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正直なところ、隣国で羽を伸ばしまくっていたクリスティーナにとって、最敬礼は神経も普段使わなすぎる筋肉を酷使するため、とてもではないがキープし続ける自信がこれっぽっちもなかった。
なので、かけられた声に内心で盛大に安堵の息を吐きながらササッと姿勢を戻す。
その瞬間、クリスティーナは目の前の人物、この国の現在の王であるアシェリードと視線が絡んだ。
「…………っ」
クリスティーナの顔を真正面から目にしたその人物は、息を飲み呆気に取られた顔をしたかと思うと数度パチパチと瞬きをしてからそうと分からない様に取り繕うべく柔らかく微笑む。
クリスティーナはその変化に内心「そうでしょうな」と納得を返す。今のクリスティーナの外見は今まで……というか数時間前までとは全く違っているのだから。
「こうしてちゃんと挨拶するのは初めてかな。クリスティーナ・ユイマール侯爵令嬢」
「お初にお目もじ致します。ユイマール侯爵家が次女 クリスティーナより英明な陛下にご挨拶申し上げます」
「社交界デビューはしていなかったのかな?」
「少しばかり学問の道に没頭しておりまして。ちょうど学術院の入試試験の締め切り時期と被りましたもので…ホホ」
「そうか」と時期が外れていた気がするような?とやや納得していなさそうなアシェリードは、嘘くさい笑みを貼り付けたクリスティーナを席へと促した。
共に着席した2人は、使用人の給仕が終わるのを一時待つ。
その間、なんとも言えない緊張感が場を支配する。
淑やかそうに視線を手元に落としていたクリスティーナは、こんな時でもお断りする方法をあれこれ考えていたのだが、眼前に座るアシェリードには分かるはずもなく。戸惑っているかなと、少々性急だった呼び出しに申し訳なく思い気遣わしげな視線を送っていた。
準備が整い、アシェリードが手で合図を出して下がらせると、「君も飲むといい」と優しい声色がクリスティーナへかけられる。
「あ、ありがとうございます」
勧められておずおずと茶器に手を伸ばすが、静まり返った室内では僅かばかりの茶器の音だけがやけに大きく聞こえて身を竦ませるばかりだ。静寂すら耳に痛い。
クリスティーナは『ガッチャーンっと、盛大にひっくり返して粗相をしたら不敬で王妃内定取り消しとかならないかな?』とか思っていたが、流石に国のトップの眼前でチャレンジする勇気は持ち合わせていなかった。
なので、かけられた声に内心で盛大に安堵の息を吐きながらササッと姿勢を戻す。
その瞬間、クリスティーナは目の前の人物、この国の現在の王であるアシェリードと視線が絡んだ。
「…………っ」
クリスティーナの顔を真正面から目にしたその人物は、息を飲み呆気に取られた顔をしたかと思うと数度パチパチと瞬きをしてからそうと分からない様に取り繕うべく柔らかく微笑む。
クリスティーナはその変化に内心「そうでしょうな」と納得を返す。今のクリスティーナの外見は今まで……というか数時間前までとは全く違っているのだから。
「こうしてちゃんと挨拶するのは初めてかな。クリスティーナ・ユイマール侯爵令嬢」
「お初にお目もじ致します。ユイマール侯爵家が次女 クリスティーナより英明な陛下にご挨拶申し上げます」
「社交界デビューはしていなかったのかな?」
「少しばかり学問の道に没頭しておりまして。ちょうど学術院の入試試験の締め切り時期と被りましたもので…ホホ」
「そうか」と時期が外れていた気がするような?とやや納得していなさそうなアシェリードは、嘘くさい笑みを貼り付けたクリスティーナを席へと促した。
共に着席した2人は、使用人の給仕が終わるのを一時待つ。
その間、なんとも言えない緊張感が場を支配する。
淑やかそうに視線を手元に落としていたクリスティーナは、こんな時でもお断りする方法をあれこれ考えていたのだが、眼前に座るアシェリードには分かるはずもなく。戸惑っているかなと、少々性急だった呼び出しに申し訳なく思い気遣わしげな視線を送っていた。
準備が整い、アシェリードが手で合図を出して下がらせると、「君も飲むといい」と優しい声色がクリスティーナへかけられる。
「あ、ありがとうございます」
勧められておずおずと茶器に手を伸ばすが、静まり返った室内では僅かばかりの茶器の音だけがやけに大きく聞こえて身を竦ませるばかりだ。静寂すら耳に痛い。
クリスティーナは『ガッチャーンっと、盛大にひっくり返して粗相をしたら不敬で王妃内定取り消しとかならないかな?』とか思っていたが、流石に国のトップの眼前でチャレンジする勇気は持ち合わせていなかった。
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