4 / 63
4.
しおりを挟む
「……これって回避」
「王家の印が押された王命だ」
「……結婚してましたってわけには」
「既に調査が入っているわよ。そもそも相手は誰?」
「……あ、処女じゃなくなれば」
「あと数時間でどうやるんだよ。て言うか貴族令嬢が、親の前で口にしていい言葉じゃないぞ」
ややパニックに陥ったまま端ない言葉を口にしたクリスティーナのおでこを、兄が指先で弾いて制裁を加える。クリスティーナはヒリヒリと痛むおでこを撫でつつ、現状を一言で言い表した。
「…………詰んだ」
まさに、その通りであった。
そうして手紙にあった通り、お迎えの先触れがあっという間にやってきてしまい、病み上がりにもかかわらず問題なしと医者から太鼓判を押されたクリスティーナは、王家からのお迎えの馬車に逃げる間もなく押し込められ、王宮へと連れて行かれたのだった。
有無を言わさず王宮の奥へ奥へと連れてこられ、服を剥ぎ取られ、風呂に入れられ磨かれ、その間に家から届いた数枚しかない中でも一応最も高価なドレスを着せられ、化粧をされて髪を整えられて飾り付けられたクリスティーナは、精神的にもヘトヘトになりながら王族の区域の一画へと連れてこられた。
「此方でお待ちです」
そう言ったのは、知らぬうちに彼女専属となったらしい王宮侍女長も兼任するミラ。
淡々とクリスティーナを褒める言葉には、本心が伺えないが、嘘を言っている目でもないのでクリスティーナは微妙な顔をしながら「はぁ…」とだけ返事をしたのだが。
淡々と仕事をこなす彼女の先導でついて行った先で、クリスティーナは先の言葉を言われてゴクリと喉を鳴らした。
思えば目立たないように、地味に野暮ったくを目指して居たため、髪はボサボサか敢えてのおさげスタイル、前髪は伸ばしっぱなしで顔を隠していたのだが、先程止める間も無く毛先を揃えられ、前髪も絶妙な感じに整えられてしまい、視界が実に明瞭となってしまっていた。
スースーするオデコが気になって前髪をちょいちょいと弄っているうちに、侍女のミラが中の侍従とやり取りを終えて礼を取りながらススっと下がっていった。
それと同時に重厚な扉がゆっくりと開かれ、クリスティーナは覚悟を固め切る事なく、促されるまま室内へと恐々足を踏み入れた。
サロンには上部分が半円になっているテラス窓が大きくとられていて、そこから美しい花々が咲き誇る庭が見える。その窓近くにテーブルと2脚の椅子が置かれ、茶器や花瓶が置かれている。
どうやらお茶をしながら話を進められるようだと、クリスティーナは状況を見て理解する。
窓際に佇んで景色を眺めていた人物がクリスティーナの近づく気配に反応してゆっくりと振り返る。
それに合わせてクリスティーナは深々と腰を落としたカーテシーをしながら頭を垂れてみせた。
王族に対する淑女の最敬礼だ。
「よい、ここは公ではない。顔を上げて楽にしてくれ」
「王家の印が押された王命だ」
「……結婚してましたってわけには」
「既に調査が入っているわよ。そもそも相手は誰?」
「……あ、処女じゃなくなれば」
「あと数時間でどうやるんだよ。て言うか貴族令嬢が、親の前で口にしていい言葉じゃないぞ」
ややパニックに陥ったまま端ない言葉を口にしたクリスティーナのおでこを、兄が指先で弾いて制裁を加える。クリスティーナはヒリヒリと痛むおでこを撫でつつ、現状を一言で言い表した。
「…………詰んだ」
まさに、その通りであった。
そうして手紙にあった通り、お迎えの先触れがあっという間にやってきてしまい、病み上がりにもかかわらず問題なしと医者から太鼓判を押されたクリスティーナは、王家からのお迎えの馬車に逃げる間もなく押し込められ、王宮へと連れて行かれたのだった。
有無を言わさず王宮の奥へ奥へと連れてこられ、服を剥ぎ取られ、風呂に入れられ磨かれ、その間に家から届いた数枚しかない中でも一応最も高価なドレスを着せられ、化粧をされて髪を整えられて飾り付けられたクリスティーナは、精神的にもヘトヘトになりながら王族の区域の一画へと連れてこられた。
「此方でお待ちです」
そう言ったのは、知らぬうちに彼女専属となったらしい王宮侍女長も兼任するミラ。
淡々とクリスティーナを褒める言葉には、本心が伺えないが、嘘を言っている目でもないのでクリスティーナは微妙な顔をしながら「はぁ…」とだけ返事をしたのだが。
淡々と仕事をこなす彼女の先導でついて行った先で、クリスティーナは先の言葉を言われてゴクリと喉を鳴らした。
思えば目立たないように、地味に野暮ったくを目指して居たため、髪はボサボサか敢えてのおさげスタイル、前髪は伸ばしっぱなしで顔を隠していたのだが、先程止める間も無く毛先を揃えられ、前髪も絶妙な感じに整えられてしまい、視界が実に明瞭となってしまっていた。
スースーするオデコが気になって前髪をちょいちょいと弄っているうちに、侍女のミラが中の侍従とやり取りを終えて礼を取りながらススっと下がっていった。
それと同時に重厚な扉がゆっくりと開かれ、クリスティーナは覚悟を固め切る事なく、促されるまま室内へと恐々足を踏み入れた。
サロンには上部分が半円になっているテラス窓が大きくとられていて、そこから美しい花々が咲き誇る庭が見える。その窓近くにテーブルと2脚の椅子が置かれ、茶器や花瓶が置かれている。
どうやらお茶をしながら話を進められるようだと、クリスティーナは状況を見て理解する。
窓際に佇んで景色を眺めていた人物がクリスティーナの近づく気配に反応してゆっくりと振り返る。
それに合わせてクリスティーナは深々と腰を落としたカーテシーをしながら頭を垂れてみせた。
王族に対する淑女の最敬礼だ。
「よい、ここは公ではない。顔を上げて楽にしてくれ」
49
お気に入りに追加
2,751
あなたにおすすめの小説




愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる