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Ⅰ キズモノオメガ

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ルカは十九歳になっていた。通信教育の高卒認定試験に合格した。このまま進学するか悩んでいた。

この先、新治療が認可されたら臨床試験が終了する。この治療は認可された時に保険適応となるか分からない。保険適応外となったら治療にお金がかかる。そうなったときを考えて大学進学はやめようと考えていた。いつ臨床試験が終了しても一人で生きて行けるように働く道を探したほうがいい。

ルカには一緒に生きてくれる番のアルファが居ないから。

自分で生きる術を確立しなくてはいけない。両親に出してもらってばかりのお金も何とかしたい。そのために求職案内を見に駅周辺まで来てみた。一応『番』がいるからルカのオメガフェロモンで周囲を誘惑することが無い。発情期間だけ除けば外で働ける。そこだけは知らない番に感謝するところ。

オメガのマナーとしてうなじを隠すオメガ用首帯をつけての外出。コレがあると「男性オメガだ」と物珍し気な周囲の目線を感じる。そんな視線に疲労する。家を出てまだ一時間。だけど疲れ切ってしまい(もう今日は帰ろう)と思った、その時。

「君! ちょっと、君。待って」
急に女性の声がして驚く。ルカは自分ではないと思い立ち去ろうとするが、腕を掴まれる。途端に身体が硬直する。

「君、すっごい美人だね。男性オメガだよね!」
早口で話す興奮気味の中年女性。ルカは腕を掴まれている状況に心臓がバクバクしていた。緊張する様子に気が付いて女性が優しく手を離す。

「ごめんね。怖がらせたよね。あ~~、理想に会ってしまって、逃したくない思いで焦ってしまいました。すみません」
久しぶりに医療職者でも家族でもない人と対面している。不安感に数歩距離をとる。女性はパンツスーツのいかにもキャリアウーマンといった雰囲気。周囲を通行する人が何事かとチラチラこちらを見る。

「主任、急にいなくならないでください!」
小走りに近づくスーツの男性。急に怖さが沸きあがる。ルカが逃げようとすると女性から声がかかる。

「本当に、待って。お願い。こんなにイメージピッタリの人はそうそういないのよ。怪しい者じゃないですから。雑誌の編集部なの。新しいモデルを探しているの。ぜひ、話をさせてください」

「モデル? ですか? 俺が? それって、働くってこと?」
「もちろんお金を払います。新しいタイプの専属モデルを探していたのよ」

「なるほど、さすが主任。確かに彼ならイメージピッタリです。下手に芸能事務所の人材を使うより良いですね」
二人に品定めをされるように見られて不安感からバッグをギュッと握り締める。

怖い気持ちもあるけれど働けるかもしれない期待で二人の話を聞くことにした。とりあえず開放的な雰囲気の喫茶店に入った。
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