5 / 63
5.
しおりを挟む
正直なところ、隣国で羽を伸ばしまくっていたクリスティーナにとって、最敬礼は神経も普段使わなすぎる筋肉を酷使するため、とてもではないがキープし続ける自信がこれっぽっちもなかった。
なので、かけられた声に内心で盛大に安堵の息を吐きながらササッと姿勢を戻す。
その瞬間、クリスティーナは目の前の人物、この国の現在の王であるアシェリードと視線が絡んだ。
「…………っ」
クリスティーナの顔を真正面から目にしたその人物は、息を飲み呆気に取られた顔をしたかと思うと数度パチパチと瞬きをしてからそうと分からない様に取り繕うべく柔らかく微笑む。
クリスティーナはその変化に内心「そうでしょうな」と納得を返す。今のクリスティーナの外見は今まで……というか数時間前までとは全く違っているのだから。
「こうしてちゃんと挨拶するのは初めてかな。クリスティーナ・ユイマール侯爵令嬢」
「お初にお目もじ致します。ユイマール侯爵家が次女 クリスティーナより英明な陛下にご挨拶申し上げます」
「社交界デビューはしていなかったのかな?」
「少しばかり学問の道に没頭しておりまして。ちょうど学術院の入試試験の締め切り時期と被りましたもので…ホホ」
「そうか」と時期が外れていた気がするような?とやや納得していなさそうなアシェリードは、嘘くさい笑みを貼り付けたクリスティーナを席へと促した。
共に着席した2人は、使用人の給仕が終わるのを一時待つ。
その間、なんとも言えない緊張感が場を支配する。
淑やかそうに視線を手元に落としていたクリスティーナは、こんな時でもお断りする方法をあれこれ考えていたのだが、眼前に座るアシェリードには分かるはずもなく。戸惑っているかなと、少々性急だった呼び出しに申し訳なく思い気遣わしげな視線を送っていた。
準備が整い、アシェリードが手で合図を出して下がらせると、「君も飲むといい」と優しい声色がクリスティーナへかけられる。
「あ、ありがとうございます」
勧められておずおずと茶器に手を伸ばすが、静まり返った室内では僅かばかりの茶器の音だけがやけに大きく聞こえて身を竦ませるばかりだ。静寂すら耳に痛い。
クリスティーナは『ガッチャーンっと、盛大にひっくり返して粗相をしたら不敬で王妃内定取り消しとかならないかな?』とか思っていたが、流石に国のトップの眼前でチャレンジする勇気は持ち合わせていなかった。
なので、かけられた声に内心で盛大に安堵の息を吐きながらササッと姿勢を戻す。
その瞬間、クリスティーナは目の前の人物、この国の現在の王であるアシェリードと視線が絡んだ。
「…………っ」
クリスティーナの顔を真正面から目にしたその人物は、息を飲み呆気に取られた顔をしたかと思うと数度パチパチと瞬きをしてからそうと分からない様に取り繕うべく柔らかく微笑む。
クリスティーナはその変化に内心「そうでしょうな」と納得を返す。今のクリスティーナの外見は今まで……というか数時間前までとは全く違っているのだから。
「こうしてちゃんと挨拶するのは初めてかな。クリスティーナ・ユイマール侯爵令嬢」
「お初にお目もじ致します。ユイマール侯爵家が次女 クリスティーナより英明な陛下にご挨拶申し上げます」
「社交界デビューはしていなかったのかな?」
「少しばかり学問の道に没頭しておりまして。ちょうど学術院の入試試験の締め切り時期と被りましたもので…ホホ」
「そうか」と時期が外れていた気がするような?とやや納得していなさそうなアシェリードは、嘘くさい笑みを貼り付けたクリスティーナを席へと促した。
共に着席した2人は、使用人の給仕が終わるのを一時待つ。
その間、なんとも言えない緊張感が場を支配する。
淑やかそうに視線を手元に落としていたクリスティーナは、こんな時でもお断りする方法をあれこれ考えていたのだが、眼前に座るアシェリードには分かるはずもなく。戸惑っているかなと、少々性急だった呼び出しに申し訳なく思い気遣わしげな視線を送っていた。
準備が整い、アシェリードが手で合図を出して下がらせると、「君も飲むといい」と優しい声色がクリスティーナへかけられる。
「あ、ありがとうございます」
勧められておずおずと茶器に手を伸ばすが、静まり返った室内では僅かばかりの茶器の音だけがやけに大きく聞こえて身を竦ませるばかりだ。静寂すら耳に痛い。
クリスティーナは『ガッチャーンっと、盛大にひっくり返して粗相をしたら不敬で王妃内定取り消しとかならないかな?』とか思っていたが、流石に国のトップの眼前でチャレンジする勇気は持ち合わせていなかった。
49
お気に入りに追加
2,751
あなたにおすすめの小説




愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる