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では手始めに

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 柔らかく微笑んだエレノアは、渡された調査書を受け取るとじっくりと読み込んだ。


 殿下に付き纏う羽虫は、クレア・オーガスティンと言い、エレノアと同じ淑女科に通っている。

 オーガスティン男爵の庶子で、平民の母が存命中は市井で育ち、流行病で亡くなると男爵が引き取って籍を入れ、正式な男爵の子供となった。


 戦略科のメイナード殿下とは、偶然目の前で転びそうになったところを咄嗟に助けたのがきっかけ。

 それからお礼やら何やら……そのうち悩み事を相談するようになって……という流れだ。


 相談内容は、「孤立している」「話しかけても無視される」「平民上がりと蔑まれる」と言った陳腐な内容であった。


「まぁ、クスクス……可哀想な女を装って近づき庇護欲をそそって懐に入り込んだわけね。科が違う殿下方は半信半疑だけれど、涙を浮かべて訴えられては無碍にもできずに、そのうち絆されたと言うところかしら」
「はい、恐らく」


 クスクスと可愛らしく笑うエレノアは、報告書をサイドテーブルへと静かに置くと、女子生徒に微笑むが


「ふふ……ではそうね、同じクラスの子に、明日から親しく話しかけるように言って頂戴。
 彼女と同じように、殿方と居る時は特に楽しげに。良いわね?」

「はい、今日中に周知いたします」


 その笑顔はいつもの淑女然としたものではなく、悪戯を思いついた様なそれであった。
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