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Ⅳ章 リリアに幸あれ

4 ルーカス殿下の王位継承

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 臨時国防会議が主城で開かれている。今回は不穏な文面もあり政務局と国王陛下、ルーカス殿下、各大臣が参加している。もちろん参謀としてロンも参加している。大会議場の上座に座るルーカス殿下が発言する。

 「皆、忙しいところ臨時会議への出席に感謝する。さて、今回のルドからの書状に関して思うところは各々あると思う。いくつか問題点を洗い出してある。一つは、なぜ今書状が届くのか。コレの意味するところと内容について。二つ目は、書状を送るルドの真意。本当に書状が目的か? 三つ目、今後、害をなすものが来ることを考慮した迎撃と防衛だ」

議会が静まっている。これまでにない事態に大臣から国家の重役が緊張している空気が伝わる。年配の産業大臣が手を上げる。

「殿下、私は書状が川から届いたことに疑問を感じております。私は幼い頃第二沿岸区近くに住んでおりました。大人には禁止されていても天の川に葉っぱの船や花を流しておりました。幼子のすることで悪意はありませんでした。でもどれも流してすぐに川に沈んでいきました。なぜ沈むのか不思議で水風船を流したこともあります。これなら浮くであろうと思ったのです。ですが、沈みました。今回のルドの書状は悪意があります。幼子のイタズラより沈むべきものなのに。神はなぜルドの書状を許したのか理解できません」

「うむ、参考になる意見だ。他には?」

おずおずと手を上げる文官。今回の書記として参加している獣人。

「あの、記録係の私が発言して、良いでしょうか?」

「構わない。気になる事があるなら発言してくれ」
ルーカス様が優しく促す。

「実は僕は、これは秘密だったのですが、天の川に物を落として返ってきたことが、あります」

「はぁ?」「どういうことだ?」「物を落として返ってくる?」思ってもいなかった発言に室内がざわつく。途端に真っ赤な顔になり大人しそうな獣人が下を向いてしまう。

「皆、静かに。大変貴重な意見じゃないか。さあ、話してくれるか?」
ルーカス様が優しく促す。コクリと頷き文官が話し始める。

「幼い頃、祖母の家にお使いに行く途中でした。祖母が欲しがっていた膝掛けと、母と焼いたクッキーを手提げバッグに入れていました。祖母が喜ぶのが楽しみで、スキップしてバッグをブンブン振り回していたのです。ふと、咲いている花も積んでいこうと道から逸れて川沿いに行きました。その時、手からバッグがすり抜けて飛んでしまったのです。バッグは川にチャポンと入ったはずですが、すぐに川に浮きました。必死に(返してください)と神に願いました。バッグはゆっくり僕の手元に戻りました。すぐに確認しましたが、中身もバッグも濡れてもいませんでした」

一体どういう事だろう? ロンはしばらく考えた。幼子のイタズラは許されない。偶然に川に入ったバッグは許された。バッグの中身も葉っぱの船も害をなすものではない。とすると、何を流したかではなく、ほんの少しでも悪意を持っていたかどうか? はっと閃く。

「殿下、よろしいでしょうか?」
会議の参加者が一斉にロンを見る。コクリと頷き先を促すルーカス様。

「もしかして、天の川に何を流すかではなく、流した人次第、ということでしょうか? 幼子のイタズラ心でも、少しでも悪意があるなら葉っぱや花だろうが許されない。一方で、川に何かを落とした行為が偶然で悪意が無ければ許される。そう理解すれば、ルドの書状を用意した者が悪意を込めて書いたとしても、流す人が中身を知らずにリリアに届くようにと願ったら流れ着く。そういう事ではないでしょうか?」

殿下の顔色が変わる。

「だとすると、それにルドが、気が付いているならば早急に対処が必要だ! 爆弾や化学兵器を準備して、それを流す人物が悪意なく流したらリリアに流れ着く可能性がある! 沿岸基地の隊長全てに緊急事態を発令! 細心の注意と警戒を指示するように!」

テキパキと采配をするルーカス殿下。これを国王陛下が頷きながら見つめていた。

会議は、内容についてルドはリリアに敵意を持っている事、神の子を欲しているのは事実であること、防衛費の増加と迎撃及び被害を受けた時の救護体制について方針が決まった。会議が終わろうとしたとき。

「皆、待たれよ」
国王陛下が初めて言葉をかけた。皆が静まり陛下を注視する。

「本日、我が国リリアの緊急事態である事が良く分かった。そして、ルーカスの采配ぶりに感心しておる。皆がルーカスに信頼を置いてくれているのも、よく分かった。この状況だからこそ、皆が揃っているこの場で宣言する。今、ここでルーカスに国王の地位を譲ることを宣言する。新国王ルーカスのもと、皆で我が国リリアを守っていこうではないか!」

一瞬の沈黙の後、一斉に盛大な拍手が沸き上がった。

「ルーカス国王! 万歳!」
「新国王! ルーカス陛下!」

大きな祝福の声に喜びの波。ルーカス様が、そっと手を上げて静粛を促す。

皆が羨望の眼差しで新国王を見つめる。

「父上のご意向、謹んでお受けいたします。歴史あるリリア国を守り抜き国の安寧に尽力していくことを誓います」

「ルーカス、いや、ルーカス国王。必ず国を守りリリアに平和を」

「はい。必ず」

ルーカス様と前国王陛下が固く抱擁する姿をその場の皆が拍手と共に見守った。
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