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Ⅲ 人殺しの竜人皇子と孤独な竜人貴族の絆愛

焦り

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<カイト皇子>
夜間、急いで「右の宮」に向かう。本当は竜体になり、ひとっ飛びしたいが、夜間に目立つことはできない。敷地内道路を車で急ぐ。右の宮入り口を、皇子の生態認証で通過する。受付の護衛、警備がぎょっとして振り返る。すぐに館内・ロビーがざわつく。うるさい。邪魔をするな。まっすぐ一階の騎士宿舎キリヤの部屋に向かう。室内に人の気配。いる。報告によると二人が室内に侵入している。ドアをこじ開けたいのを我慢して、ノックする。反応がない。ドアを開ける。城内のどの部屋も侵入できる王族の権限。ワンルームの簡単な造り。竜人騎士用宿舎。逃げ場はない。ドアが開き慌てている様子が分かる。
「動くな」
付き添いの護衛が明かりをつける。
ベッドの上に横たわる人。
「キリヤ!!」
口の覆いを外す。口腔内の布を出す。脈を確認する。大丈夫だ。脈はある。生きている。目隠しをとる。頬をたたいても反応がない。身体を確認し、悲鳴を上げそうになる。痛々しい噛みあと。服は破かれている。すぐに布団でくるむ。腕の拘束をそっと外す。
廊下にザワザワ集まる竜人を部屋に戻るよう指示を出す。人払いしてキリヤを大切に運ぶ。今すぐに自室に連れ帰らなくては。侵入した者は、厳罰にするがとりあえず護衛に任せる。それより、腕の中のキリヤを早く手当しなくては。声をかけても意識が戻らない。少しの動きもない。失ったらどうしよう。心が震える。自室に医者を手配する。すぐに先ほどの二人に何をしたのか、薬を使ったのか尋問するよう、伝達する。あとは、あとは。焦ってしまい考えがまとまらない。
どうしよう。
そうか、オリバーがいた。何かしら助けになるはずだ。深夜だが構うものか。電話を鳴らす。

「何があった」
オリバーは、電話での俺のつたない説明に、すぐに駆けつけてくれた。俺の居住邸内でキリヤを医師にみせ、その様子を二人で見守る。
オリバーに状況をぽつぽつ伝える。襲ったものを拘留している護衛から電話が入る。意識が戻らない原因が分かった。医師にも伝える。窒息させたようだ。低酸素状態か。医師がすぐに血中の酸素濃度を血液から測定する。酸素投与を開始、持続的に酸素濃度を経皮モニターする。幸い低酸素状態が短時間であり、血中酸素が安定すれば後遺症は残らないはず、と診断される。あとの傷は消毒、軟膏とガーゼ。痛々しい。竜人の歯は、噛みついても血が出ないよう止血効果がある。望まない血の絆を結ばないためだ。数時間で止血効果が薄れ、噛みあとから流血するだろう。竜人であるから傷は数日できれいに治る。だが、襲われた恐怖は消えない。何より騎士団に、あの視線の中にキリヤは戻したくない。絶対だめだ。よく二年間無事でいたと思う。
「レイもいるから、もう戻るぞ。明日様子を見に来る。こんな時は一人で突っ走らないほうがいい」
「はは、経験者は語るね」
冗談にも力が入らない。
「ばか、本気で心配しているんだ。俺はお前に助けられた。だから俺も力になりたいんだよ」
優しさが染み入る。
「ありがとう。冗談抜きで、頼りにしているよ」
オリバーを見送る。
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