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Ⅰ章 生きることが許されますように

4 リリアでの生活②<SIDE:タクマ>

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 皇室護衛隊が王都から到着した。

ここの隊員の獣人も大きいけれど、さらに逞しい人たちで、正直怖い。僕に優しい顔を向けてくれるけれど、存在感がありすぎる。ルーカス様の専属護衛だそうで、到着後から周辺警備がこの人たちになった。

居住場所を、御用邸に移す予定だと言われて、もう少しここに居たいと伝えた。快諾してくれて良かった。ここから動くことが怖かった。護衛の人たちが来てから、ルーカス様は彼らと仕事をする時間が出来た。そんな時は、サラさんと過ごす。サラさんとサムさん、トムさんからリリア国について教えてもらっている。

 この世界の天の川の存在の大きさ。この世界の水の供給源が天の川であること。リリアもルドも国内に天の川から水を引いている事、二つの国の違い、説明してもらって驚くことが沢山だ。僕がなぜ「神の御使い」と呼ばれるかも知った。天の川は神様そのものだ。川を渡ることが出来ないのも、川の水に入れないことも全てが神様の不思議な力なのだと知った。

橋を架けることなど神への冒涜とされるようだ。自然の驚異を神様の力に例えるのではなく、本当に神の力がそこにはある。僕には驚く事実だけれど、この国では常識の事みたい。

ルドとリリアの二つの国に交流がないことも、川が全てを遮断していると分かった。

二国はお互いを川越しに監視しているため、川沿いには拠点を置いている。僕がいるココは十三拠点と呼ばれる場所。川幅が三キロ以上あり超望遠鏡で監視している。そのため標的にならないように川付近は五階以下の低い建物しかない。また、国の仕組みについても知った。

 ルドもリリアも王族の支配する国家。どちらの国も、王族は獅子に獣化できる。王族の獅子獣体には空を飛ぶ羽があること。他の獣人は獣化できない。羽をもつ獅子獣人から次期王が決まること。リリアは王政でありながら豊かな自由国家。商業工業も栄えている。

 ルドに関しては良く分かっていないが、厳しい奴隷制とカースト制の社会。数年に一度、僕のようにルドから流れつく者がいること。彼らは「神の御使い」として信仰の対象となる。川から生きて帰るだけで神に守られた特別な存在となるようだ。

そのため、どうやら僕は国で有名人らしいこと。リリアは人口十五億人以上の大国家で、現在「神の使い」が僕だけであることも知った。

 人口の多くが大型と中型獣人であり、小型と言われる獣人が男女問わず伴侶として人気な事。獣人は、小さいものへの庇護欲がとても強いこと。

 僕の常識がひっくり返る話に頭がパンクしそうな日々だ。とにかく、この国にとって、生きているだけで僕が重宝される存在であることが分かった。僕が優しくしてもらえる背景が分かり、少し安心した。

落ち着いたら、王都に行き国王様をはじめとする王族貴族に会うこと。国民に顔を見せる事。そういったことが望ましいことも分かった。僕にやるべきことがあることが嬉しい。僕の身柄は今後ルーカス様が保護してくださることで国王様の許可が下りたことも知った。

 焦らずに療養してほしい、とのことも国を挙げての意志であると言われた。これまで「神の御使い」たちが短命であったからだ。僕が生きているということが、リリア国の喜びだと言われる。存在するだけで罰を受けていた僕が、存在するだけで大切にされている。不思議な気持ちだ。

 リリアに来て、一か月が過ぎた。僕はまだ、十三区基地にいる。ここから動くことが怖くなっている。せっかくここの人たちに慣れてきたから離れることが怖い。それに、毎日がとても楽しい。昨日は初めてルーカス様と基地外に出かけた。

 普段、半そでシャツとスラックスズボンを用意してもらって着ているけれど、昨日は腰丈のマントを着るように用意された。

紺の生地は軽いけれど、キラキラ装飾が入っていて着るのにためらった。この国では外出時はマントを着けるらしい。外ではマントの中に尻尾を入れて、尻尾の動きが見えないようにするのがマナーらしい。室内ではマントを取る。何となく帽子みたいなものかな、と思った。

 ルーカス様は、さすが王族って風の真っ赤なゴージャスマント。金の刺繍と宝石が付いていて重そう。体格の良さが際立って、見惚れてしまった。

「かっこいい」と伝えると、嬉しそうに尻尾を振る。大きなルーカス様の尻尾のしぐさが可愛らしくてたまらない。二人で笑いあって一番近い街に出かけた。いつもより多い護衛さんも一緒。


 マーケットや街並みを見て回った。中世のヨーロッパだ。夢の国のような光景。

ショップのアイスを買ってもらい公園ベンチで食べた。クレープにジェラートが包んである。タルトを砕いたようなものも入っていて食べ応えがある。バニラジェラートに苺が添えてあり美味しい。

一つのサイズがアメリカンサイズで大きいから、ハーフサイズ以下に小さく作ってもらった。この国の食べ物サイズはとても僕には食べきれない。

 街では護衛の人に制されて遠巻きにこちらを見る大勢の住人に緊張した。そんな人々を見て、僕は自分のサイズが獣人の子供程度だと納得した。ルーカス様は人々の目線に慣れている様子だった。

 最先端のオシャレなショップや、昔ながらの露店。それらが素敵に共存している街並み。豊かな国だと分かる。人々の生活レベルが高い。緊張したけれど、とても楽しい一日だった。

 基地の敷地外には殿下と一緒に行くように言われた。昼間は楽しく過ごして、夜には必ずルーカス様に奉仕する。

これで足りるのかな? この幸福に見合った代償だろうか? どうしてもそんな不安が拭い去れない。
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