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Ⅰ竜になれない竜人皇子と竜人子爵の優愛

失恋

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<オリバー皇子の失恋>
 「こんなに、いいよ。食べきれないよ」
少し困った顔のアレク。愛らしい。小さな声で言われると、撫でまわしたくなる。
今日も俺たちとお茶の時間を一緒にしている。ミルクティーには角砂糖一つ。窓を開けて風を通す。もう覚えた。そんな俺たちを侍女や侍従がニコニコと眺めている。
なんでも与えたくて、あちこちからお菓子を取り寄せて並べている。俺とカイトとランドール。三人が毎日競うように持ち寄る。が、本人は食が細い。わかっているのに、何かしたくて持ち寄ってしまう。そして毎回、苦笑いされる。
 それでいい。こうして、食べきれないお菓子に囲まれて、温かな部屋で笑っていればいい。
事件については一切口にしない。ただ、一緒に過ごす時間を大切にしている。時間はかかったが、ここまでアレクが回復してくれたことに感謝している。
 俺たちの家族としての愛情をアレクが受け止めてくれる。それが嬉しい。優しさも愛情も一方通行は、苦しい。
アレクの部屋にテレビがなくてよかった。余計なことは耳に入れなくてすむ。この閉鎖した空間がアレクを守ってくれる。それを壊さないよう、以前の日常のように。
 アレクの傍にいるランドール。ランドールに向けるアレクの顔。見ていると、二人の絆の深さを感じる。ランドールの言葉が染み入るようにアレクに伝わっている。アレクがランドールに微笑む。そこには、信頼以上の何かがある。
 アレクの笑顔を守れるならいい。俺たちは、これ以上の少しの苦難もアレクに与えたくない。真綿のように包んで優しい時間の中で過ごしてほしい。ランドールは信用できる男だ。竜人として、俺たちの友として、好いている。

ランドールなら、いい。
 
 とはいっても、いろいろと負けたくない面もある。明日のお菓子は、俺たちの差し入れを手に取ってもらうのだ。これは譲れない。

 少しだけ胸が痛むが、大切な人の幸せを願うとは、そういうものなのかもしれない。
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