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Main Story
お姫様は声と引き換えに
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「んー……」
私は、なんとなくスッキリしない喉を抑えて唸った。なんだか朝から調子が悪い。声が出にくい。頭も少しぼんやりしてる。……風邪引いたのかな。咳払いをひとつすると少し楽になったので、気にせずヒトシさんちへ向かった。
いつものように合鍵で扉を開けて、部屋に入る。いつもなら、戸棚からお菓子を取り出して紅茶をいれて、ゆっくりおやつタイムとするんだけど──今日はなんかダメだ。やっぱり少しだるい。
私はヒトシさんのベッドにダイブすると、モゾモゾと布団をかぶった。ちょっと寝れば回復するでしょ。そう思って、瞼を閉じた。身体は思っていた以上に疲れていたようで、私は吸い込まれるように眠りについた。
* * *
目を覚ますと、眠りについた時と変わらないヒトシさんの部屋が目に入った。起き上がろうとして──ふらついてそのままベッドに逆戻りした。
──あ……れ……。
これ……思ってたより重症……? 自分で額に手をあててみる。あつ、い。
「ッゲホ! ゲホッゲホッ!」
喉もさっきよりひどくなってる。絶対乾燥してるのよこの部屋……! 息がし辛くて、ヒュー、ヒューと息が漏れる。声が、出ない。どうしよう。
パパかママに電話……声出ないのに、無理。メール……も、仕事中だからきっと気づかない。今、何時? 時計は起き上がらないと見れない。でもふらついて起き上がれない。どうしよ。
「ゲホッゲホッ! ……っう、」
何これ、辛……。思わず涙目になって、にじむ天井を見つめた。
──ヒトシさん、早く帰って来てよーー!
その時、ガチャッと扉が開く音がして、ヒトシさんがひょこっと現れた。ヒトシさんは私を見るなり、
「お。起きたか」
と言った。
声が出ないから言葉を返すことも出来ず、こちらへ歩いてくるヒトシさんを眺めていると、ヒトシさんはスーパーの袋を私の横に置いた。
「さっき帰って来たらお前が勝手に寝てたんだけど、息が苦しそうだったからさ。コレ買って来たんだよ」
ガサゴソと袋を探って、ヒトシさんは冷えピタを取り出した。慣れた手つきで私の額に貼ると、また袋を探って今度はノド飴を取り出した。ノド飴の袋を破って、一粒私の口に押し込んだ。……私が舐めれるように、甘いノド飴。他にも袋の中には、風邪の薬とか、ゼリーとか。
──あぁ、ヒトシさんは、いつもそうやって。
「どうすっか。楽になるまでちょっと寝とくか、今から俺が車で──っうぉ!」
言いかけたヒトシさんに、思わず抱きついた。ヒトシさんは私の勢いに少しふらついたけど、なんとか持ちこたえる。あまり力は出ないけど、ヒトシさんの首筋にぎゅっとしがみついた。
──ありがと。
声が出なくて、ほとんど口パクみたいに、私は言った。声が出なくても、伝えたかった。それでもヒトシさんには聞こえたみたいで、「……どういたしまして」と小さく笑った。すると、ヒトシさんが珍しく自分から、私の背中に腕を回してくれた。
「……っ!?」
驚く私を尻目に、ヒトシさんは、子供をあやすように、私の背中を優しく二回叩く。
──……そこは、ぎゅってしてよ、ばか。
私はヒトシさんの身体に体重をかけたまま、もし声が出たとしても言えない言葉を押し込んだのだった。
* * *
あの時──もしも声が出ていたとしたら。きっとヒトシさんは、「珍しく素直だな」なんて茶化すだけで、ああはしてくれなかったと思う。
ヒトシさんが、私に触れた。声をなくした代償は、結構大きかったかな……なんて思ったり。
私は、なんとなくスッキリしない喉を抑えて唸った。なんだか朝から調子が悪い。声が出にくい。頭も少しぼんやりしてる。……風邪引いたのかな。咳払いをひとつすると少し楽になったので、気にせずヒトシさんちへ向かった。
いつものように合鍵で扉を開けて、部屋に入る。いつもなら、戸棚からお菓子を取り出して紅茶をいれて、ゆっくりおやつタイムとするんだけど──今日はなんかダメだ。やっぱり少しだるい。
私はヒトシさんのベッドにダイブすると、モゾモゾと布団をかぶった。ちょっと寝れば回復するでしょ。そう思って、瞼を閉じた。身体は思っていた以上に疲れていたようで、私は吸い込まれるように眠りについた。
* * *
目を覚ますと、眠りについた時と変わらないヒトシさんの部屋が目に入った。起き上がろうとして──ふらついてそのままベッドに逆戻りした。
──あ……れ……。
これ……思ってたより重症……? 自分で額に手をあててみる。あつ、い。
「ッゲホ! ゲホッゲホッ!」
喉もさっきよりひどくなってる。絶対乾燥してるのよこの部屋……! 息がし辛くて、ヒュー、ヒューと息が漏れる。声が、出ない。どうしよう。
パパかママに電話……声出ないのに、無理。メール……も、仕事中だからきっと気づかない。今、何時? 時計は起き上がらないと見れない。でもふらついて起き上がれない。どうしよ。
「ゲホッゲホッ! ……っう、」
何これ、辛……。思わず涙目になって、にじむ天井を見つめた。
──ヒトシさん、早く帰って来てよーー!
その時、ガチャッと扉が開く音がして、ヒトシさんがひょこっと現れた。ヒトシさんは私を見るなり、
「お。起きたか」
と言った。
声が出ないから言葉を返すことも出来ず、こちらへ歩いてくるヒトシさんを眺めていると、ヒトシさんはスーパーの袋を私の横に置いた。
「さっき帰って来たらお前が勝手に寝てたんだけど、息が苦しそうだったからさ。コレ買って来たんだよ」
ガサゴソと袋を探って、ヒトシさんは冷えピタを取り出した。慣れた手つきで私の額に貼ると、また袋を探って今度はノド飴を取り出した。ノド飴の袋を破って、一粒私の口に押し込んだ。……私が舐めれるように、甘いノド飴。他にも袋の中には、風邪の薬とか、ゼリーとか。
──あぁ、ヒトシさんは、いつもそうやって。
「どうすっか。楽になるまでちょっと寝とくか、今から俺が車で──っうぉ!」
言いかけたヒトシさんに、思わず抱きついた。ヒトシさんは私の勢いに少しふらついたけど、なんとか持ちこたえる。あまり力は出ないけど、ヒトシさんの首筋にぎゅっとしがみついた。
──ありがと。
声が出なくて、ほとんど口パクみたいに、私は言った。声が出なくても、伝えたかった。それでもヒトシさんには聞こえたみたいで、「……どういたしまして」と小さく笑った。すると、ヒトシさんが珍しく自分から、私の背中に腕を回してくれた。
「……っ!?」
驚く私を尻目に、ヒトシさんは、子供をあやすように、私の背中を優しく二回叩く。
──……そこは、ぎゅってしてよ、ばか。
私はヒトシさんの身体に体重をかけたまま、もし声が出たとしても言えない言葉を押し込んだのだった。
* * *
あの時──もしも声が出ていたとしたら。きっとヒトシさんは、「珍しく素直だな」なんて茶化すだけで、ああはしてくれなかったと思う。
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