可愛い姉・美人な妹

ユウキ

文字の大きさ
上 下
63 / 69
サイドストーリー フレディ奮闘記

伯爵夫人①

しおりを挟む
姉妹が旅立った後。

休暇をとっていた僕は、先程の馬車に乗り込み公爵家の屋敷へと戻った。

明日も早いしと、早々に寝支度を済ませると、夜も深まろうかという時間。邸内の騒がしさに気づいた。

暫くすると、ノック音が響いた。
入室の許可を出すと、困った顔をした執事が頭を下げる。


「おやすみ前に申し訳ございません。
ただ今、ジェライト伯爵夫人がお見えで……」
「今?追い返せないのか?」
「そうしようと思ったのですが、なにぶん『私のアディを誑かして連れ込んで、婚約しないうちでは困る』と叫んでおられまして」
「はぁ。まぁ仕方ない、出るか」
「申し訳ございません」


厚手のガウンを羽織り、階下へと降りるとジェライト伯爵夫人が白いファーコートに身を包んで待っていた。


「何用ですか。こんな夜も遅い時間に」
「シューコット様!アディはどちらです?!」
「……何故ここに居るとお思いなのですか?」


勢いつけ近寄ろうとした伯爵夫人を、使用人が間に入って止める。


「ちょっと、邪魔しないでよ失礼ね!」
「非常識な時間に先ぶれもなく訪れた貴女如きに、我が公爵家の者が叱責を受ける謂れはございませんが……で?ご用件は?」
「そ、それはアディを返していただこうとっ!貴方だって婚約もしていない女性を連れ込んで帰さないなんて、非常識なのはそちらでしょう?!」


未だに使用人に阻まれながらも、手を大きく振って自分の主張を声高に喚く。これが伯爵夫人とは。


「おりませんが?」


端的に事実を述べた僕に、伯爵夫人凝視しながらビタリと動きを止める。


「えっっ、そんな嘘は……」
「嘘ではありません。何故私がアデライン嬢を?冗談や言いがかりはやめてください」
「だって何度もデートに誘っては、方々へ連れ出していたじゃありませんか!」
「いいえ、私は友人であるアマンダ嬢を誘いました。そこに一緒にアデライン嬢が来られただけであって、決してアデライン嬢を直接お誘いして2人だけで出かけたことはございませんよ?」


しかも途中からは誘わずとも、必ず付いてきていたしね。アマンダが嬉しそうにするから、未来の義妹と思って対応していたに過ぎないのだけど。


「そんな……じゃぁアデラインはどこへ行ったというのですか?!!」
「知りませんよ。この通り寝入り端ですから、知る由も無いですが」


しれっと嘘をついて見返すと、狼狽えた伯爵夫人は屋敷内の奥を目指そうと、使用人へと突撃する。


「アディ!いるんでしょ?!!どこー?!私が迎えにきたの!!出てきてぇ!!ねぇ、居るんでしょー!!離して、離しなさいよっ、アディを探さないとっ」


「 黙 れ 」


余りの煩さに一喝した。伯爵夫人どころか使用人すらもびくりと肩が跳ねている。君達じゃ無いから安心してね。


「貴様はここが誰の、どう言った爵位の屋敷で、誰の赦しや権利があって騒ぎ立てているんだ」


ここが娘をデートに連れ出した男の家ではなく、自分より遥か上の公爵家に乗り込んでいる事にやっと気付いたのか、顔色がスゥッと悪くなっていく。


「ぃえ、あのっ」
「アマンダ嬢と多少仲良くしていたので、今回は目溢ししてやるが……ジェライト伯爵に伝えてくれ。マナーも知らないご夫人が居るような貴方の家とは二度と関わらない事を」
「お、お待ちをっ!」
「お帰りだ。摘み出せ」


僕の指示に後ろに控えていた使用人、護衛が動き出して押し流すように伯爵夫人を屋敷から追い出していった。


「…君は望んでいないと思うけれど、少しは意趣返しになったかな」
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます! ステラの恋と成長の物語です。 *女性蔑視の台詞や場面があります。

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

自己中すぎる親友の勘違いに巻き込まれ、姉妹の絆がより一層深まったからこそ、お互いが試練に立ち向かえた気がします

珠宮さくら
恋愛
とある国にシャーリー・オールポートという侯爵令嬢がいた。そんな彼女のことを親友だとしつこく言い続けていたのは伯爵令嬢で、これまでも周りはたくさんシャーリーの名前と侯爵家の名前を出して迷惑していた。 そんな彼女が婚約破棄をしようと必死になっているのを知って、シャーリーは不思議に思っていたが、そこからシャーリーの姉のことをどう思っていたかを知ることになる前には、人の話も聞かずにシャーリーは彼女から平手打ちをされていた。 そんなことがあって、シャーリーは姉妹の絆を深めることになるとは思いもしなかった。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

ヒロインは辞退したいと思います。

三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。 「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」 前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。 ※アルファポリスのみの公開です。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

処理中です...