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はた迷惑な決断ですわ
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恋人との短い別れを終えた殿下が、陛下に頭を下げる。
陛下は苦虫を噛み潰したような顔で手を振って「よい、座れ」と命じた。
「さて、ハイデリウスの処遇だが……」
重苦しいため息を吐いた陛下は、チラリと王妃陛下へと目を向ける。王妃陛下は穏やかな微笑みに少しの悲しみを混ぜて、黙したまま見つめ返していた。
“全ては国王陛下のお心のままに”というか意思表示なのだろう。
「我が膝下で王命の婚約を無断で破り、離宮での謹慎を抜け出して極秘の脱出路を無断使用。大事には至らなかったが、王宮を危機に陥れる惨事につながりかねない所業であった。
よって、お前の王位継承権の剥奪、王籍を抜けて臣下へ降ることを命ずる」
「……っはい。承りました」
頭を垂れて、拳を握りしめた殿下の方が震えていた。自分でしでかしたこととはいえ、少々可哀想に思えてきてしまう。
「その行き先だが……」
そういえば臣籍降下は何処になるのだろう?一代限りの公爵家は、私がいてこそのお話であったはずだし。ここまでやらかせば中央に置いておくのも難しいだろうし。
そう思ってチラッと陛下を窺うと、陛下は顎を摩りながら横目でこちらを見ていた。
………………いやいや…………え?うそ私?
私、一応婚約者いますし無理ですよ?
って、ちょっと視線ずれてる……?
よくよく視線の先を辿ると、その先はどうやら私の隣へと注がれているようだった。
私はその事実に閉口するしかない。
確かに中央から離れて……は、いるわね。
繋がりも私のお父様なら、安心安全ね。
私は隣に座るオーウェンを横目で窺った。
………目をきつく閉じて眉間に皺を寄せているわ。
これ…………は、察してしまったわね。
「ディモアール辺境領へ」
「異議ありっ!陛下、幾らなんでもそれはっ」
「異議は却下だディモアール」
「毎回変なのを送ってきますけど、辺境は人材捨て場ではないのですよっ!」
陛下の言葉に、咄嗟に席を倒す勢いで立ち上がって異議を申し立てたオーウェン。
焦るあまり「変なの」「人材捨て場」なんて言葉が連発しているけれど、落ち込んでいる殿下にクリーンヒットしていますわよ?
あらら、泣いちゃってませんか?殿下。
「まぁそれは……次回より善処しよう。だが良いように使ってくれているのではないか?」
「酷使しとかないと、要らんことをしでかしますからね」
「今回は其方の手腕を見込んでこその采配だ。あのハイデリウスをここまで導いてくれたからの」
「くっ……しかし、」
「最近辺境領への移住者が多い様だし、ハイデリウスを置くことで中央との繋がりを置くことで、周りの貴族のやっかみも減らせるだろう。悪い話ばかりではないと思うが」
「それに私が育てた便利な人材を掻っ攫っていくのですもの。これくらいは飲むべきですわよ」
……王妃陛下、今なんだか私の名前に変な意味を持たせておりませんでした?
バッチリ目があった王妃陛下に、ニッコリと微笑まれてしまいましたわ。あの笑顔、やっぱり恐ろしいですわね。
「…………はぁ、分かりました。辺境伯への説明として一筆書いてくださいね」
オーウェンは頭で色々算段をつけたのか、がっくりとうなだれてそれ以上の追求はせずに了承の意を返した。
涙で潤んだ目をオーウェンに向けた殿下を視界の端で捉えながら、私のオーウェンと同じように肩を落としたのだった。
陛下は苦虫を噛み潰したような顔で手を振って「よい、座れ」と命じた。
「さて、ハイデリウスの処遇だが……」
重苦しいため息を吐いた陛下は、チラリと王妃陛下へと目を向ける。王妃陛下は穏やかな微笑みに少しの悲しみを混ぜて、黙したまま見つめ返していた。
“全ては国王陛下のお心のままに”というか意思表示なのだろう。
「我が膝下で王命の婚約を無断で破り、離宮での謹慎を抜け出して極秘の脱出路を無断使用。大事には至らなかったが、王宮を危機に陥れる惨事につながりかねない所業であった。
よって、お前の王位継承権の剥奪、王籍を抜けて臣下へ降ることを命ずる」
「……っはい。承りました」
頭を垂れて、拳を握りしめた殿下の方が震えていた。自分でしでかしたこととはいえ、少々可哀想に思えてきてしまう。
「その行き先だが……」
そういえば臣籍降下は何処になるのだろう?一代限りの公爵家は、私がいてこそのお話であったはずだし。ここまでやらかせば中央に置いておくのも難しいだろうし。
そう思ってチラッと陛下を窺うと、陛下は顎を摩りながら横目でこちらを見ていた。
………………いやいや…………え?うそ私?
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って、ちょっと視線ずれてる……?
よくよく視線の先を辿ると、その先はどうやら私の隣へと注がれているようだった。
私はその事実に閉口するしかない。
確かに中央から離れて……は、いるわね。
繋がりも私のお父様なら、安心安全ね。
私は隣に座るオーウェンを横目で窺った。
………目をきつく閉じて眉間に皺を寄せているわ。
これ…………は、察してしまったわね。
「ディモアール辺境領へ」
「異議ありっ!陛下、幾らなんでもそれはっ」
「異議は却下だディモアール」
「毎回変なのを送ってきますけど、辺境は人材捨て場ではないのですよっ!」
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焦るあまり「変なの」「人材捨て場」なんて言葉が連発しているけれど、落ち込んでいる殿下にクリーンヒットしていますわよ?
あらら、泣いちゃってませんか?殿下。
「まぁそれは……次回より善処しよう。だが良いように使ってくれているのではないか?」
「酷使しとかないと、要らんことをしでかしますからね」
「今回は其方の手腕を見込んでこその采配だ。あのハイデリウスをここまで導いてくれたからの」
「くっ……しかし、」
「最近辺境領への移住者が多い様だし、ハイデリウスを置くことで中央との繋がりを置くことで、周りの貴族のやっかみも減らせるだろう。悪い話ばかりではないと思うが」
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「…………はぁ、分かりました。辺境伯への説明として一筆書いてくださいね」
オーウェンは頭で色々算段をつけたのか、がっくりとうなだれてそれ以上の追求はせずに了承の意を返した。
涙で潤んだ目をオーウェンに向けた殿下を視界の端で捉えながら、私のオーウェンと同じように肩を落としたのだった。
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