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Ⅲ章「飛べない鳥と猛禽鳥の愛番」
side:南田 脩④
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<脩の心>
水の中から景色を見ているような不思議な感覚。夢に見ていた咲人との生活をしているように思うけれど。本当に夢なのかもしれない。現実では、僕は誰かとセックスしている最中なのかも。
よく分からなくてぼんやりと過ごしていた。目の前で僕の鳥が咲人の鳥と番鳥になっている夢。やっぱり僕たち番だったね。幼いころの咲人の笑顔が頭に過る。
昔を思い出して幸福感に薄く目を開ければ欲しくもない食事が口に入れられる。苦痛で仕方ない。全てに拒否をして布団に閉じこもる。この中で夢の世界にいるほうがいい。
幸せだったころに浸って過ごせればいい。今自分が生きているのか死んでいるのか分からないような怖い感覚も全て忘れたかった。僕は、今どうなっているのだろう? 時々そんな不安が頭をよぎった。
夢と現実の区別がつかなくて、本当が何か分からない。唯一の安心は僕の鳥が生きている事だけ。僕の鳥が見えると、そこだけは弱弱しく光って見えていた。
急にふわりと抱き上げられる。驚いて抱き上げる人にしがみつく。温かく包み込まれて、少し遠くまで移動。僕を抱き上げる優しい腕に咲人の優しさが重なる。咲人、幸せに生きているかなぁ。ぼんやりと考えていた。
ここのところ穏やかな時間が流れていると感じていた。心地よい空気。幼いころに戻ったような温かな感覚。僕の鳥が安堵している。それは伝わってくる。『最近、調子がいいね」そっと語りかけると嬉しそうな気持ちが流れ込む。僕の鳥が苦しくないならいい。はっきりしない世界で唯一輝く僕の鳥。『僕がバカなばかりに苦しめてゴメンね』そっと僕の鳥に謝った。
一瞬だった。俺の鳥が立ち上がって、地面を蹴った。
急な事に全身に驚きが走る。久しぶりの翔る喜び。軽い興奮が心に押し寄せる。
目の前の霧が晴れるように視界が澄み渡る。やけにリアルな夢。俺の鳥が走って、羽を広げたシマフクロウが追いかけている。
これ、咲人の鳥だ。逞しくなって貫禄がある。身体、大きくなったね。そう声をかけたくなるような温かな気持ちになった。
二鳥が陽の光の中で輝く。生きる輝きだ。美しい。見惚れてしまった。
突然、ドシャリと倒れ込むヤンバルクイナ。一瞬心臓が止まったような、心が凍える恐怖が全身を駆け巡る。出ないと思っていた悲鳴が喉の奥から出ていた。
僕の、僕の分身鳥! いやだ、僕を置いて行かないで! 傍に駆け寄りたいのに身体が上手く動かない。誰かに支えられながら意識が保てなくて目の前が見えなくなった。涙が流れた。
お願い。お前だけは、僕から離れないで。もう、辛いのは、苦しいのは、嫌だ。一人にしないで。震えて泣くしかできない現実を思い出し、身体の芯が凍えた。
水の中から景色を見ているような不思議な感覚。夢に見ていた咲人との生活をしているように思うけれど。本当に夢なのかもしれない。現実では、僕は誰かとセックスしている最中なのかも。
よく分からなくてぼんやりと過ごしていた。目の前で僕の鳥が咲人の鳥と番鳥になっている夢。やっぱり僕たち番だったね。幼いころの咲人の笑顔が頭に過る。
昔を思い出して幸福感に薄く目を開ければ欲しくもない食事が口に入れられる。苦痛で仕方ない。全てに拒否をして布団に閉じこもる。この中で夢の世界にいるほうがいい。
幸せだったころに浸って過ごせればいい。今自分が生きているのか死んでいるのか分からないような怖い感覚も全て忘れたかった。僕は、今どうなっているのだろう? 時々そんな不安が頭をよぎった。
夢と現実の区別がつかなくて、本当が何か分からない。唯一の安心は僕の鳥が生きている事だけ。僕の鳥が見えると、そこだけは弱弱しく光って見えていた。
急にふわりと抱き上げられる。驚いて抱き上げる人にしがみつく。温かく包み込まれて、少し遠くまで移動。僕を抱き上げる優しい腕に咲人の優しさが重なる。咲人、幸せに生きているかなぁ。ぼんやりと考えていた。
ここのところ穏やかな時間が流れていると感じていた。心地よい空気。幼いころに戻ったような温かな感覚。僕の鳥が安堵している。それは伝わってくる。『最近、調子がいいね」そっと語りかけると嬉しそうな気持ちが流れ込む。僕の鳥が苦しくないならいい。はっきりしない世界で唯一輝く僕の鳥。『僕がバカなばかりに苦しめてゴメンね』そっと僕の鳥に謝った。
一瞬だった。俺の鳥が立ち上がって、地面を蹴った。
急な事に全身に驚きが走る。久しぶりの翔る喜び。軽い興奮が心に押し寄せる。
目の前の霧が晴れるように視界が澄み渡る。やけにリアルな夢。俺の鳥が走って、羽を広げたシマフクロウが追いかけている。
これ、咲人の鳥だ。逞しくなって貫禄がある。身体、大きくなったね。そう声をかけたくなるような温かな気持ちになった。
二鳥が陽の光の中で輝く。生きる輝きだ。美しい。見惚れてしまった。
突然、ドシャリと倒れ込むヤンバルクイナ。一瞬心臓が止まったような、心が凍える恐怖が全身を駆け巡る。出ないと思っていた悲鳴が喉の奥から出ていた。
僕の、僕の分身鳥! いやだ、僕を置いて行かないで! 傍に駆け寄りたいのに身体が上手く動かない。誰かに支えられながら意識が保てなくて目の前が見えなくなった。涙が流れた。
お願い。お前だけは、僕から離れないで。もう、辛いのは、苦しいのは、嫌だ。一人にしないで。震えて泣くしかできない現実を思い出し、身体の芯が凍えた。
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