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オサラバですわ

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協力してくれた男のエスコートを受けて、スタスタと階段を登っていく。後ろでキャンキャン騒いでいたけれど丸っと無視して進み、元々の目的地であった財務部事務官室へと入った。


「付き合ってくださってありがとうございます。もう良いですわ」


ここまで来れば、流石の殿下達も追って来ないだろう。本当にあの場で咄嗟に合わせて協力してくれたどこぞの彼には感謝しかない。

エスコートのために握られていた手をそっと離そうとしたら、逃がさないとばかりにキュッと力を込められた。


「こちらこそありがとう。またご挨拶に伺おう」


再び手の甲に口付けを落とすと、彼の亜麻色の髪がサラリと揺れて、切長の目から美しく煌めく紺碧の瞳が覗く。ポカンとその様を眺めていると、彼がフッと微笑んで目元が緩む。
私がまだ呆けているうちに、手荷物を事務官室の机にドサリと置いてくれると、一礼をして颯爽と踵を返して去っていった。

なかなかキザな男だわね~。


挨拶か。もう婚約は破棄らしいから、挨拶に来られても、執務室に私は居ないわよー……?まぁいいか。

寝不足の頭の片隅で、そんな事を思った。


机に置かれた書類を財務部の官僚に渡していく。予算書、仕様書、提案書などなど。


「今日もすごい量ですねぇ」


のんびりと感想を口にしたのは、財務部の秘書官である男、ベルクだ。


「これで会議にも間に合うでしょう。他に急ぎはなかったはずだし……」


ベルクは書類の束をテキパキと仕分けて、近くの文官へと指示を出していきながら、私にも意識を向ける器用な男だ。


「毎回殿下の代わりに申し訳ないです。助かります」

「いぃえ~。ま、それも今日で最後だけれどね」

「へ?」

「さっき婚約破棄されたから、私。やむ無しのお手伝いもこれで最後。みんな、元気でね!」


スッキリ晴れ晴れとした顔で手を振って、財務部の部屋を後にすると、後ろからバターン ドタ─ーンとなんだか騒がしい音が聞こえたけれど、捕まってなるものかと足を早く進めた。
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