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お忘れですわ…
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引っ張り上げられて連れていかれる直前に、涙目の殿下は私をキッと睨んだ。
「元婚約者のくせに、僕がこんな目にあっているのになぜ助けない?!」
「王宮を勝手に抜け出して問題を起こした殿下のせいなので、何も言えませんわ」
「薄情な女だっ、ヘザーならこんな事…」
「そのヘザーなる女性ですけれど、なぜ抜け出してお会いしようと思ったのですか?」
「それは……真実の愛の相手だかr」
「いえ、そうじゃありませんわ。だってまだ王宮にいますでしょう?彼女」
「……………………は?」
婚約破棄後の騒動も、お父様とシェリの情報収集能力で一応耳にはしていた。
要らぬ野心を持った教育係やその家門の側近候補や侍女と言った使用人は全て処された。ヘザーは殿下を誑かした相手として、その家門と関係性の有無も含めて調査が行われているらしい。
それも間もなく終わり、単に殿下が引っ掛けてきた相手という事であれば、後数日のうちに家と本人に厳重注意をして釈放になるのだろう。
ポカンとした殿下は何も知らなかったのか、鳩が豆鉄砲を食ったよう食らったかの様な顔をしている。
……殿下の目の前で牢屋に繋がれることを宣言されたと聞いていたけれど、違うのかしら?
小首を傾げていれば、頭の上から小さなため息が溢れてきた。
「……まさかとは思っていたけど、そのなんちゃらの相手の境遇を忘れていたみたいだな」
「あっ…………」
そんなまさかと思っていると、それを肯定するかの様に小さく声を上げた殿下は顔を青ざめさせている。
「ぅわぁ、それは無いですわ」
私はポツリと本音をこぼすと、殿下は気まずそうに視線を泳がせる。大人しくなった事で運びやすくなったのか、殿下はそのまま勉強部屋まで連行されていった。
「あの……その女性は今も牢に居るのかしら」
婚約破棄宣言の時、殿下の経済状況を知って静かに身を引いていた彼女を思い出す。野心で身を滅ぼした家門と関係ないと思いたいけれど、あれから2ヶ月弱は経つ。同じ女性ながら、牢屋という境遇に思うところがないわけではないから。
「没落しかかってはいるが男爵家の娘だったらしい。貴族牢だろうから、心配はいらないさ」
「そう……」
正直面識もあれ以外は無いし、あんな殿下に運悪く引っかかったとしたら、「お気の毒に」としか言いようがない。けれど、彼女のおかげで私は殿下との婚約がなくなったわけだし……
彼女が困っているなら、少しは助けても良いのかもしれない。
隙あらばあちこちに口づけを落としてくる、私の腰に回された婚約者の手にそっと触れて、そんな事を思っていた。
「元婚約者のくせに、僕がこんな目にあっているのになぜ助けない?!」
「王宮を勝手に抜け出して問題を起こした殿下のせいなので、何も言えませんわ」
「薄情な女だっ、ヘザーならこんな事…」
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「それは……真実の愛の相手だかr」
「いえ、そうじゃありませんわ。だってまだ王宮にいますでしょう?彼女」
「……………………は?」
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それも間もなく終わり、単に殿下が引っ掛けてきた相手という事であれば、後数日のうちに家と本人に厳重注意をして釈放になるのだろう。
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小首を傾げていれば、頭の上から小さなため息が溢れてきた。
「……まさかとは思っていたけど、そのなんちゃらの相手の境遇を忘れていたみたいだな」
「あっ…………」
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「ぅわぁ、それは無いですわ」
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彼女が困っているなら、少しは助けても良いのかもしれない。
隙あらばあちこちに口づけを落としてくる、私の腰に回された婚約者の手にそっと触れて、そんな事を思っていた。
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