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日常に差す影

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 公爵令嬢であるエレノア・ハーレイの学園での評価は概ね良好である。

 分け隔てなく皆平等に接し、笑顔を絶やさない。
 成績優秀で品行方正。
 淑女の鑑とまで言われる完璧な所作。


 可愛いというよりも儚げな美人と評される外見は、菫色の真っ直ぐな髪に赤味がかった紫の瞳。
 睫毛はシミひとつない肌に影が落ちるほど長く、ぽってりとした唇は紅を引かなくても綺麗な桜色。


 そしてこの国の王太子であるメイナード殿下の婚約者である。


 藍色の髪、紫紺の瞳を持つメイナード殿下と並べば、まるで一対の人形のような完璧な美しさで、見る者全てが知らずため息を溢す。


 しかし、最近全てに於いて完璧と評される彼女の耳に不穏な噂が入る。




 ── 王太子殿下は、転入生に夢中らしい




 誰もが耳を疑うその噂は、どうやら本当のようで、肩までの金色の髪がフワフワと揺れる小動物のような可愛らしい見た目の女生徒と連れ立っている。

 しかも王太子殿下の側近である宰相の息子、騎士団長の息子、そして学園に出入りする商会の息子...までも侍っていた。

 エレノア以外のそれぞれの婚約者は、その女生徒に常識的な注意をしたが、泣き喚かれ、全てねじ曲げられ子息に伝わり、反対に叱責されて距離を置かれてしまっていた。


 現在エレノアは、その子息の婚約者である令嬢達の話を聞き、慰めていた。


「まぁ、皆さま、なんて事でしょう...
 お辛かったですわね。そのようにお話の通じない方なんて……」
「ええ、私達悔しいやら悲しいやら……情けないやらで……!」

「どうぞこのハンカチをお使いになって?……こうなっては、お互いのためにも暫く距離を置くしかございませんわね。きっと一時的なものですわ、すぐに分かってくださいます」
「エレノア様……!」


 そうして、ややこしくならないようにと、なるべく気にかけて声をかけ続けたのだが……




 数日後エレノアは、その女生徒と渡り廊下で遭遇してしまったのだった。
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