裏切りと孤独と恋心と、君

小池 月

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恋心

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 どうしようもなく可愛い。理久君を表現するなら「可愛い」以外に当てはまらない。いちいち反応がくすぐったい子で、心をガッツリ掴んでくる。これはヤバいだろう。日に日にこちらを見るようになる表情。ニコリと笑う目元。昇天、という言葉がコレか! と感じる気持ち。モジモジして「ワー」っと叫びたくなる気持ち。俺は青春真っただ中か! と自己ツッコミたくなるホワホワした気持ち。春だ。脳内お花畑だ。幸せだ~~。この可愛い理久君が俺の腕の中に居まーす! と大声で言いふらしたい。
 それに理久君が抱えている何か。ところどころ触れてほしくなさそうな場面がある。出会った時の「殴らないで」と言っていた寝言。周囲に高い心の壁を作っている姿。家族や友人の話など自分の事を一切話さないところ。俺に心を開いてきているのは分かる。全てから俺が守ってあげるから、俺の傍に居ればいい。話したくないなら話さなくていい。一度、夜間に過呼吸のような発作も起こしている。追いつめたくない。目の前の、今の理久君が大好きだ。それが伝わるといい。言葉じゃない。俺の全てで気持ちを伝える。
 理久君を守りたい。支えたい。愛おしくて胸が苦しい。こんな気持ちは初めてだ。俺は理久君に惹かれている。だけど、男性同士だ。慎重にいかないと理久君を失ってしまう。怖がらせないように。もし俺の想いが叶わないなら、せめて友人として理久君の傍に居られるように。
 俺はこれまで仕事以外でこれ程に熱中することがあるなんて知らなかった。心も身体も躍り上がるような幸福感に、恋って素晴らしい! と実感している。

 あっという間の同棲期間だった。何度も引き留めてみたけれど、骨折の完治と共に自宅に理久君が戻る。手のリハビリも順調で仕事復帰も問題ないでしょう、と医師の診断。いや、もっと安静にしましょうよ! という俺を変な目で見る医師。先生、俺の気持を汲んでくれ。残念過ぎて肩ががっくり下がってしまう。理久君は俺のもとに居てくれると思っていたのに、意外にあっさり「お世話になりました」と言われてしまった。ショックの隠せない俺の心。せめて、公園の事務所に様子を見に行っていいか、お昼は一緒に食べられるか聞くと頷いてくれる。嫌われているわけじゃないことに安堵した。ケータイ電話を買って渡した。連絡が取りたかった。週末は俺と過ごそうと言うと、真っ赤になって頷いてくれる。それだけでも嬉しい。合い鍵は返されて、渋々受け取った。持っていて無くしたら責任取れません、と言う理久君。その通りだけど心が痛い。手放したくないな。心の底にある欲望を悟られないように、精一杯大人の対応をする。俺が高校生なら「行くなよ! 俺の傍に居ろ!」なんて叫ぶんだけど。大人って辛い。
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