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Ⅸ これから<SIDE:瀬戸>
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Ⅸ これから
「おはようございます。お休みいただいて、ありがとうございました。ご迷惑おかけしました」
「もう大丈夫ですか? 瀬戸さん、大変でしたね」
仕事復帰一日目。瀬戸が介護施設スタッフに挨拶回りをすると、みんなから温かい応対をされた。額の傷抜糸痕は少し目立つけれど、前髪で上手く隠せて助かっている。
瀬戸は一週間、堀田さんの家でお世話になっていた。家族の様な親友の様な過ごし方をしてしまった。正直楽しく過ごした。仕事の話も沢山した。堀田という存在が瀬戸の中で大きな存在に変わっていた。大きくて特別な、存在。
「瀬戸さん、おはよう。今日は土井さん来るよ。元気な姿、見せてあげて」
廊下で堀田さんから声がかかる。
「うん。土井さん、元気に通所している?」
「大人しくしているよって言いたいところだけど、ますます頑固パワー出してるかな」
「あはは。それじゃ誰かと喧嘩しそうだ」
「ところが、今のところトラブル起こしていないよ。こないだは言い合いになりそうだった相手に『すまんかった』って一言謝っていて。それがきっかけでディサービス利用者となんだか仲良くなってきているよ」
「はぁ? 土井さんが、謝ったの?」
「そう。土井さんなりに変わろうとしているのかもなって思ったよ。何か、嬉しいよな」
「そうだね。嬉しいね」
瀬戸が小さく微笑む。幸せそうに堀田さんも微笑む。
「瀬戸さん、可愛い」
瀬戸の耳元で急に囁く堀田さん。
「わか、分かったから、離れろ」
慌てて堀田さんから距離をとる。クスクスと笑っている堀田さん。こいつ、からかったな。一言返そうとしたとき、奥から堀田さんを呼ぶ声。
「堀田さん、送迎いきますよ! どこですか?」
「あ、今行く!」
いたずらっぽい笑いを残して立ち去る堀田さん。くそう。高鳴る心臓を落ち着かせて瀬戸は事務所に向かう。
堀田さんと仲良くなり、瀬戸は人との向き合い方を考えるようになった。夫婦として歩む人の相手への想い。人を大切に想うこと。自分には欠けていたモノであったと今更気が付く。
仕事って目の前のことを完璧にこなすだけじゃダメなのだと知った。人が働きやすいこと、相手を思いやる事。それは実績や成績と同じように大切な事だ。
教科書に書いてあるようなことだけれど、やっと実感と理解ができたように思う。今なら定例会議で堀田さんが瀬戸の提案を止めた理由が染みるほどわかる。
瀬戸が怪我の休暇をとっている間に、個別外出案を介護職と連名で堀田さんが定例会議に提出してくれていた。発案者として瀬戸の名もあった。悔しいとは思わない。それより任せて良かったと思える。人に頼ることや信じることは大切だなぁと感じている。
堀田さんと出会えてよかった。自分の人生に不足していた大切なものを気が付かせてくれた。目の前の世界が輝いて見える。
「よし! 今日も頑張るか!」
小さく声に出し、自然と込み上げるやる気と共に仕事に向かう。今日は土井さんと話がしたい。介護士さんに声をかけたい。もう一度自分の仕事も見直したい。優しい穏やかな気持ちで仕事に向かう。
(この仕事と堀田さんが、大好きだ)
そんな自分の気持が照れくさくて、瀬戸は小さく微笑みを溢した。
〈完〉
「おはようございます。お休みいただいて、ありがとうございました。ご迷惑おかけしました」
「もう大丈夫ですか? 瀬戸さん、大変でしたね」
仕事復帰一日目。瀬戸が介護施設スタッフに挨拶回りをすると、みんなから温かい応対をされた。額の傷抜糸痕は少し目立つけれど、前髪で上手く隠せて助かっている。
瀬戸は一週間、堀田さんの家でお世話になっていた。家族の様な親友の様な過ごし方をしてしまった。正直楽しく過ごした。仕事の話も沢山した。堀田という存在が瀬戸の中で大きな存在に変わっていた。大きくて特別な、存在。
「瀬戸さん、おはよう。今日は土井さん来るよ。元気な姿、見せてあげて」
廊下で堀田さんから声がかかる。
「うん。土井さん、元気に通所している?」
「大人しくしているよって言いたいところだけど、ますます頑固パワー出してるかな」
「あはは。それじゃ誰かと喧嘩しそうだ」
「ところが、今のところトラブル起こしていないよ。こないだは言い合いになりそうだった相手に『すまんかった』って一言謝っていて。それがきっかけでディサービス利用者となんだか仲良くなってきているよ」
「はぁ? 土井さんが、謝ったの?」
「そう。土井さんなりに変わろうとしているのかもなって思ったよ。何か、嬉しいよな」
「そうだね。嬉しいね」
瀬戸が小さく微笑む。幸せそうに堀田さんも微笑む。
「瀬戸さん、可愛い」
瀬戸の耳元で急に囁く堀田さん。
「わか、分かったから、離れろ」
慌てて堀田さんから距離をとる。クスクスと笑っている堀田さん。こいつ、からかったな。一言返そうとしたとき、奥から堀田さんを呼ぶ声。
「堀田さん、送迎いきますよ! どこですか?」
「あ、今行く!」
いたずらっぽい笑いを残して立ち去る堀田さん。くそう。高鳴る心臓を落ち着かせて瀬戸は事務所に向かう。
堀田さんと仲良くなり、瀬戸は人との向き合い方を考えるようになった。夫婦として歩む人の相手への想い。人を大切に想うこと。自分には欠けていたモノであったと今更気が付く。
仕事って目の前のことを完璧にこなすだけじゃダメなのだと知った。人が働きやすいこと、相手を思いやる事。それは実績や成績と同じように大切な事だ。
教科書に書いてあるようなことだけれど、やっと実感と理解ができたように思う。今なら定例会議で堀田さんが瀬戸の提案を止めた理由が染みるほどわかる。
瀬戸が怪我の休暇をとっている間に、個別外出案を介護職と連名で堀田さんが定例会議に提出してくれていた。発案者として瀬戸の名もあった。悔しいとは思わない。それより任せて良かったと思える。人に頼ることや信じることは大切だなぁと感じている。
堀田さんと出会えてよかった。自分の人生に不足していた大切なものを気が付かせてくれた。目の前の世界が輝いて見える。
「よし! 今日も頑張るか!」
小さく声に出し、自然と込み上げるやる気と共に仕事に向かう。今日は土井さんと話がしたい。介護士さんに声をかけたい。もう一度自分の仕事も見直したい。優しい穏やかな気持ちで仕事に向かう。
(この仕事と堀田さんが、大好きだ)
そんな自分の気持が照れくさくて、瀬戸は小さく微笑みを溢した。
〈完〉
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