上 下
39 / 47
Ⅲ 人殺しの竜人皇子と孤独な竜人貴族の絆愛

アレク皇子のお茶会

しおりを挟む
<三皇子お茶会>
 「それで? キリヤは落ち着いている?」
アレクとのお茶会。アレク、アレクの伴侶ランドール伯爵、オリバーにオリバーの婚約者レイ、そして俺の三皇子会だ。だいたいが近況報告や美味しい店があった、いい本がでた、人間の街の流行り、など雑談だ。だが今日は俺が相談事を持ち込んでいる。

 この兄弟は本当に様々な苦難に見舞われている。それを共に乗り切ってきたからこそ相談できる。オリバーは実際にキリヤを見ているから話が早い。
「あのキリヤの様子だと無かったことに出来たかと思ったが、やはり心の中に傷が残ったか」
「オリバー、僕はキリヤさんを見ていないけれど、襲われて何も感じないなんてこと無いと思う」
心配そうにアレクが言う。
「いやアレク。キリヤはすごいぞ。見たらわかる。何しろ、初日にカイトをバカ皇子呼ばわりだぞ?」
「え? バカ皇子って言われたの? ええ?」
アレクが考え込む。
「じゃぁ、僕はホワイトアスパラって呼ばれてしまうかもしれない……」
「アレク様。そんなことがあれば、私がその者を切り捨てて差し上げます」
「おいこら。キリヤを切ったら許さんぞ。ランドール、お前、殺してやる」
「え?? ちょっと! カイト、僕のランドールだよ!」
「おいおい、話がずれているぞ。というか、なんだホワイトアスパラって。アレクもキリヤといい勝負のズレっぷりじゃないか」
「アレク様は、最近少しお身体が逞しくなられました。アスパラなどではありません」
ドヤ顔のランドール。
「ランドール、ややこしくするな。話が進まんだろう」
レイがクスクス笑っている。
「そうだ。色々行き詰っているから、恥を忍んで話したんだ。家族だろうが。協力しろよ」
ちょっと拗ねて声をかけると、それぞれ真剣な顔で頷く。

「あの、竜人には安定剤とか効かないんですか? 人間だと、あんまり辛いときには抗精神薬や睡眠剤を使います。僕もオリバー様に眠らせてもらっていた時期がありました」
申し訳なさそうな顔をするオリバー。
「うん。確かに。ショックが大きいときには、僕も寝かしてもらっていたらしいよ。僕は竜体になれなくて、薬も人間のものが普通に効いちゃうけど、普通の竜人ってどうなのかなぁ?」
「そうだなぁ。キリヤの場合、寝かしてしまっても良くなるか分からんが。怪我自体は三日できれいに治ったんだ。突然の過呼吸発作も一回だけ。ただ、過呼吸発作起こした翌日から、口数が少なくなって、常にボーっとしていることが多いんだ。ここ一週間、休むように勧めても、サボっているわけではありません、仕事をこなしますって方向違いの行動に出てしまって」
「毒とか悪意のあるものでなければ竜人に効果はあると思うよ。夜だけでも睡眠剤をためしてみたら? アレクやレイも体力が戻るために眠ってもらったんだよね。キリヤは夜、休めている?」
「オリバー様のおっしゃる通りだと思います」
オリバーとランドールの視線が向く。
「夜は、暗闇は襲われた時を思いだすかと明かりをつけたままにしている。寝たふりをしているが、なかなか寝付けていないのが分かる。あとは、夜中に起きているな。そうか。睡眠薬を試してみようか。身体の休息ができて、心のケアか。そうだな」
「カイト、キリヤと伴侶になるのか?」
オリバーに聞かれる。全員が息をのんでこちらを見ている。
「……いや。キリヤは、失いたくない大切な存在だとは思う。心に灯がともり、景色が色づくような気持ちは、久しぶりだ。キリヤ以外とはこんな気持ちにならない。ただ、俺には伴侶を持つ資格なんて、ないさ」
悲しそうな顔のアレク。沈黙。

 玄関からバタバタと音がする。アレクの邸内なのに、騒々しいのは珍しい。何だ?
「カイト殿下! カイト様! キリヤ様がいなくなりました!」
俺の邸内侍女とフロア管理者が息を切らして走り込む。
ガタン、と椅子を転がして駆け寄る。
「いつからだ! フロアは探したか!? 右の宮と騎士団は? 護衛はどうした!?」
侍女を掴む手が震える。さらわれたか、自分で出ていったか、どちらもダメだ。俺の傍にいなくては、ダメだ。ダメだ。
「すぐに探せ! 料理人でもなんでもすべての人員を動員していい!」
目の前が赤くなる。
「カイト、落ち着け」
肩で息をする俺に、オリバーが声をかける。その声に心がザワザワする。
「落ち着けるか!」
大声を上げる。
「力になります」
ランドールの通る声。
「カイト、俺たちは兄弟だ。困ったときは助ける。すぐにお前の部屋に行こう。まずは室内を探そう。それから、ここ数日のキリヤの行動を思い返すんだ」
「僕も。協力したい」
アレクが声を上げる。
「では、ランドールと後でカイトの部屋に。俺とカイトは先に行く。レイ、部屋に帰っていて」
オリバーと二人して駆け足で七階に上がる。七階は、すべての室のドアが開けられ、侍従や侍女が大捜索をしていた。皆、焦っているのがわかる。俺が、俺の守りたいキリヤを一緒に守ってほしいと頼んでいたからだ。こんな時だが、彼らの気持ちが嬉しい。オリバーを見る。一緒に息を切らし、すぐ後ろについてきている。じんわり温かいものがこみ上げる。
「カイト、すぐに状況を確認しろ。室内をこれだけ探しているなら、室内はこのまま侍従にまかせよう。俺たちは外だ。室外の監視カメラは? 外からの侵入と、自分でどこかに行った、両方から考えよう。カイトはキリヤをよく見ていたはずだ。本人が望んでいなくなるなら、どこだ? その線を探れ」
深呼吸する。オリバーがいて良かった。
「では、監視カメラなど映像確認はアレクとランドールに任せる。レイが来るなら、レイもそちらに。俺は騎士団、キリヤの家、宿舎を当たる。邸内の侍従たちは室内捜索させるが、護衛は第四分隊と騎士宿舎に向かわせる。オリバーは、そのほかの騎士団、外部の警備の聞き込みに回ってくれ」
「いいね。本部はココだな。情報はカイトに集める。大丈夫、すぐに見つかるさ!」
バシッと背中を叩かれる。

オリバーのバカ力め。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

可愛い彼は嫉妬深い~獣人彼氏と仲直りえっち~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:36

保健室で秘密の関係

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

とある母娘の話

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:4

ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,478pt お気に入り:1,346

社長から逃げろっ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:46

野垂れ死ねと言われ家を追い出されましたが幸せです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,522pt お気に入り:8,415

処理中です...