3 / 17
02 背中を押す
01
しおりを挟む
頑張りたいのに、勇気がでない。どうしても、最後のもうひと頑張りが、出てこない。そんな人には、どこからか不思議な少年がやって来て、その『もうひと頑張り』を売ってくれる──『頑張り屋』に招待してくれるらしい。
迷信かも知れないけど。隣のクラスの男子が、その少年と店主に会ったって聞いた。そのおかげかは知らないけど、その男子は、好きな子に告白をしたらしい。だからわたしは、頑張り屋は本当にあるって信じているんだ。だってわたしは、とある『頑張り』がほしくて、そのお店を必死に探し回っていたから。
* * *
「……ここにも、ない、か」
探すあてもなく町をさ迷っていた。無理もない。だって、情報が少なすぎる。
ある人が言うには、古びた洋館。ある人が言うには、高層マンションの一部屋。ある人が言うには、路地裏の裏の小さな扉の奥。ある人が言うには、ごく普通の日本家屋。その『頑張り屋』がどんなもので、どこにあって──そんな情報は、ひとつも持ち合わせていないのだ。
「……だめなのに。早くしないと、わたしが、頑張らないと……」
険しい顔で、胸元をぎゅっと握りしめた。時間がないんだ。わたしには、その『頑張り』を手にいれて、しないといけないことが──。
「……お姉さん、具合でも悪いんですか?」
「え……」
声をかけられて、顔をあげる。そこには、小学生くらいに見える少年がいた。心配そうな瞳で、わたしのことを見ている。その瞳は、綺麗な金色をしていて、くりくりと大きな瞳だった。
──何だろう、この子。
わたしは、その男の子をまじまじと眺めてみる。少しだけ、不思議な格好をした男の子だ。亜麻色の髪の毛は癖っ毛なのかくるくると跳ねている。その亜麻色の頭に、緑色の小さな小さなハットを被って(乗せて?)いる。丸襟の白いシャツに、黒いリボンをネクタイがわりに巻いている。深い緑色の短めなベストをその上から羽織っていて、下は、茶色いサスペンダー付のサルエルパンツだけど……。彼がはいている靴は、爪先の部分が異様に長くて、さらにくるんと丸まっていた。明らかに歩きにくそうだ。
「……ううん、少し探し物をしてただけだから」
「探し物ですか? 僕がお手伝いしましょうかっ?」
その少年は首を傾げながら尋ねた。でも、見ず知らずの少年なんかに頼むことじゃないし、それに──。
「きっと見つからないから。わたしが探してるのは、『頑張り屋』なんだもの……」
だから、この子に言っても無駄。そう思ってその子を見下ろすと、キョトンとした顔をだんだん緩めて、けたけたと笑った。
「なぁんだ! お姉さん、『頑張り』を必要としてるんですね!」
「……? そ、うだけど」
その少年の様子に、今度はわたしがキョトンとする。すると、その男の子は両手を広げながら、わたしにこう言ったのだった。
「でしたら、招待します! 『頑張り屋』へ!」
「へ?」
そう言うや否や、少年はわたしの手を取って走り出した。わたしはびっくりして振りほどくこともできず、少年に連れられるまま走る。
走る。走る。走る。わたしは少年の背中を見つめながら、そんな靴とズボンでよく走れるなぁとか、よく帽子おちないなぁなんて考えた。
走る。走る。走る。一瞬、まばゆい光に包まれたと思ったら──
「さぁ、着きましたよ!」
にっこりと振り返った少年の声にはっとする。辺りを見回すと、そこは結構前に潰れて廃ビルになった建物の前だった。腹が立った。やっぱりこの子、わたしをからかっただけなんだ。
「……ふざけないでよ、わたし、帰──」
「シーザさぁん、戻りましたよぉ」
わたしがその手を振りほどく前に、その子は廃ビルの扉を開いた。ずんずんと中に入っていくもんだから、わたしもずるずると連れ込まれていく。
「……っ!?」
思わず息を飲んだ。外から見たこの建物は、朽ち果てた廃ビルだった。でも扉を開けて中に入ると、壁一面棚に埋め尽くされた、不思議な部屋だったから。
「コロット、おかえり」
すると、奥から白いシャツに黒いエプロンをかけた男の人がやって来た。細身で、背が高い。若そうに見えるけど、20代くらいだろうか。茶色の髪の毛はサラサラで、女のわたしでも羨ましく思うくらいだった。その男の人は小さな丸眼鏡の奥でにこやかな笑みを浮かべている。
男の人──少年は、シーザさんと呼んでいた──は、少年の後ろでキョトンとするわたしを見ると、驚いた顔をした。
「おっと、失礼──お客様でしたか」
シーザさんは、いそいそと奥へと戻る。わたしがぽかんとそれを見ていると、数秒もしないうちに戻ってきた。どうやらエプロンを外して、少年とお揃いの、深い緑色のベストを羽織ってきたみたい。
「コロット──お客様を連れてきたなら先に言いなさい。……ちょっと恥ずかしかったじゃないか」
「えへへ、すみません」
シーザさんは少しだけはにかんだ笑みを浮かべると、眼鏡を正した。少年──コロットは、ペロッと舌を出しながら頭を掻く。恥ずかしがるほどじゃないのにな、エプロン似合ってたし。なんて考えていると、自分がおかれている状況が普通じゃないことを思い出して、はっとした。
すると、シーザさんはそんなわたしの様子を読み取ったのか、私に向けてにこりと笑った。
迷信かも知れないけど。隣のクラスの男子が、その少年と店主に会ったって聞いた。そのおかげかは知らないけど、その男子は、好きな子に告白をしたらしい。だからわたしは、頑張り屋は本当にあるって信じているんだ。だってわたしは、とある『頑張り』がほしくて、そのお店を必死に探し回っていたから。
* * *
「……ここにも、ない、か」
探すあてもなく町をさ迷っていた。無理もない。だって、情報が少なすぎる。
ある人が言うには、古びた洋館。ある人が言うには、高層マンションの一部屋。ある人が言うには、路地裏の裏の小さな扉の奥。ある人が言うには、ごく普通の日本家屋。その『頑張り屋』がどんなもので、どこにあって──そんな情報は、ひとつも持ち合わせていないのだ。
「……だめなのに。早くしないと、わたしが、頑張らないと……」
険しい顔で、胸元をぎゅっと握りしめた。時間がないんだ。わたしには、その『頑張り』を手にいれて、しないといけないことが──。
「……お姉さん、具合でも悪いんですか?」
「え……」
声をかけられて、顔をあげる。そこには、小学生くらいに見える少年がいた。心配そうな瞳で、わたしのことを見ている。その瞳は、綺麗な金色をしていて、くりくりと大きな瞳だった。
──何だろう、この子。
わたしは、その男の子をまじまじと眺めてみる。少しだけ、不思議な格好をした男の子だ。亜麻色の髪の毛は癖っ毛なのかくるくると跳ねている。その亜麻色の頭に、緑色の小さな小さなハットを被って(乗せて?)いる。丸襟の白いシャツに、黒いリボンをネクタイがわりに巻いている。深い緑色の短めなベストをその上から羽織っていて、下は、茶色いサスペンダー付のサルエルパンツだけど……。彼がはいている靴は、爪先の部分が異様に長くて、さらにくるんと丸まっていた。明らかに歩きにくそうだ。
「……ううん、少し探し物をしてただけだから」
「探し物ですか? 僕がお手伝いしましょうかっ?」
その少年は首を傾げながら尋ねた。でも、見ず知らずの少年なんかに頼むことじゃないし、それに──。
「きっと見つからないから。わたしが探してるのは、『頑張り屋』なんだもの……」
だから、この子に言っても無駄。そう思ってその子を見下ろすと、キョトンとした顔をだんだん緩めて、けたけたと笑った。
「なぁんだ! お姉さん、『頑張り』を必要としてるんですね!」
「……? そ、うだけど」
その少年の様子に、今度はわたしがキョトンとする。すると、その男の子は両手を広げながら、わたしにこう言ったのだった。
「でしたら、招待します! 『頑張り屋』へ!」
「へ?」
そう言うや否や、少年はわたしの手を取って走り出した。わたしはびっくりして振りほどくこともできず、少年に連れられるまま走る。
走る。走る。走る。わたしは少年の背中を見つめながら、そんな靴とズボンでよく走れるなぁとか、よく帽子おちないなぁなんて考えた。
走る。走る。走る。一瞬、まばゆい光に包まれたと思ったら──
「さぁ、着きましたよ!」
にっこりと振り返った少年の声にはっとする。辺りを見回すと、そこは結構前に潰れて廃ビルになった建物の前だった。腹が立った。やっぱりこの子、わたしをからかっただけなんだ。
「……ふざけないでよ、わたし、帰──」
「シーザさぁん、戻りましたよぉ」
わたしがその手を振りほどく前に、その子は廃ビルの扉を開いた。ずんずんと中に入っていくもんだから、わたしもずるずると連れ込まれていく。
「……っ!?」
思わず息を飲んだ。外から見たこの建物は、朽ち果てた廃ビルだった。でも扉を開けて中に入ると、壁一面棚に埋め尽くされた、不思議な部屋だったから。
「コロット、おかえり」
すると、奥から白いシャツに黒いエプロンをかけた男の人がやって来た。細身で、背が高い。若そうに見えるけど、20代くらいだろうか。茶色の髪の毛はサラサラで、女のわたしでも羨ましく思うくらいだった。その男の人は小さな丸眼鏡の奥でにこやかな笑みを浮かべている。
男の人──少年は、シーザさんと呼んでいた──は、少年の後ろでキョトンとするわたしを見ると、驚いた顔をした。
「おっと、失礼──お客様でしたか」
シーザさんは、いそいそと奥へと戻る。わたしがぽかんとそれを見ていると、数秒もしないうちに戻ってきた。どうやらエプロンを外して、少年とお揃いの、深い緑色のベストを羽織ってきたみたい。
「コロット──お客様を連れてきたなら先に言いなさい。……ちょっと恥ずかしかったじゃないか」
「えへへ、すみません」
シーザさんは少しだけはにかんだ笑みを浮かべると、眼鏡を正した。少年──コロットは、ペロッと舌を出しながら頭を掻く。恥ずかしがるほどじゃないのにな、エプロン似合ってたし。なんて考えていると、自分がおかれている状況が普通じゃないことを思い出して、はっとした。
すると、シーザさんはそんなわたしの様子を読み取ったのか、私に向けてにこりと笑った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ヒトガタの命
天乃 彗
ファンタジー
記憶をなくした代わりに、命なきはずの「人形」たちの声が届くようになった少女・サラ。
彼女は唯一覚えていた自分の名前だけを持って、記憶を取り戻すべく放浪する。
一風変わった人形たちとの、優しくて少し悲しい、出会いと別れの物語。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる