退屈令嬢のフィクサーな日々

情報の擦り合わせも、謎は謎のまま

　警備室を出たマーティンは、前方から歩いてきたローランドを見つけると、警備室を騎士と警備員に任せた。


「マーティン、そちらはどうですか？」
「ハーレイ嬢に呼び止められたと口にしたが、その場所にいた理由を聞くと黙ってしまった」


　同じ様にそれ以上書かれていない聴取書類を渡されて、ローランドは嘆息する。
　連れてきた目撃者は騎士に任せて、同じく聴取をして書類の作成をお願いしたのだが、見聞きした内容をマーティンへと話しておくことにした。


「ダンスの授業を受けていた女子生徒が、遠目であったが一部だけ見ていたと証言をしてくれました。
　オーガスティン嬢は、ダンスの授業自体初心者と言うこともあり、南棟の教室で個別に受けるように配慮されていたのですが、今日に限ってあの場所にいた理由は分からないらしい……
　目撃した生徒は、いつもの様にメイナード殿下と授業後に少し話をするハーレイ嬢を連絡通路の手前で待っていたのですが、遅かった為様子を覗いてみると、オーガスティン嬢がハーレイ嬢に詰め寄り、揉めているように見えたと。
　背後が階段で危ないと、咄嗟に動けずにいる間にハーレイ嬢の体が振り出される様に階下へ…と言うことらしいです」


　マーティンは、眉を顰めた。


「ハーレイ嬢と何かあったのだろうか？振り出す…押されてと言うことだろうか」
「恐らく。振り出して宙へ……強く押される以外に考えられませんが、ハーレイ嬢の目が覚め次第、詳しく伺いましょう」
「それまでに、今日のオーガスティン嬢のダンスの授業がどうなっていたのかを聞いておくか。
　その後に医務室へ。ハーレイ嬢の状態もきになるしな」

「そうですね」


知っている情報の擦り合わせを終えると、2人は苦い顔で溜息を吐き、メイナードが向かった医務室へと足早に向かって行った。