頑張り屋

天乃 彗

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 試合終了の笛が鳴り響いた。結果は、2-1の負け。それでも、みんなは清々しい顔をしていた。わたしはすぐさまコートに駆け出して、琢磨の体を支えた。

「ちょ、ハル」
「今すぐ! 病院いくよ!」

 琢磨の体は重かった。それくらい、自分の体を自身の足で支えられてないってことだ。本当に、バカ。こんなになるまで、無理をして。

「……こんなんで、二度とサッカー出来なくなったら、承知しないんだから」

 わたしは小さく囁いた。琢磨は苦しそうに笑った。

「……当たり前だろ。今度は死ぬ気でリハビリするよ。また、サッカーが出来るように」
「決まってるでしょ、バカ」

 泣きそうだった。琢磨は本気で、試合をやり遂げた。

「……ハル」
「何!?」
「ありがとな……背中、押してくれて」

──……っ。

 今、ここで、こんなこと言うなんて。反則だ。

「……バカ。バカバカ、バカタク」
「何とでも言え」

 琢磨は笑った。その笑顔は、まだまだ何でもやってくれちゃいそうな──。

「……お客様」

 突如聞こえた声に、わたしと琢磨は顔をあげた。視線の先には、いつか見た、二人組。

「……頑張り屋さん」
「もう片方の『頑張り』を、返してもらいに来ました」

 シーザさんは前と変わらない柔らかな笑みを浮かべた。わたしはポケットをごそごそ探って、空の小瓶をシーザさんに手渡す。それを受け取って、「はい、確かに」と言ったシーザさんは、わたしを見て笑う。まるで、わたしがそっちを飲まないのを、わかりきっていたみたいに。

「にしても……」

 小瓶をコロットに手渡しながら、シーザさんは琢磨を見た。琢磨もシーザさんを見て、笑みを返す。

──知り合い? 

 わたしの疑問を、シーザさんはあっさりと解決した。

「ずいぶん無茶をしましたね、お客様?」
「はは、シーザさんの『頑張り』、効果ありすぎ……」
「え? え?」

 わたしはわけがわからずシーザさんと琢磨を交互に見る。シーザさんは、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、わたしに言った。

「実は、あなたがくる少し前に、こちらのお客様が来店していたのですよ」
「え!?」
「私がお渡ししたのは『なにがなんでも目標を達成する頑張り』。彼には“代償は大きいよ”と言ったのですが、彼の覚悟はなかなかのものでした」

 わたしは開いた口が塞がらない。そんな、ことって……。

「でも、また頑張りたいことが出来たよ、シーザさん。俺は、絶対またサッカーやる。そのために、リハビリ頑張る。もし挫けそうになったら、また、『頑張り』を売ってよ」
「そうですか? ですが、あなたには、もう私が作った『頑張り』など要らないくらい、強い意志があるように見えますが」
「え?」
「あなたには、その頑張りをやり遂げるための支えがあるようですから」

 その瞬間、シーザさんと目が合う。シーザさんはやっぱり真意のわからない笑みを浮かべたのだった。わけがわからず琢磨を見ると、琢磨は顔を赤くして、わたしから慌てて目をそらしてしまう。なんだって言うんだ、二人して。

「では、これにて失礼いたしましょう。お大事に」
「あっ、はい!」
「ありがとうございました!」

 わたしと琢磨は、ペコリとお辞儀をした。不思議な二人組の背中は、だんだん小さくなっていったのだった。


 * * *


「シーザさぁん、さっきの、どういう意味ですか? 『頑張り』が要らないって」

 コロットの発言に、シーザは苦笑いを浮かべた。

「コロットにはまだ早いかもしれないね」
「何ですか? 早いって。シーザさんはいっつも僕を子供扱いするんだから」
「子供じゃないか、君は」

 不貞腐れたコロットの頭を撫でながら、シーザは言った。

「コロット、私たちがつくる『頑張り』に匹敵するものは、何だかわかるかい?」
「『頑張り』に? 分からないですよぉ!」

 ぴょこぴょこ跳ねながら答えるコロットに、シーザはクスリと笑った。

「それはね、コロット。『誰かを思う強い気持ち』だよ」

 その気持ちは、時に強い力を生む。彼らには、それがあった。
 シーザは、お互いを支え合う二人の姿を思い浮かべながら、また笑った。わけは分からなかったが、嬉しそうなシーザの様子に、コロットもまた笑みをこぼしたのだった。

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