入れてくれると嬉しい」
ド直球に本題を投げてよこしたアシェリードに、クリスティーナは「ん゛ん゛っ」と詰まりそうになる喉を叱咤して何とか誤魔化してみた。
「コホン、失礼いたしました。
私を評価してくださったこと、嬉しく思いますが……力不足かと。亡くなられた王妃様を思いますと、私なんかでは」
しおらしく、遠慮と見せかけた断りの序章を紡ぎ始めるクリスティーナ。しかしアシェリードはフッと自嘲するような笑みを漏らして続く言葉を止めさせた。
「あぁ、あれは民に人気があったからな」
その鼻でちょっぴり嘲るような息遣いに、クリスティーナは気のせい?と目を瞬かせた。
「まぁ、君の功績はユイマール侯爵領でも周知の事実。国内でその仕組みを徐々に広げていけば、君の人気はあっという間にアレを超えるだろう」
やはり気のせいではないのだろう。アシェリードが愛しんで居たはずの前王妃を「アレ」と言い放ったのだ。何があったかは知らないが、故人を鼻で嗤うのは如何なものかと眉を寄せる。
「あの、私以外にも……」
「君を逃すと他はデビュー前くらいになる。これでも25になる。開きすぎる年齢は侮られやすいし、流石に趣味じゃ無い」
「…そ、ですか」
「これは王命だ。披露目は来年春先。それまでに王族として色々学んでもらう事になる。よろしく頼む」
ここに至って、クリスティーナは自分に退路がないことに気付く。それでもクリスティーナの口は、今までの回避癖のせいか返す言葉がどうしても、
「……謹んで、お……受け、いた……し、ます」
辿々しくなるのは、「NO!」と叫びだしたくなるのを気力で押さえ込んでいるからで。何とかギリギリ「YES」と絞り出せた事は、心の底から褒めてあげてほしいものである。
48
お気に入りに追加
2,751
あなたにおすすめの小説




愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる