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Revenge Chemistry ~ ある研究者の復讐
二章 - 復讐のターゲット
しおりを挟む翌日、窓から差し込む光で目が覚めた。
約束の時間は昼の1時だったが、
事前に準備をしたいこともあり、
10時には家をでてホテルに向かった。
チェックインを済ませて、
来客があることをフロントに伝えた。
以前研究室にいたころから、
こういう来客に対応してくれるということで、
懇意にしていたホテルだったのだ。
ルームキーを受け取り、部屋に向かった。
見慣れた部屋の造りでもあり、
荷物をおき、すぐに準備にとりかった。
ヤツに飲み物を飲ませないといけないので、
部屋にあったミネラルウォーターを
小さなポットに移し、
そこにC2Sを溶かしこんだ。
無色透明・無味無臭なので
おそらく気が付ける人間はいない。
そのポットを冷蔵庫に入れておいた。
ヤツはコーヒーが好きだったから、
この水からコーヒーを作ってやるとしよう。
自然と口元が緩みそうになるのを、
ぐっと我慢する。
更に今日のC2Sのデビューに
必要なセンサー類を用意した。
部屋の各所に設置する作業に
若干手間取ってしまったので、
あっという間に昼前になった。
ホテルのラウンジでへ向かい、
ランチを済ませた。
コーヒーを飲んで一息つき席を立った。
そして部屋に戻ろうとすると、
後ろから肩を叩かれた。
「あっ、先生、もういらしてたんですか?」
「ああ、ちょっと仕事がたまっていたからね。
こちらの部屋で作業していたんだよ。」
「へぇ?今のあなたに仕事なんてあるんですかねぇ?」
「それはキミが知ったことではない。」
「そうでしたね。今日は新しいお話とやらを聞かせてもらえると?」
「ああ、そうだ。だから部屋にいくとしようか」
俺は本当に面倒だなと感じながらも
その男に悟られないように丁寧に対応し、
フロントに来客を部屋に入れると一言伝えた。
フロントで記名をするよう
促されたその男は所属と名前を記載した。
”●●出版、 梶山虎雄”
その名前を書くのも今日が最後だろうなと、
心の中で大笑いしたくなるのをぐっとこらえて
部屋に向かった。
梶山を部屋に迎え入れ、
席に座るように促した。
そして、用意しておいた
ミネラルウォーターを低めの温度に沸かし、
インスタントコーヒーを
作って梶山に差し出した。
「ほら、お前いつもコーヒーだっただろ?」
「へへへ、よくご存じで。
コーヒーはこう脳を活性化させてくれる気がしましてねぇ。」
まったく呑気な奴だ。
ただ、そのほうが好都合だ。
梶山は何も疑うことなくそのコーヒーを口にした。
わざとぬるめの温度にしたこともあり、
あっという間に飲み干した。
「このコーヒーいいお味ですねぇ。
ここのホテルのやつですか?」
「いやいや、今日せっかく来てくれるんだから
特別に用意したのさ。」
「先生がそんなことおっしゃるのは
なんか気持ち悪いものがありますが、
まぁ、美味しいコーヒーご馳走様でした。」
さて、あとはうまくプログラムが起動してくれればというところだ。
「で、先生。今日のお話というのはどういう内容でしょうか?」
梶山はそこは記者らしく無駄を省いたツッコミを入れてくる。
「まぁまぁ、焦るんじゃないよ。
久しぶりということもあるからまずは世間話でもしようじゃないか。
そうだな、最近話題になってるアイドルの子なんて誰かいないかね?」
「なんと。先生そんな方面のご趣味があったんですか?
そうですねぇ、この間取材で弓月かえでっていう
今人気のグラビアアイドルの子に会ったんですが、
男好みのなかなか色気のある感じでしたよ。」
「ほうほう、そんな取材もするのかね?
ちなみにその子の写真なんかはないのかね?」
「あ~、ネットで検索するとすぐでてきますよ
。。。ほら、この子ですよ。」
そう言って梶山が見せてくれたのは
小さな顔に大きな胸、
それでありながら細身でまさに
グラビアアイドルというかんじの女性だった。
これは好都合だ。
そろそろC2Sが活性化してくることだしなと、
目の前に開いているパソコンのモニターを確認する。
そこにはC2Sが梶山の神経細胞を中心に、
身体中の細胞に行き渡っていることが確認できた。
これはこのホテルについたときに
必死に設置したセンサーから送られたデータを
表示しているものだ。
なにせ初めての実験なので、
部屋にC2Sを感知できるセンサーを設置しておき、
状況を確認する必要があったのだ。
さて、こうなればあとは徐々に効果がでてくるはずだ。
実際、よくよく見ると梶山の男臭い見た目が
少しだけ柔らなくなっているように感じられるぐらいだ。
そんなことを考えながら、
もう少し梶山にさっきの女性について質問を続けた。
こうすることで梶山に
その女性について考えさせることができるからだ。
そうして10分ほどが経っただろうか?
いよいよ梶原自身がなにか起こっていることに気が付き始めていた。
「先生、なんか俺の声おかしくないですか?」
「ん?何がおかしいんだ?」
「なんか喉がイガイガするんですよねぇ。
あと、頭がなんかかゆくって。」
そう、梶原は徐々に女性化していっている。
髪の毛がとてもゆっくりだが徐々に伸び始め、
体つきが柔らかくなってきているはずだ。
声帯も変化がはじまったことで
喉に違和感を感じたというところか。
C2Sの濃度を見ると、
進行度合いがだいたい確認できるのだが、
現状でだいたい25%ほど。
これが40%を超えてくれば
もう後戻りはできないレベルに達したと言える。
「気のせいじゃないか?
それよりそろそろ本題の話をしようか。」
「おぉ、それを聞きたくてここまで来たんですよ!」
自分の身体になにかが起こっていることよりも、
取材魂を優先するという熱意だけは感心するものだが、
その熱意の結果が自分の利益になる記事だけを書き散らす。
そんなカスとも今日でおさらばだと考えるとせいせいする。
俺は前研究室からの研究を続けていて、
やっとひとつの結論を
見つけたという話をわざとらしく
回りくどい言い方で話続けた。
何か違和感を感じながらも
必死に何かを聞き出そうとする梶原。
そんなやりとりが15分ほど続いたところで、
目の前のモニターでC2S濃度が
40%を超えたことを確認した。
「せ、先生。。。なんかすごい暑くないですか?この部屋?」
「いや? さっきからなにも変わってないよ。」
「いや、明らかに。。。うっ。。。。」
そう言って梶原は自分の胸を抑えた。
さて、ここからがショーの始まりだ。
俺は心でそう叫んだ。
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