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Ⅱ 次期王となる竜人皇子と罪人の子の許愛

アレク皇子のお茶会

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<アレク皇子のお茶会>
 初めてオリバー様の室内から出た。「左の宮」、広すぎる。この巨大な建物の、七階部分ワンフロアがカイト様の居住区、六階部分がアレク様の居住区だそうだ。部屋の外廊下やフロアに入るゲートに近衛兵がいる。緊張する。
 緊張するのは、オリバー様のエスコートも。腰に手を回され、片手を握られ、オリバー様の身体に寄り添い歩いている。小姓としてなら、後ろを歩きたい、そう訴えたが輝く笑顔で却下された。洋服もオリバー様に合わせた貴族服。普段お見掛けしませんってレベルのキラキラ。
オリバー様は、濃紺の上着。金の装飾が華やか。紺色の、同じ型の上着を僕が着ている。その後ろに数人の侍従が荷物を持ちついてきている。皆さんの目線が痛い。
「俺の横にいるのだ。堂々としていろ」
オリバー様はそういうけれど、僕はただの人間市民です。汗が止まらない。

「可愛い人だね」
黒い髪の天使が話す。こんな美しい人、初めて見た。ニコリとされると、心臓が喜びで舞い上がる。びっくりして返事も出来ず、身体も動かない。身長が僕と同じくらいで、目線が一緒。黒い瞳の中に金の星が輝いている。
「……きれい」
つい、ポツリと言葉が漏れてしまった。
「ふふ。ありがとう」
褒められ慣れているのか、天使は微笑む。
「アレク、お邪魔するよ。しばらくぶりで済まないね。変わりはないか? これはレイ。少し前に俺の小姓にした人間だ」
「初めまして。お招きありがとうございます」
声が震えてしまう。
「第三皇子のアレクです。こちらは僕の伴侶のランドール伯爵です。よろしくね」
アレク様の後ろで精悍な男性が会釈をする。簡単に挨拶をすると室内に通される。
ここは六階のはずだけど、庭園がある。そこのテラス席に案内された。
オリバー様が、天使と会話をしている。天使の横にはランドール伯爵さま。ふと、視線を感じた。ランドール様が、じっとこちらを見ている。目が合うと、穏やかに微笑まれる。なんだか、どきりとする。竜人は皆、破壊力がすごい。僕一人、場違いな気がする。
遅れてカイト殿下が到着し、お茶会のスタート。何をするのかと緊張していたが、本当にお茶会だ。山のようなきれいなケーキやパンやお菓子。温かいミルクティー。
主に、皇子殿下三人が、近況を話し合っている。楽しそうな雑談。オリバー様が、とてもやさしい目でアレク様を見ている。カイト様も同じだ。何となく、カイト様の言っていた「かなわない恋の相手」が分かった気がした。
「レイさん、手はどうしたの?」
アレク様に声をかけられた。傷は治ってきたが、薄紫や赤黒く傷跡が残っている。どう説明すればいいのか、オリバー様を見る。
「レイは孤児院にいた。そこで折檻をうけていた。だから、俺が引き取った。これでもだいぶ良くなったぞ」
オリバー様が答える。
「え? せ、折檻??」
顔色の変わるアレク殿下。
「あ、オリバー様に助けていただいて、今はとても良くしていただいています」
「……そうだったんだ。もしかして、オリバーがお茶会に来なかったのも、レイさんの事があったから?」
「まあ。そんなところだ」
「つきっきりで看病してたよね~。ひげ剃りも忘れるくらい」
カイト様が笑いながら口をはさむ。オリバー様はカイト様をにらんでいる。
「そうなの?」
とアレク様がこちらを見る。なんて言っていいのか分からない。
「はい。これを食べて。あと、これと、これと。ランドール、あの、昨日の美味しかったの、あれも持ってきて」
目の前にたくさんのお菓子が並べられる。ランドール様に指示をしながら、とても食べきれない量の食べ物が並んでいく。どういうこと?
「僕ね、少し前、ひどいことがあって。立ち直るまで時間がかかったんだ。僕がみんなに向き合えるまで、いつまでも待っていてくれたオリバーやカイト。あと温かい言葉をいつもくれたランドールがいて、やっと自分に起きたことを、通り過ぎることが出来たんだ。その時に、オリバーとカイトとランドールから沢山のお菓子をもらっていたんだ。甘くておいしい綺麗なお菓子に、元気をもらったんだよ。だから、僕はレイさんにお菓子をあげるね」
金の星が輝く瞳を見つめた。優しい微笑み。アレク様は、愛に包まれた方なのだな、そう思った。僕のところまで優しさがあふれてきている。
「あ、ありがとう、ございます」
優しさに触れて、声が震える。この方は本物の天使だ。

「オリバー様、陛下からご連絡が入っております」
侍従から声をかけられ、オリバー様が席を立つ。
「それにしても、きれいに治ってきたね。」
カイト様が僕の手を見る。
「え? もっとひどかったの?」
アレク様の悲しそうな顔。
「うん。アレク、俺も一緒に孤児院に行ったけど、レイの背中や身体中に傷がある。同じ人同士で慈しむことができないのは、どうしてだろうね」
「カイト様、そのくらいで」
ランドール様が柔らかく会話を止める。
「あ、ごめんね」
話しながら、カイト様は俺の手を持ち、傷の確認をする。丁寧に薬を塗ってもらい、仕事も何もしていないから(オリバー様に仕事をさせてもらえていないのだ)傷はふさがり、皮膚の色もやや肌色っぽくなってきている。
「あれ? すごくいい匂い」
急に手を持ち上げ、クンクンとにおいを嗅ぐ。
美男子であるカイト様に手のにおいを嗅がれている。顔面にカーっと血が上る。心臓がどきどきする。
「あ、あの……」

 「レイ!!」
厳しい声が後ろから飛ぶ。身体がビクンとなる。冷汗が出る。怖くて、振り向けない。怒っている。
「カイト、何をしている」
低い声。
「え? オ、オリバー?」
アレク様が驚いている。ランドール様が、アレク様を隠すように立つ。
「オリバー様、落ち着いてください」
「何もしていないさ」
カイト様の話し途中でオリバー様が僕の腕をつかみ、乱暴に立たせられる。椅子が倒れる。
「オリバー待つんだ。本当に何もしていない」
カイト様が後ろから声をかけるが、引っ張られてどんどん離れていく。歩きが速い。片腕で吊られているように引きずられて、オリバー様の部屋まで戻る。腕が痛い。そのまま、洗面所で手を洗われる。無言が怖い。寝室に引きずられる。肩が悲鳴を上げている。ベッドに叩きつけるように放り出される。衝撃に背中を丸める。怖い。
頬にパンっと弾けるような痛みが走る。耳の奥の鼓膜がビーンと音を響かせている。え? 殴られた?
「なぜ、キスを許した!?」
え? 何? 何を言っているのか分からない。
コレは一体誰だろう。僕を大切に治療してくれていた、オリバー様? 怒りに震える顔は、知らない大人だ。コレは、この顔は、見たことある。そうだ、孤児院の院長先生の顔と、同じだ……。
「いつか奪われるなら、俺のものにするまでだ!」
怒鳴られる。服を破かれる。抵抗はしない。鞭打ちと同じ。相手の怒りがおさまるまでの我慢。大丈夫、僕は家畜だから、慣れている。

 「うあ、アッ、アッ、あぁ――!!」
抑えようとしても、悲鳴のように声が上がる。
苦しい。叫ぶ僕に構わずにオリバー様が動く。そのたびに「あーー!」と悲鳴を上げてしまう。
身体の中の、触れてはいけない部分をこじ開けられる感覚。ゴプリと胃の中のものを嘔吐した。
「もう、もう、許して、ください! これ以上は、もう、もう、ああぁ~!」
泣きながら懇願し、強烈な痛みと不快感に耐える。真上からオリバー様が見ている。
もう無理だ、もう死んでしまう。

なりふり構わず言葉にならない悲鳴を上げた。とても意識が保てなかった。
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