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お見通しですわっ

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あれからお父様がきて、私は部屋から出された。
当主として、何やら細かいところを詰めていくのだとか。

私の話なのに出されるなんて?!って言ったけど、「もういいから」と、残念なものを見る目で言われた。……何故かしら。


どうにか邪魔できないかしらと、扉の前で右往左往していたけれど、あっという間に条件は交わされ、両家の契約は合意されてしまった。

柔かな顔でオーウェンと部屋から出てきたお父様は、私を見るなりオーウェンを振り返った。


「こんな娘だが、よろしく頼むよオーウェン君」

「お任せください」


私の前でしっかりと結ばれる握手に、私は血の気の引く思いで呆然と眺めるしかない。


「ではまた後日」


オーウェンがお父様にそう言うと、お父様はしっかりと頷く。そしてオーウェンは父の背後で呆然とする私に進み寄ると、手を掬い取って口づけを落とした。


「また来るよ、アデレイズ嬢」


綺麗な微笑みを浮かべてオーウェンは私の髪をサラリと撫でて、屋敷を後にした。
そのまま呆然としていた私は、撫でられた髪を抑えて小さく呻く。



「……だれ?あれ」



昔はひょろっとして、よく居る貴族の息子然としていて。いつも拗ねたような顔をしていて。お兄様とはすぐに仲良くなったけれど、私には慳貪けんどんな態度で意地悪だった。
「あの子にも事情があってね。優しくしてあげるんだよ」と言うお父様のお言葉が無かったら、もっと早くに脛を蹴り上げたくらいだった。

居なくなる前くらいは蹴ったせいか、意地悪な態度は治ったようだったけれど。

紳士教育のなせる技なのか、久しぶりに目にした彼は品があって優雅な所作で。触れる手は無骨だけれど大きくて優しく暖かい。

あんな茶番劇の流れで微妙に申し込まれた婚約を、律儀に受け取って本物にしちゃうなんて……


「改心し過ぎて最早別人」


それとも、もしかして……


ハッ「新手の嫌がらせ………………?!」


そうだわ!そうに違いない。
婚約が正式に結ばれたら、被っていた善良紳士の皮を脱ぎ捨て、本性を表すかもしれないわよね?そしてまたあいつにイライラする日々が……?!


「そうはさせないわっ!」


次の手を考えなくっちゃっ!




───────────

<補足>

アデレイズのお父様とお母様はオーウェンの気持ちを何となく察していたので、第三王子との婚約後はオーウェンが来てもすれ違わせるなどして会わせませんでした。

偶然娘が引っ掛けた相手がオーウェンと知り、運命なのか、執念なのか計りかねましたが、友人の息子だし優良物件だし、出された条件も良かったのですで即合意しました(笑
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