19 / 23
続編
02 カボチャ頭をお披露目しました
しおりを挟む
くそ、恥ずかしい上に動きづらいことこの上ない。こんなの罰ゲームだろ。せめてマント以外のコスプレ要素があればマシだったのか──いや、そんなわけないな。恥は恥だ。中身が俺だと知り合いにバレたら恥ずかしさゆえに自害する勢いだ。……だから宝条さんは去年声を出さなかったのか?
他のバイトの面々と合流するため、俺はお菓子が詰まったかごと追加のお菓子が詰まった段ボールを持って駅前広場にやって来た。去年と同じように、コスプレ集団がお菓子を配っている。訝しげな目を向け去って行く人も多い中、バイトの面々は必死にお菓子を配っていた。
すると魔女っ子コスプレの華鈴がこちらに気づいて、あっと声を上げた。
「……カボチャ、さん……?」
その目は少し動揺したように泳いでから、でも期待をはらんで俺を見る。何ちょっとときめいてんだよ。その目やめろ。去年のトラウマが蘇るだろうが。そんなクソみたいな誤解をされたままでも困るから、華鈴に見えるようにカボチャ頭を少し持ち上げて顔を出した。
「ざけんな俺だよ……」
「えっ、あ! 萩原先輩!? なんでカボチャさんと同じ格好を!?」
「本当にな……」
いやいやながらに華鈴の横に並び、配るためのお菓子を準備する。華鈴は俺の姿をまじまじと見てから、えへへと笑った。
「びっくりしちゃいました。またカボチャさんが戻って来てくれたのかと。あり得ないですよね。カボチャさんは国に帰ったんですから」
華鈴の中では、あのカボチャ頭はお化けの国に帰ったことになっている。去年のハロウィン以来、やりとりしていたメアドからは連絡も途絶えて、もう会えないと思い込んでいるようだった。ていうかこいつ、『宝条さん』と知り合ってからもそろそろ一年経つのに、未だにカボチャの正体が宝条さんだって気づいてないの? バカなの?
「お前、まだカボチャ頭のこと好きなわけ?」
「え……。いや、そんなことはないですよ」
「ふぅん」
よかった。一年経ってるのに「やっぱりカボチャさんのことが忘れられません」とか言い出したらどうしようかと思った。その可能性は少ないようで少し安心する。
「でも、もしカボチャさんが戻ってきてくれたとしたら、私にもどうなるかわからないです。気持ちが戻ってくるのか、それとも何も思わないのか」
「……そうか」
前者でないことをひたすらに祈るのみだ。戻ってくるも何もカボチャ頭はすぐそこにいるのだ。さっきはバカだと思ったが、気づいていないなら好都合。せめて中身があの人だとバレないように全力を尽くそう。こんな恥ずかしい格好をしていたなんて、あの人が自分からバラすことは考えにくいからな。
それにしても、こいつがカボチャ頭に対する「好き」は偶像崇拝的な感情であって、恋愛感情の「好き」とは違うということに気づかなければ、いつまで経っても進展ができない。この一年でそれにゆっくり気づいてくれればと思っていたけれど、そんな悠長なこと言ってられないくらいまできたはずだ。俺は来年から大学にはいないし、宝条さんだって何を仕掛けてくるかわからない。
ちらりと華鈴を見る。もうちょっと、アタックしてもいいかもしれないな。一度は振られてるんだ。怖いものなどない。
「……華鈴」
「はい?」
「好きだよ」
「!? い、いきなり、こんな時に、先輩、何を言ってるんですか!?」
周りに聞かれていなかったかどうか、キョロキョロと辺りを見渡す華鈴。その顔は真っ赤に染まっていて、慌てる顔がかわいい。
「今照れてるのは、カボチャ頭の格好してる奴に言われたから? それとも、俺に言われて照れてくれてるわけ?」
「は、早く持ち場に行ってください! 意地悪な先輩は嫌いです!」
真っ赤な顔で、俺の背中をぐいと押した華鈴は、それ以降は会話してくれなかった。うーん、あと一押しな気もするんだけどな。仕方がないので、やる気はないがお菓子配りを始めることにした。
他のバイトの面々と合流するため、俺はお菓子が詰まったかごと追加のお菓子が詰まった段ボールを持って駅前広場にやって来た。去年と同じように、コスプレ集団がお菓子を配っている。訝しげな目を向け去って行く人も多い中、バイトの面々は必死にお菓子を配っていた。
すると魔女っ子コスプレの華鈴がこちらに気づいて、あっと声を上げた。
「……カボチャ、さん……?」
その目は少し動揺したように泳いでから、でも期待をはらんで俺を見る。何ちょっとときめいてんだよ。その目やめろ。去年のトラウマが蘇るだろうが。そんなクソみたいな誤解をされたままでも困るから、華鈴に見えるようにカボチャ頭を少し持ち上げて顔を出した。
「ざけんな俺だよ……」
「えっ、あ! 萩原先輩!? なんでカボチャさんと同じ格好を!?」
「本当にな……」
いやいやながらに華鈴の横に並び、配るためのお菓子を準備する。華鈴は俺の姿をまじまじと見てから、えへへと笑った。
「びっくりしちゃいました。またカボチャさんが戻って来てくれたのかと。あり得ないですよね。カボチャさんは国に帰ったんですから」
華鈴の中では、あのカボチャ頭はお化けの国に帰ったことになっている。去年のハロウィン以来、やりとりしていたメアドからは連絡も途絶えて、もう会えないと思い込んでいるようだった。ていうかこいつ、『宝条さん』と知り合ってからもそろそろ一年経つのに、未だにカボチャの正体が宝条さんだって気づいてないの? バカなの?
「お前、まだカボチャ頭のこと好きなわけ?」
「え……。いや、そんなことはないですよ」
「ふぅん」
よかった。一年経ってるのに「やっぱりカボチャさんのことが忘れられません」とか言い出したらどうしようかと思った。その可能性は少ないようで少し安心する。
「でも、もしカボチャさんが戻ってきてくれたとしたら、私にもどうなるかわからないです。気持ちが戻ってくるのか、それとも何も思わないのか」
「……そうか」
前者でないことをひたすらに祈るのみだ。戻ってくるも何もカボチャ頭はすぐそこにいるのだ。さっきはバカだと思ったが、気づいていないなら好都合。せめて中身があの人だとバレないように全力を尽くそう。こんな恥ずかしい格好をしていたなんて、あの人が自分からバラすことは考えにくいからな。
それにしても、こいつがカボチャ頭に対する「好き」は偶像崇拝的な感情であって、恋愛感情の「好き」とは違うということに気づかなければ、いつまで経っても進展ができない。この一年でそれにゆっくり気づいてくれればと思っていたけれど、そんな悠長なこと言ってられないくらいまできたはずだ。俺は来年から大学にはいないし、宝条さんだって何を仕掛けてくるかわからない。
ちらりと華鈴を見る。もうちょっと、アタックしてもいいかもしれないな。一度は振られてるんだ。怖いものなどない。
「……華鈴」
「はい?」
「好きだよ」
「!? い、いきなり、こんな時に、先輩、何を言ってるんですか!?」
周りに聞かれていなかったかどうか、キョロキョロと辺りを見渡す華鈴。その顔は真っ赤に染まっていて、慌てる顔がかわいい。
「今照れてるのは、カボチャ頭の格好してる奴に言われたから? それとも、俺に言われて照れてくれてるわけ?」
「は、早く持ち場に行ってください! 意地悪な先輩は嫌いです!」
真っ赤な顔で、俺の背中をぐいと押した華鈴は、それ以降は会話してくれなかった。うーん、あと一押しな気もするんだけどな。仕方がないので、やる気はないがお菓子配りを始めることにした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる