別に要りませんけど?

ユウキ

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サイドストーリー・妹の冒険

逃走

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 自室へ入るなり私は使用人を下がらせ、衣裳室へと駆け込み、買い付けの時に偶に使うリュックを持ちだした。下町徘徊用の簡素なワンピース二着、男装用の服、針金と……と言った風に着替えや必要最低限の道具などを次々と押し込み、手早く自身の着替えを済ませると、最後にブーツに履き替えた。

 部屋の灯りを消して、手元を照らすランプに切り替えると、ベッドの掛け布の下に服やシーツを寄せ集めて形作った。一応時間稼ぎに偽装しとかなね。

 ポシェットの男性版みたいな胴体にピタッと沿う斜め掛けの鞄を着けると、中に銀貨や換金しやすい宝石類を入れ込んでいく。

 緊急買い付け用にと、小遣いを手元に置いといてほんま良かったわ。
 その上に上着を着て、リュックを背負った。

 夜中も過ぎて皆が寝静まったやろうと思わしき時間。

 そっと窓を開けると、長い組紐で一つにまとめた髪が夜風に揺れた。窓下を見回りが過ぎて行ったのを見て、窓から外へと体を静かに出す。外壁の窓枠の装飾にブーツに足先を掛けて、バランスを取ると、窓をかっちりと閉める。足をかけた装飾の少し下にある出っ張りに足を慎重におろした。

 慎重に壁に張り付きながら進むと、近くに太い木の枝が差し掛かり、それを持って一息吐く。ザザッと風が吹くタイミングに合わせて、体重全てを木に移す。

 ガサササッ!

 割と大きい音が出たが、気付かれた感じはなく、どこも静かなものだ。

 ここまで来ると、あとは簡単。山猿よろしくするすると木を降りきって警備に注意しながら駆け出した。

 やっとこさ使用人用の出入り口まで辿り着くと、重厚な扉にはもちろん閂と鍵はかかっていた。しかし、そっと長めの針金折り畳んで持ちやすくすると、鍵穴に入れてかちゃかちゃと動かした。

 ── カチャリ

 よっっしゃっ!

 次に曲げた針金を伸ばし、閂の片側に軽くひっかけて、外へ出てからグッと引っ張るとゴトッという音と共に閂が落ちる音がした。

 念のために扉を押して開かないことを確認すると、鍵を弄ってもう一度閉めたった。


「ふふふ。これぞ完全犯罪や」


 ニンマリと笑ってリュックをヨイショと背負い直し真っ暗な空に、鋭い三日月だけが浮かぶ薄暗がりの中、自由を勝ち取るために駆け出した
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