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Ⅷ
前に進む一歩
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優しい、満たされる行為だった。意識を飛ばすなんて激しいことは無かった。僕を満たし尽くす行為。気持ち良さに安心して溺れていられる時間。これって幸せだ、そう思った。康太さんを求めて食べつくしたいと思うことも許される。康太さんが僕の奥に侵入してくるのも許せる。繋がるって凄い。お互いの優しさに触れる行為だ。
「あ~~、幸せすぎる。最高すぎる。可愛いすぎる。今、徹夜で仕事しろって言われたら三日は平気で働ける。そんなハイな気分だ~~」
僕を抱き締めてしばらく顔をスリスリ頭に押し付けてくる康太さん。くすぐったい。
「そうそう、メール来ていたから伝えるね。今話しても大丈夫?」
ちょっと真剣な顔。何だろう? 「はい」と応える。
「滝井先輩のこと。こんな時にゴメン。でも早く知らせたいと思って。探偵会社の人が理久君への暴行を画像に撮ってくれている。その証拠をもとに、今後一切理久君と俺に関わらないという念書にサインが貰えた。こういうのは当人が出ないほうが良い。同じ事務所の行政書士さんが請け負ってくれて、代理人として書類に同意をもらってくれた。これでひとまず安心だ。ただ、理久君が殴られたことへの被害届を出したいとか、民事的責任追及したいなら俺が全面的にフォローする。今後についてゆっくり決めていいよ」
さらりと言われたことに驚きが隠せない。
「知っていたんですか?」
「理久君の職場の青井さんが教えてくれたから調べたよ」
「え? 青井さん?」
「僕の職場に電話くれてね。理久君のことを心配していたよ。温かい人だね」
「そんなに話したこと、ないです」
「言葉だけじゃないんだ。仕事や人付き合いって性格や生い立ちが態度に出る。そこを見ている人も多いんだよ」
首をかしげる理久君。
「滝井先輩は、君に対しての態度が上司に見られていたようだよ。差別的な行為があるとして職場内で少し風当たりが強くなっていたようだ。そのため、管理の仕事を減らされて新規顧客の営業など外回りを指示されていたようだ。見ている人は見ているんだよ」
頭をナデナデされる。
「つまり、いつでも胸を張って歩けるような自分でいるほうがいいって事だよ。理久君が頑張ってくれた日々があるから、俺は出会えた。恋に落ちた。今の理久君が好きだ」
そうか。康太さんと一緒に居られるのは、あの日々があったからか。そう思うと気持ちも楽になる。
「そっか。今やっと、大変だったことが過ぎたことだと思えた気がします。康太さんの言葉、何となくわかりました」
僕を包み込む、優しい康太さんが大好きだ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。俺も行ってきます。携帯電話、持ったね? 終わったら連絡して」
「はい。行ってらっしゃい」
笑顔で手を振る。昨日は康太さんのマンションに泊まった。以前使用していた僕のモノがそのまま残してあった。「処分なんて出来るはずないだろ」と真っ赤に照れて話す康太さんが愛おしかった。今朝はコーヒーショップの駐車場まで車で送ってもらえた。正直足腰が痛くて助かった。駐車場で別れて仕事に向かう。
腰が痛くても、足取りが軽い。今日青井さんに会ったら話しかけてみよう。感謝を伝えてみよう。仕事が終わったら康太さんに連絡をしよう。今の一歩は次につながる一歩だ。人に繋がる、前に進む一歩。心が温かいもので満たされる。よく晴れた空。青空と白い雲が綺麗な空だ。凛とした風に初冬の季節を感じる。深呼吸して公園の木々の空気を吸い込む。よし、今日も頑張ろう、と前を向く。 <完>
「あ~~、幸せすぎる。最高すぎる。可愛いすぎる。今、徹夜で仕事しろって言われたら三日は平気で働ける。そんなハイな気分だ~~」
僕を抱き締めてしばらく顔をスリスリ頭に押し付けてくる康太さん。くすぐったい。
「そうそう、メール来ていたから伝えるね。今話しても大丈夫?」
ちょっと真剣な顔。何だろう? 「はい」と応える。
「滝井先輩のこと。こんな時にゴメン。でも早く知らせたいと思って。探偵会社の人が理久君への暴行を画像に撮ってくれている。その証拠をもとに、今後一切理久君と俺に関わらないという念書にサインが貰えた。こういうのは当人が出ないほうが良い。同じ事務所の行政書士さんが請け負ってくれて、代理人として書類に同意をもらってくれた。これでひとまず安心だ。ただ、理久君が殴られたことへの被害届を出したいとか、民事的責任追及したいなら俺が全面的にフォローする。今後についてゆっくり決めていいよ」
さらりと言われたことに驚きが隠せない。
「知っていたんですか?」
「理久君の職場の青井さんが教えてくれたから調べたよ」
「え? 青井さん?」
「僕の職場に電話くれてね。理久君のことを心配していたよ。温かい人だね」
「そんなに話したこと、ないです」
「言葉だけじゃないんだ。仕事や人付き合いって性格や生い立ちが態度に出る。そこを見ている人も多いんだよ」
首をかしげる理久君。
「滝井先輩は、君に対しての態度が上司に見られていたようだよ。差別的な行為があるとして職場内で少し風当たりが強くなっていたようだ。そのため、管理の仕事を減らされて新規顧客の営業など外回りを指示されていたようだ。見ている人は見ているんだよ」
頭をナデナデされる。
「つまり、いつでも胸を張って歩けるような自分でいるほうがいいって事だよ。理久君が頑張ってくれた日々があるから、俺は出会えた。恋に落ちた。今の理久君が好きだ」
そうか。康太さんと一緒に居られるのは、あの日々があったからか。そう思うと気持ちも楽になる。
「そっか。今やっと、大変だったことが過ぎたことだと思えた気がします。康太さんの言葉、何となくわかりました」
僕を包み込む、優しい康太さんが大好きだ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。俺も行ってきます。携帯電話、持ったね? 終わったら連絡して」
「はい。行ってらっしゃい」
笑顔で手を振る。昨日は康太さんのマンションに泊まった。以前使用していた僕のモノがそのまま残してあった。「処分なんて出来るはずないだろ」と真っ赤に照れて話す康太さんが愛おしかった。今朝はコーヒーショップの駐車場まで車で送ってもらえた。正直足腰が痛くて助かった。駐車場で別れて仕事に向かう。
腰が痛くても、足取りが軽い。今日青井さんに会ったら話しかけてみよう。感謝を伝えてみよう。仕事が終わったら康太さんに連絡をしよう。今の一歩は次につながる一歩だ。人に繋がる、前に進む一歩。心が温かいもので満たされる。よく晴れた空。青空と白い雲が綺麗な空だ。凛とした風に初冬の季節を感じる。深呼吸して公園の木々の空気を吸い込む。よし、今日も頑張ろう、と前を向く。 <完>
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