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Ⅱ ジェンダーレスモデル「LUCa」
①
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「こっち向いて~~。そうそう、目線は上に向けたまま、いいね、LUCa君、そのままストップして」
パシャパシャと軽快なカメラのシャッター音。ルカは『LUCa』としてモデルデビューした。もうじきデビューして一年が過ぎる。
今日は男性雑誌『ジェントルアルファ』の表紙撮影。
男性ファッション誌としては日本でトップスリーに入る人気雑誌。ジェントルアルファ専属男性モデルは皆百八十五センチ以上の高身長にスマートマッチョのモデルたち。その中に百七十二センチのルカ。
ルカは、男性より柔らかい肉質に女性より締まったボディーライン。外に出ることが少なかったから日焼けしていない幼児のような肌。白いだけではなく、穢れを知らないと表現するに値する肌。
女性なのか男性なのか分からない不思議な雰囲気。見せ方ひとつで幼くも大人っぽくも見える綺麗な顔。男性モデルたちと並ぶとひ弱に見えて嫌だとルカは思うが、傍から見れば「女神を守る軍神」といった神々しい図になっているらしい。その感覚はルカには全く分からないが。
ルカはバース性被害を受けている男性オメガであることを世間に公開している。うなじの噛み跡も知られており、男性モデルの中に居ても恋愛対象にならないことが世間の嫉妬を買わずにいい方向に動いている。女性モデルと居ても同じことが言え、プラトニックな美しい存在として人気が出ている。
順調にオファーが増えていく日々。雑誌社の井本さんの勧めで芸能事務所にも所属した。東京に一人暮らしも始めた。夜の外出が怖いのは相変わらず。世間の評価はありがたいが実際のルカは日々をこなすことに手いっぱいだった。いつの間にか二十歳を過ぎていた。
「ルカ、今日も綺麗だな。こんなに美しいお前がキズモノオメガだなんて信じられん」
撮影終了後に男性モデルの涼から声がかかる。涼は身長百九十五センチのアルファ。男性らしい身体に黒髪、凛々しい黒眉毛にたれ目が印象的なモデル。
「おい、涼。バースハラスメントだぞ。そんな言い方はダメだ。ルカはその辺のオメガと違う。ルカからアルファを切り捨ててやったに違いない」
直ぐに注意してくれるのはありがたいが、フォローされているのか分かりにくいことを言うノボル。
ノボルは涼と同じくアルファ。優男風の穏やかな小顔に引き締まった体つきの百九十二センチのモデル。バース性についての話題になるとルカはいつも困った笑いを浮かべる様にしている。そうすると皆が気遣って話題を変えてくれるから。
「よく、覚えていないんだ」
深く探られそうになると毎回この言葉で切り抜けている。
思った通り「ゴメン、そうだよな」「ルカ、差し入れのプリンがあるぞ」と話が流れる。
「やった。プリン食べよ。涼とノボルは甘いの苦手だよね。持って帰る?」
ニッコリ笑いかければ二人とも安堵したかのように笑う。
「ルカが好きならプリン全部食べてもいい。ルカが笑っていてくれるなら、俺は何でもあげるよ」
「俺も同感」
毎回こんな恥ずかしいセリフを言ってくる涼とノボル。ルカは軽く笑い飛ばす。
「そんなこと言うから俺が男なのに女神とか言われるんだろ? 涼もノボルも恋人や番つくれば意識が変わるって。俺なんかに甘い言葉使うなよ」
そう声をかければ二人が真剣な目で見つめてくる。
「ルカ、俺はお前以上に惹かれる存在なんていないよ。お前に番の上書きをしたいくらいだ」
「オメガフェロモンを感じなくても魅力的なオメガってルカだけだからな。一度で良いからお前の匂いを嗅いでみたいと心から願うよ」
二人がやけに真面目に言うからどう返事をしていいのか分からない。困って手元をじっと見つめる。
「ほら、俺のもやろう。ルカ、食べ過ぎて太るなよ?」
後ろから身長百八十八センチの航大が声をかけてくる。ベータの航大は涼とノボルが暴走しそうになると毎回優しく間に入ってくれる。
「航大、さすがに食べきれない」
そう見上げると、航大はニコリと笑って頭をナデナデする。
「おい! 抜け駆けするな!」
涼とノボルが顔を赤くして航大に詰め寄る。見慣れたこの光景。大きな犬たちがじゃれている様でルカはクスクス笑ってしまう。
涼とノボルはアルファだから、撮影以外では滅多にルカに触れてこない。バースハラスメントと言われてしまうから。ベータの航大は「俺の特権」と嬉しそうにルカを撫でる。
優しくされて嫌な気はしないけれど、彼らは恋愛対象にならないキズモノオメガだからルカをかまっているに過ぎない。憐れんでいるだけだ。だから常にルカは一線を置いて深入りしないように受け流している。
「ルカ、帰るよ。もう陽が落ちたから一緒に車まで行こう」
「あ、川口さん。ありがとうございます」
お疲れ様です、と挨拶をして撮影現場を後にする。涼とノボル、航大に軽く手を振って別れる。
遠慮したのに手土産にプリンを二個貰ってしまった。
パシャパシャと軽快なカメラのシャッター音。ルカは『LUCa』としてモデルデビューした。もうじきデビューして一年が過ぎる。
今日は男性雑誌『ジェントルアルファ』の表紙撮影。
男性ファッション誌としては日本でトップスリーに入る人気雑誌。ジェントルアルファ専属男性モデルは皆百八十五センチ以上の高身長にスマートマッチョのモデルたち。その中に百七十二センチのルカ。
ルカは、男性より柔らかい肉質に女性より締まったボディーライン。外に出ることが少なかったから日焼けしていない幼児のような肌。白いだけではなく、穢れを知らないと表現するに値する肌。
女性なのか男性なのか分からない不思議な雰囲気。見せ方ひとつで幼くも大人っぽくも見える綺麗な顔。男性モデルたちと並ぶとひ弱に見えて嫌だとルカは思うが、傍から見れば「女神を守る軍神」といった神々しい図になっているらしい。その感覚はルカには全く分からないが。
ルカはバース性被害を受けている男性オメガであることを世間に公開している。うなじの噛み跡も知られており、男性モデルの中に居ても恋愛対象にならないことが世間の嫉妬を買わずにいい方向に動いている。女性モデルと居ても同じことが言え、プラトニックな美しい存在として人気が出ている。
順調にオファーが増えていく日々。雑誌社の井本さんの勧めで芸能事務所にも所属した。東京に一人暮らしも始めた。夜の外出が怖いのは相変わらず。世間の評価はありがたいが実際のルカは日々をこなすことに手いっぱいだった。いつの間にか二十歳を過ぎていた。
「ルカ、今日も綺麗だな。こんなに美しいお前がキズモノオメガだなんて信じられん」
撮影終了後に男性モデルの涼から声がかかる。涼は身長百九十五センチのアルファ。男性らしい身体に黒髪、凛々しい黒眉毛にたれ目が印象的なモデル。
「おい、涼。バースハラスメントだぞ。そんな言い方はダメだ。ルカはその辺のオメガと違う。ルカからアルファを切り捨ててやったに違いない」
直ぐに注意してくれるのはありがたいが、フォローされているのか分かりにくいことを言うノボル。
ノボルは涼と同じくアルファ。優男風の穏やかな小顔に引き締まった体つきの百九十二センチのモデル。バース性についての話題になるとルカはいつも困った笑いを浮かべる様にしている。そうすると皆が気遣って話題を変えてくれるから。
「よく、覚えていないんだ」
深く探られそうになると毎回この言葉で切り抜けている。
思った通り「ゴメン、そうだよな」「ルカ、差し入れのプリンがあるぞ」と話が流れる。
「やった。プリン食べよ。涼とノボルは甘いの苦手だよね。持って帰る?」
ニッコリ笑いかければ二人とも安堵したかのように笑う。
「ルカが好きならプリン全部食べてもいい。ルカが笑っていてくれるなら、俺は何でもあげるよ」
「俺も同感」
毎回こんな恥ずかしいセリフを言ってくる涼とノボル。ルカは軽く笑い飛ばす。
「そんなこと言うから俺が男なのに女神とか言われるんだろ? 涼もノボルも恋人や番つくれば意識が変わるって。俺なんかに甘い言葉使うなよ」
そう声をかければ二人が真剣な目で見つめてくる。
「ルカ、俺はお前以上に惹かれる存在なんていないよ。お前に番の上書きをしたいくらいだ」
「オメガフェロモンを感じなくても魅力的なオメガってルカだけだからな。一度で良いからお前の匂いを嗅いでみたいと心から願うよ」
二人がやけに真面目に言うからどう返事をしていいのか分からない。困って手元をじっと見つめる。
「ほら、俺のもやろう。ルカ、食べ過ぎて太るなよ?」
後ろから身長百八十八センチの航大が声をかけてくる。ベータの航大は涼とノボルが暴走しそうになると毎回優しく間に入ってくれる。
「航大、さすがに食べきれない」
そう見上げると、航大はニコリと笑って頭をナデナデする。
「おい! 抜け駆けするな!」
涼とノボルが顔を赤くして航大に詰め寄る。見慣れたこの光景。大きな犬たちがじゃれている様でルカはクスクス笑ってしまう。
涼とノボルはアルファだから、撮影以外では滅多にルカに触れてこない。バースハラスメントと言われてしまうから。ベータの航大は「俺の特権」と嬉しそうにルカを撫でる。
優しくされて嫌な気はしないけれど、彼らは恋愛対象にならないキズモノオメガだからルカをかまっているに過ぎない。憐れんでいるだけだ。だから常にルカは一線を置いて深入りしないように受け流している。
「ルカ、帰るよ。もう陽が落ちたから一緒に車まで行こう」
「あ、川口さん。ありがとうございます」
お疲れ様です、と挨拶をして撮影現場を後にする。涼とノボル、航大に軽く手を振って別れる。
遠慮したのに手土産にプリンを二個貰ってしまった。
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