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Ⅰ竜になれない竜人皇子と竜人子爵の優愛

事件の傷跡

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<アレクの目覚め>
 柔らかい布団。温かい。目を開けると、豪華な部屋。そばに男性が三人。他にも数人いるが、僕の目には三人が輝いて映った。三人の驚いた顔。沈黙。
「……誰?」
聞いてみた。声がかすれる。三人とも困ったような泣きそうな顔をする。
「……どこか痛みますか?」
一番年長だろう人物が優しく声をかけてくる。痛いところ? 痛いところ。よくわからない。答えることができず、沈黙。
「アレク」
違う優しい声がする。アレクって誰? 僕は、僕は、そう僕は、クソ皇子って、呼ばれて、いた……。
「やぁぁぁ!!」
どこかで悲鳴がする。どこ? 何? よくわからないうちに、瞼が落ちた。


<混乱>
「鎮静剤を投与しました。」
医師が告げる。
「忘れさせる薬はないのか?」
「記憶操作は出来ないか?」
オリバー様とカイト様が苦しい声で尋ねる。竜人医師は首を横に振り「残念ながら」と返答する。できれば記憶を消し去って差し上げたい。
 一日たって目を覚ました殿下に表情があることにほっとした。しかし俺たちが分からない様子だった。周囲を少し見てから、みるみる青ざめ震えだし、悲鳴を上げた。痛々しくて見ていられなかった。身体が回復するまでは精神の安定のため、鎮静をかけることになった。
眠る殿下の黒髪をそっとなでる。愛おしい殿下。全ての苦痛を取り除き、優しさで包みたい。もう二度と手放さない。

 たくさんの愛情の中、アレク殿下は眠っている。


<断罪>
 この事件は、王家を狙った、国政への反逆として公開された。殿下たちの食事に盛られたのは、数百年前に栽培を禁じられ現存していないはずの「竜の眠り草」。人には無害の草。陛下はこれを調べていた。
竜人は毒物がきかないため、口にする物に警戒心が薄い。そこを利用して、「竜の眠り草」で竜人狩りが行われた歴史がある。人と竜の暗い歴史。それ以降、禁忌の草とされ根絶されたはず。それが、今回使われていた。
アレク殿下誘拐殺害未遂とオリバー殿下・カイト殿下への殺害未遂。故意に化学汚染水を破棄し自然を破壊した罪。また、それにより人を陽動しようとした罪。
 竜人たちの怒りは激しく、組織に加わった者は一人残らず鞭打ち拷問の上、公開処刑となった。寛容な竜人にはめずらしく、組織の末端まで全員。

 竜の怒りに触れてはいけない、竜は残酷な面もある、人間の心に畏怖の心を植え付けた結末となった。
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