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Ⅱ 次期王となる竜人皇子と罪人の子の許愛

第一皇子オリバー

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<第一竜人皇子オリバーの憂鬱>
 やる気が出ない。気力が沸かない。
ぼ~っと空を見上げる。

 これまで、末弟を守るために懸命に駆け抜けてきた。末弟の第三竜人皇子アレクには幼いころ遊びの中で大けがをさせてしまった。それが原因でアレクは十年も自室にひきこもってしまった。毎日悔やんできた。いつかアレクと向き合った時のために、これから守ることが出来るように、全てに全力で取り組んだ。
 十六歳でアレクと和解をし、その可憐さに、美しさに、優しい穏やかな瞳に恋をした。これほど光り輝く存在が存在したのか、天使が降臨したかと思った。絶対に手に入れたいと思った。俺が守りたいと思った。
 ライバルは竜人貴族が一名と、弟の第二竜人皇子カイト。カイトは第一皇子の俺と同列だったが、竜人貴族は竜の生涯の絆である「血の絆」をアレクと結んでいた。何か弱みを見つけて、蹴落としてやろうとしたが、完全敗北した。
 今では、その竜人貴族ランドールは俺の親友。つまり、欠点なしのいい男だったわけだ。裏で蹴落とそうなんて俺のほうが欠点だらけのガキだった。そんな自分を思い返して笑えてくる。
 それでも手に入れたかったのに。

 手に入らないと悟りアレクの幸せを願うとともに、自分の存在がしぼんでいくように感じた。ここまで駆け抜けてきた目標が急に消えてしまい、行き場のなくなった「俺」という存在。
 だから今日も塔の広間から空をぼんやり眺める。


<竜の国>
 人と竜の国ルラ国。ルラ国は人間による文明の発達と竜人が共存し高い国力を誇る大国。人族が九割以上、竜族は一割にも満たない。貴族や王族は竜人が占めていて、竜人は王都である竜人区に居住している。竜人には神の力が宿り、大地を整え、実りと恵みを自然に与えている。人は生活を豊かにするため文明を発達させ、生活をどんどん豊かにした。
 文明を発展させた人は、竜人の力を恐怖として排除する時代もあった。しかし怒った竜人が土地に祈りを与えなくなった途端、自然は荒廃した。飢饉や大災害により人の住む環境が失われていった。科学では補いきれない神の力に触れ、人は竜人とともにあるべきと悟った。竜人の守護のもと豊かな生活を送る道を選んだ。
それから数百年、二つの正反対の種族は調和をしていた。このバランスを崩したのは、またしても人間だった。
竜人は、神の恵みを竜体に取り込み大地に与える。そうすることで自然が循環する。万能の神ではない。人間の文明進化による工業廃水・化学汚染は浄化できない。これらは、自然の摂理のもと年月をかけて浄化されていくのを待つしかない。
 故意に化学汚染させた汚水を撒き、環境破壊をし、浄化しないのは竜人のせいだと人心をあおり、反乱を起こそうと画策した組織が三年前に摘発された。組織は壊滅、全員処刑された。俺も、「竜の眠り草」を使われ殺害されかけた。末弟のアレク皇子は誘拐された。許せない暴行を受けていた。反乱組織のものならば、末端まですべて、鞭打ち拷問の上、公開処刑とされた。

 これで、また普段の平穏が訪れた。俺は、ただの腑抜けになったが。
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