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Ⅰ竜になれない竜人皇子と竜人子爵の優愛

救出

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<救出>
 手がかりだ。アレク殿下失踪から十日。やっとそれらしき組織がつかめた。
どの時代にも反王政組織はいる。これは、国の内乱を狙った犯罪だ。工場からの汚染水も彼らの仕業だ。わざと化学汚染をさせた水を、国の多様な地区に破棄していた。狙いは竜と人間の紛争。竜人への不満感をあおり、暴動を起こす計画。だが、浄化できる希望が見つかれば人の心は揺らぐ。アレク殿下の力が彼らの脅威になった。
組織の全容が見えず、隠れ家やアジトが点在していて、どこが心臓部なのか分からない。イライラする。情報が足りない。
「無事でいてください」
彼らの狙いが殿下の力にあるとすると、命が危ない。工場内偵者は拘束した。内通者を絶対に吐かせる。芋づる式に引っ張ってやる。
「ランドール、少し休め」
「ここは俺たちが代わる」
オリバー殿下、カイト殿下。
お二人はあれから二日間寝続けた。覚醒し、状況を知ると、怒り、その激情で数時間手が付けられなかった。
だが、優先してすべきことを考え、アレク様の捜索に加わってくれた。
殿下の権限もあり、当時の店周辺の動き、防犯カメラ画像、警察の情報、各警備会社の協力を得てくれた。わかることもあったが、なぜ二人だけ寝たのか、不明な事も多かった。それについては、陛下が調査をされるとのことだった。
 とにかく俺たちはアレク殿下を助けなくてはならない。
目的を共にすると二人の殿下は大変に優秀で頼りになった。「アレク様が、もしも……」と不安になり、心が折れそうになると殴り飛ばして喝をくれる。
 アレク様は休めているのだろうか。あの時、血を与えてしまった。それを今は後悔している。殿下を苦しめているかもしれない。
 アレク様との約束。必ず助けると誓った。どうか、ご無事で。

 アレク殿下がいなくなり、十四日。やっとここまで来た。生きておられる。工場との密通者を捕まえ精神を壊すぎりぎりの自白剤まで使い、やっと殿下が監禁されている隠れ家をあぶりだした。オリバー様・カイト様と近衛兵、警察部隊で取り囲む。一刻も早く踏み込みたい。ご無事を確認したい。
「ランドール、皆配置についた」
「行こう」
「はい」
殿下二人と頷き合う。
「突入!」
指示を出す。ただの民家にしか見えない一軒家。ドアや窓を壊して侵入する。中では、酒盛り中の数人。
「やばい!!」
「逃げろ!」
室内からも人間がバタバタ飛び出てくるが、どうでもいい。周りの者に任せる。
俺とオリバー様・カイト様はアレク殿下を見つけることだけを目的としている。
心臓がゾワリとした。絶対にここにアレク殿下がいる。勝手に足が向かう。両殿下も続いた。俺が絆で何か感じるかもしれないと、分かっている。一階の階段の床。思いっきり踏んでみる。バキッと板が割れると、その先にコンクリートの階段。地下だ。気持ちがはやる。アレク様が近い。奥の小部屋。ドアを蹴破る。

 「ガアアアーーー!!!」

 自分の声かと思うほどの絶叫が出た。一瞬で男を殴り飛ばしていた。吹き飛んだ男なんてどうでもいい。
 床に倒れているアレク様を、震える両手で抱き上げる。顔を見る。見えているのか分からない、氷のような目。
「アレク様、アレク様、申し訳ありません。申し訳ありません……」
抱きしめたまま大声で泣いた。オリバー様がマントで、俺の腕ごとアレク様を覆う。いけない、冷静になれ。嗚咽をこらえ、アレク様の裸身を隠す。カイト様は怒りで男を殴り続けていた。

 俺たちが立ち入って目にしたのは。

 男に組み敷かれ、貫かれていたアレク殿下。揺すられながら人形のような無表情の顔を俺たちに向けていた。
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