1 / 3
Ⅰ キズモノオメガ
①
しおりを挟む
――噛まれた時の心臓を突き抜けるような衝撃。忘れられないあの痛みは、発情期の度にルカを苦しめる――
本田ルカは小学四年生時の全国統一バース診断でオメガと診断された。稀少とされる男性オメガ。そう判明してからは犯罪に巻き込まれないように二十時過ぎの外出を控えてきた。
だが中学三年のあの日。こっそり夜のコンビニに出かけた。受験勉強に嫌気がさしていた。炭酸飲料でも飲んでスッキリしたいと思っていた。モヤモヤする心を洗い流したい気分だった。
中学生になりオメガ用フェロモン抑制剤の内服が始まった。薬を飲むなんて病気みたいで嫌だった。
学校で「男オメガって本当?」と聞かれるウザさ。「発情期が来たら困るから」と何度も注意してくる母親。その全てにイライラしていた。ちょっとした反抗心で二十一時過ぎに家を抜け出した。初めての単独夜間外出に心がドキドキした。三百メートル先にあるコンビニに行くだけ。だから携帯電話も持たずに歩いた。結構人も歩いているし思ったほど暗い夜道ではない。大きな道沿いで車の往来もある。
「ありがとうございました~」
コンビニで目的の炭酸飲料を買った。何故か無性に嬉しくてルカの頬が緩む。
(ほら、大丈夫じゃないか)
そんな妙な自信がルカの心を満たしていた。
緊張してきた行きと違い余裕で歩道を歩く。行く時には数人が歩いていたが今は誰もいない。まるで世界を独占したかのような満足感。すぐに帰るのがもったいなくて立ち止まり、買い物袋から炭酸飲料を取り出す。プシュッと良い響き。パキパキと蓋が開く音が心地いい。生暖かい風に汗が流れる。一口飲めば体温が一気に下がったような快感。
「うっま」
一言を小さく声にする。一息ついてペットボトルの蓋をしようとした時。後ろからグイっと腕を掴まれた。身体を後ろに吊り上げられるように引っ張られる。
「何っ! ちょ、ちょっと!」
驚いてペットボトルを落とす。転がるペットボトルから中身がシュワシュワ溢れ出る。
真後ろに感じる大きな男の存在。恐怖に全身の毛穴から汗が噴き出る! 怖くて振り向けない。
「や、やめ、て……」
情けない声しか出せなかった。
心臓がバクバク最大の音を鳴らしていた。息が速くなる! 何とか逃れようとしたが身体が持ち上げられる。足が地面から離れる。相手との体格差と力の差を見せつけられて震えが走る。真剣にヤバいと思った、次の瞬間。
うなじに走る衝撃。まるで鉛筆を突き刺されたような痛み!
「ぅぁぁぁあ!!」
出したことも無い悲痛な声が口から洩れた。心臓が、凍る!
手足がビーンと突っ張り身体がビクビク跳ねる。涙が滝のように流れる。衝撃が消えない内にドサッと地面に落とされた。呼吸が苦しい。よく分からない混乱でルカの意識がブツリと途切れた。
目が覚めたら病院だった。ベッドに寝ていた。傍で親が泣いていた。
「どうして? どうして一人で出かけたのよ……」
泣きながら呟く母親の声。
そっと首を触ると包帯が巻かれている。腕には点滴。
「俺、どうなったの?」
その質問に親は応えてくれなかった。
翌日、病院の先生から説明があった。
ルカは道路に倒れているところを発見されて病院に運ばれていた。性的な暴行はされていなかった。しかし、アルファがうなじを噛んだようだ、と伝えられた。その意味が分からなくて「はい?」と聞き返した。
本田ルカは小学四年生時の全国統一バース診断でオメガと診断された。稀少とされる男性オメガ。そう判明してからは犯罪に巻き込まれないように二十時過ぎの外出を控えてきた。
だが中学三年のあの日。こっそり夜のコンビニに出かけた。受験勉強に嫌気がさしていた。炭酸飲料でも飲んでスッキリしたいと思っていた。モヤモヤする心を洗い流したい気分だった。
中学生になりオメガ用フェロモン抑制剤の内服が始まった。薬を飲むなんて病気みたいで嫌だった。
学校で「男オメガって本当?」と聞かれるウザさ。「発情期が来たら困るから」と何度も注意してくる母親。その全てにイライラしていた。ちょっとした反抗心で二十一時過ぎに家を抜け出した。初めての単独夜間外出に心がドキドキした。三百メートル先にあるコンビニに行くだけ。だから携帯電話も持たずに歩いた。結構人も歩いているし思ったほど暗い夜道ではない。大きな道沿いで車の往来もある。
「ありがとうございました~」
コンビニで目的の炭酸飲料を買った。何故か無性に嬉しくてルカの頬が緩む。
(ほら、大丈夫じゃないか)
そんな妙な自信がルカの心を満たしていた。
緊張してきた行きと違い余裕で歩道を歩く。行く時には数人が歩いていたが今は誰もいない。まるで世界を独占したかのような満足感。すぐに帰るのがもったいなくて立ち止まり、買い物袋から炭酸飲料を取り出す。プシュッと良い響き。パキパキと蓋が開く音が心地いい。生暖かい風に汗が流れる。一口飲めば体温が一気に下がったような快感。
「うっま」
一言を小さく声にする。一息ついてペットボトルの蓋をしようとした時。後ろからグイっと腕を掴まれた。身体を後ろに吊り上げられるように引っ張られる。
「何っ! ちょ、ちょっと!」
驚いてペットボトルを落とす。転がるペットボトルから中身がシュワシュワ溢れ出る。
真後ろに感じる大きな男の存在。恐怖に全身の毛穴から汗が噴き出る! 怖くて振り向けない。
「や、やめ、て……」
情けない声しか出せなかった。
心臓がバクバク最大の音を鳴らしていた。息が速くなる! 何とか逃れようとしたが身体が持ち上げられる。足が地面から離れる。相手との体格差と力の差を見せつけられて震えが走る。真剣にヤバいと思った、次の瞬間。
うなじに走る衝撃。まるで鉛筆を突き刺されたような痛み!
「ぅぁぁぁあ!!」
出したことも無い悲痛な声が口から洩れた。心臓が、凍る!
手足がビーンと突っ張り身体がビクビク跳ねる。涙が滝のように流れる。衝撃が消えない内にドサッと地面に落とされた。呼吸が苦しい。よく分からない混乱でルカの意識がブツリと途切れた。
目が覚めたら病院だった。ベッドに寝ていた。傍で親が泣いていた。
「どうして? どうして一人で出かけたのよ……」
泣きながら呟く母親の声。
そっと首を触ると包帯が巻かれている。腕には点滴。
「俺、どうなったの?」
その質問に親は応えてくれなかった。
翌日、病院の先生から説明があった。
ルカは道路に倒れているところを発見されて病院に運ばれていた。性的な暴行はされていなかった。しかし、アルファがうなじを噛んだようだ、と伝えられた。その意味が分からなくて「はい?」と聞き返した。
41
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
身代わりオメガの純情
夕夏
BL
宿無しの少年エレインは、靴磨きで生計を立てている。彼はある日、死んでしまったレドフォード伯爵家の次男アルフレッドに成り代わり嫁ぐことを伯爵家の執事トーマスに提案され、困惑する。しかし知り合いの死を機に、「アルフレッド」に成り代わることを承諾する。
バース性がわからないまま、オメガのふりをしてバーレント伯爵エドワードと婚約したエレイン。オメガであることを偽装するために、媚薬を飲み、香水を使うも、エドワードにはあっさりと看破されてしまう。はじめは自分に興味を示さないかと思われていたエドワードから思いもよらない贈り物を渡され、エレインは喜ぶと同時に自分がアルフレッドに成り代わっていることを恥じる。エレインは良心の呵責と幸せの板挟みにあいながら、夜会や春祭りでエドワードと心を通わせていく。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
浮気三昧の屑彼氏を捨てて後宮に入り、はや1ヶ月が経ちました
Q.➽
BL
浮気性の恋人(ベータ)の度重なる裏切りに愛想を尽かして別れを告げ、彼の手の届かない場所で就職したオメガのユウリン。
しかしそこは、この国の皇帝の後宮だった。
後宮は高給、などと呑気に3食昼寝付き+珍しいオヤツ付きという、楽しくダラケた日々を送るユウリンだったが…。
◆ユウリン(夕凛)・男性オメガ 20歳
長めの黒髪 金茶の瞳 東洋系の美形
容姿は結構いい線いってる自覚あり
◆エリアス ・ユウリンの元彼・男性ベータ 22歳
赤っぽい金髪に緑の瞳 典型的イケメン
女好き ユウリンの熱心さとオメガへの物珍しさで付き合った。惚れた方が負けなんだから俺が何しても許されるだろ、と本気で思っている
※異世界ですがナーロッパではありません。
※この作品は『爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話』のスピンオフです。
ですが、時代はもう少し後になります。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる