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Ⅰ キズモノオメガ
①
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――噛まれた時の心臓を突き抜けるような衝撃。忘れられないあの痛みは、発情期の度にルカを苦しめる――
本田ルカは小学四年生時の全国統一バース診断でオメガと診断された。稀少とされる男性オメガ。そう判明してからは犯罪に巻き込まれないように二十時過ぎの外出を控えてきた。
だが中学三年のあの日。こっそり夜のコンビニに出かけた。受験勉強に嫌気がさしていた。炭酸飲料でも飲んでスッキリしたいと思っていた。モヤモヤする心を洗い流したい気分だった。
中学生になりオメガ用フェロモン抑制剤の内服が始まった。薬を飲むなんて病気みたいで嫌だった。
学校で「男オメガって本当?」と聞かれるウザさ。「発情期が来たら困るから」と何度も注意してくる母親。その全てにイライラしていた。ちょっとした反抗心で二十一時過ぎに家を抜け出した。初めての単独夜間外出に心がドキドキした。三百メートル先にあるコンビニに行くだけ。だから携帯電話も持たずに歩いた。結構人も歩いているし思ったほど暗い夜道ではない。大きな道沿いで車の往来もある。
「ありがとうございました~」
コンビニで目的の炭酸飲料を買った。何故か無性に嬉しくてルカの頬が緩む。
(ほら、大丈夫じゃないか)
そんな妙な自信がルカの心を満たしていた。
緊張してきた行きと違い余裕で歩道を歩く。行く時には数人が歩いていたが今は誰もいない。まるで世界を独占したかのような満足感。すぐに帰るのがもったいなくて立ち止まり、買い物袋から炭酸飲料を取り出す。プシュッと良い響き。パキパキと蓋が開く音が心地いい。生暖かい風に汗が流れる。一口飲めば体温が一気に下がったような快感。
「うっま」
一言を小さく声にする。一息ついてペットボトルの蓋をしようとした時。後ろからグイっと腕を掴まれた。身体を後ろに吊り上げられるように引っ張られる。
「何っ! ちょ、ちょっと!」
驚いてペットボトルを落とす。転がるペットボトルから中身がシュワシュワ溢れ出る。
真後ろに感じる大きな男の存在。恐怖に全身の毛穴から汗が噴き出る! 怖くて振り向けない。
「や、やめ、て……」
情けない声しか出せなかった。
心臓がバクバク最大の音を鳴らしていた。息が速くなる! 何とか逃れようとしたが身体が持ち上げられる。足が地面から離れる。相手との体格差と力の差を見せつけられて震えが走る。真剣にヤバいと思った、次の瞬間。
うなじに走る衝撃。まるで鉛筆を突き刺されたような痛み!
「ぅぁぁぁあ!!」
出したことも無い悲痛な声が口から洩れた。心臓が、凍る!
手足がビーンと突っ張り身体がビクビク跳ねる。涙が滝のように流れる。衝撃が消えない内にドサッと地面に落とされた。呼吸が苦しい。よく分からない混乱でルカの意識がブツリと途切れた。
目が覚めたら病院だった。ベッドに寝ていた。傍で親が泣いていた。
「どうして? どうして一人で出かけたのよ……」
泣きながら呟く母親の声。
そっと首を触ると包帯が巻かれている。腕には点滴。
「俺、どうなったの?」
その質問に親は応えてくれなかった。
翌日、病院の先生から説明があった。
ルカは道路に倒れているところを発見されて病院に運ばれていた。性的な暴行はされていなかった。しかし、アルファがうなじを噛んだようだ、と伝えられた。その意味が分からなくて「はい?」と聞き返した。
本田ルカは小学四年生時の全国統一バース診断でオメガと診断された。稀少とされる男性オメガ。そう判明してからは犯罪に巻き込まれないように二十時過ぎの外出を控えてきた。
だが中学三年のあの日。こっそり夜のコンビニに出かけた。受験勉強に嫌気がさしていた。炭酸飲料でも飲んでスッキリしたいと思っていた。モヤモヤする心を洗い流したい気分だった。
中学生になりオメガ用フェロモン抑制剤の内服が始まった。薬を飲むなんて病気みたいで嫌だった。
学校で「男オメガって本当?」と聞かれるウザさ。「発情期が来たら困るから」と何度も注意してくる母親。その全てにイライラしていた。ちょっとした反抗心で二十一時過ぎに家を抜け出した。初めての単独夜間外出に心がドキドキした。三百メートル先にあるコンビニに行くだけ。だから携帯電話も持たずに歩いた。結構人も歩いているし思ったほど暗い夜道ではない。大きな道沿いで車の往来もある。
「ありがとうございました~」
コンビニで目的の炭酸飲料を買った。何故か無性に嬉しくてルカの頬が緩む。
(ほら、大丈夫じゃないか)
そんな妙な自信がルカの心を満たしていた。
緊張してきた行きと違い余裕で歩道を歩く。行く時には数人が歩いていたが今は誰もいない。まるで世界を独占したかのような満足感。すぐに帰るのがもったいなくて立ち止まり、買い物袋から炭酸飲料を取り出す。プシュッと良い響き。パキパキと蓋が開く音が心地いい。生暖かい風に汗が流れる。一口飲めば体温が一気に下がったような快感。
「うっま」
一言を小さく声にする。一息ついてペットボトルの蓋をしようとした時。後ろからグイっと腕を掴まれた。身体を後ろに吊り上げられるように引っ張られる。
「何っ! ちょ、ちょっと!」
驚いてペットボトルを落とす。転がるペットボトルから中身がシュワシュワ溢れ出る。
真後ろに感じる大きな男の存在。恐怖に全身の毛穴から汗が噴き出る! 怖くて振り向けない。
「や、やめ、て……」
情けない声しか出せなかった。
心臓がバクバク最大の音を鳴らしていた。息が速くなる! 何とか逃れようとしたが身体が持ち上げられる。足が地面から離れる。相手との体格差と力の差を見せつけられて震えが走る。真剣にヤバいと思った、次の瞬間。
うなじに走る衝撃。まるで鉛筆を突き刺されたような痛み!
「ぅぁぁぁあ!!」
出したことも無い悲痛な声が口から洩れた。心臓が、凍る!
手足がビーンと突っ張り身体がビクビク跳ねる。涙が滝のように流れる。衝撃が消えない内にドサッと地面に落とされた。呼吸が苦しい。よく分からない混乱でルカの意識がブツリと途切れた。
目が覚めたら病院だった。ベッドに寝ていた。傍で親が泣いていた。
「どうして? どうして一人で出かけたのよ……」
泣きながら呟く母親の声。
そっと首を触ると包帯が巻かれている。腕には点滴。
「俺、どうなったの?」
その質問に親は応えてくれなかった。
翌日、病院の先生から説明があった。
ルカは道路に倒れているところを発見されて病院に運ばれていた。性的な暴行はされていなかった。しかし、アルファがうなじを噛んだようだ、と伝えられた。その意味が分からなくて「はい?」と聞き返した。
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