退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ

文字の大きさ
上 下
33 / 41

悪戯な微笑み

しおりを挟む
 自邸に到着したエレノアは、自室のソファに腰掛けながら、優雅にお茶を楽しんでいた。


「私、女優になれるのではないかしら…」


 楽しげに微笑む彼女の対面には、いつかのように同じクラスの父の子飼いである女子生徒が座り、同じように出されたお茶に口をつけていた。


「しかし態々お嬢様が落ちるなどと……冷や汗をかきました」
「仕方ないじゃ無い。それに、こんな事出来るのも今のうちなのよ?念のために厚めにパニエを重ねていたし、大丈夫だったでしょ?」


 もうすぐ王太子妃となるエレノアには今以上に警護がつく。階段から落ちるなど、以ての外だろう。
 しかし、エレノアを大事にしている公爵閣下も、先に報告をあげたと言えども、今頃事件の一報を聞いて王宮で怒り狂っているに違いない。

 ふぅっと胃の痛みを吐き出す様にため息を溢した。

「それで、証言はあれで良かったのですか?」
「ええ、十分よ。何一つ、誰も嘘はついてないもの」
「まぁ…そうですね」


 エレノアは躊躇いがちに言う事で、語尾を濁したり、伏せてはっきりと言わなかっただけで、事実しか述べていなかった。



『あの方、急に叫び声を上げて(こちらから)
 手を(取って遠心力で立ち位置を変えて)…
 そうしたら
 (立ち位置が変わったことに、相手が驚いて)
 手を(私が離しまして)。
 そして体が投げ出され
 (たように見えますが実際はパニエをクッションに太ももから落ちるようにして着地。横倒しになり、転がりました)…』



 ほぼほぼ伏せてるよね?と内心でツッコミを入れつつ主人の大事な愛娘には何も言うまいと、キュッと口を噤む。


「ちゃんと温情ある処罰を求めたのだもの、死は回避できますでしょう?
 本来なら高位貴族で、王族の婚約者である私に冤罪をかけるなんて事、死罪以外あり得なくてよ?」
「ええ、そうですね。お優しい采配かと」


 上機嫌で微笑むエレノアは、ゆっくりとカップを持ち上げて立ち昇る湯気を見つめた。


「もうお終いかしら」
「ええ。そのようですね」
「長続きしないものね」
「力不足ですよ」

「そうね。お楽しみはこれから幾らでも湧いてくるわよね。殿下もいる事だし暇つぶしにはなるかしら」
「程々でおやめください。次期国王でございますし」

「わかっているわよ。うふふ」


 頼みますよいう視線を向けるも、楽しげにカップを傾けるエレノアには、僅かも届かないのではと、手駒である生徒は肝をちょっぴり冷やした。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

完結)余りもの同士、仲よくしましょう

オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。 「運命の人」に出会ってしまったのだと。 正式な書状により婚約は解消された…。 婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。 ◇ ◇ ◇ (ほとんど本編に出てこない)登場人物名 ミシュリア(ミシュ): 主人公 ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~

キョウキョウ
恋愛
 前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。  そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。  そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。  最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。 ※カクヨムにも投稿しています。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

婚約者が裏でこっそり姫と付き合っていました!? ~あの時離れておいて良かったと思います、後悔はありません~

四季
恋愛
婚約者が裏でこっそり姫と付き合っていました!? あの時離れておいて良かったと思います、後悔はありません。

処理中です...