顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け！

Ⅴ 芸能スクープ

⑤

「あぁ、ごめん。ルカ」
ノボルと涼の声にすぐに反応できない。周囲では「頭が痛い」「アルファこえぇ」と声が飛んでいる。

「ルカをこちらに」
その声にルカは這うようにして蓮の方を向く。この心の震えを治められるのは蓮だけだ。これも本能で分かる。そっと抱きとめてくれる蓮。触れ合うだけで少し楽になる。

（怖かったよ）
心の中でそっと語りかける。身体を小さくして蓮の腕に潜り込む。

「よしよし。もう大丈夫だ。俺が居る。よく耐えたな。もう大丈夫」
そっと耳元に落とされる言葉が心に染みわたる。包み込む腕から『大丈夫』が流れ込む。

（そっか、もう大丈夫なのか）
やっと身体の震えが止まり、ゆっくり呼吸をした。

「公衆の場でアルファの威圧を使うなど、何を考えている？」
涼とノボルに厳しい言葉をかける蓮。

「てめぇ、ふざけんな！　ルカをキズモノにしたアルファの癖に！　てめぇがしたことに比べればこんなの屁でもねぇだろうが！」
「お前が来なきゃ、俺らも威圧なんか使わねーよ！」

「そうか。それは誰のための威圧だ？　ルカのためになったのか？　結果、ルカを苦しめただけじゃないのか？」
冷静な蓮の言葉にハッと息を飲む二人。

「お前たちにルカは任せられない」
厳しい蓮の言葉に、涼とノボルは何も言い返さなかった。

「いや、ダメだ！　ルカは渡さない！」
頭を押さえながら川口さんの声。

「蓮はルカを苦しめた張本人だろうが！　どいつもこいつもアルファなんかロクでもない奴らなんだ！　蓮にルカを渡せるか！」
「お前がルカに執着しているのは分かっている。ルカの個人情報を報道に流したのはお前だろう。マネージャーの立場で知り得た個人情報を漏洩していいのか？」

「え？」
蓮の言葉に驚いてルカが川口さんを見る。

川口さんが青ざめて蓮を睨んでいる。
「証拠は？　僕が漏洩した事実はないはずだ」
「金を積んで口止めした奴は、さらに金を積めば口を割る。そんなことが分からないか？」
蓮の言葉に川口さんがビクリと肩を震わせる。

「え？　え？　川口さんが？　嘘、でしょう？」
ルカの言葉に下を向いたまま応えない川口さん。あまりの事に疑問符ばかりがルカの頭を占める。混乱で心臓が異常なほど鳴り響いている。頭痛も完全にはおさまっていない。色々な事が受け止められず手が震えた。

「ルカ、俺と来い」
その声に蓮を見上げた。アルファの熱を秘めた瞳でルカを見つめている。ルカはコクリと頷いていた。

その時の蓮の手は、この場の中で一番信用できるモノだった。