43 / 57
Ⅲ章「飛べない鳥と猛禽鳥の愛番」
side:羽田 咲人③
しおりを挟む
<再会>
脩の帰国を見守った。
国際間取引であり俺は同行できない。うちの組織からは国際弁護士資格もある所長と加藤さんが同行。俺は空港で首を長くしていた。
空港ロビーに車いすに乗った侑が見えた。目を閉じて、死んでいるような顔。頬がこけて、青白く、ふと見えた首が頼りなげに細い。薄くなった肩にヤンバルクイナが居ない。どうして? 俺の鳥が一瞬羽を広げる。
「今はダメだ!」声をかけて制止する。
よく見ると膝の上にやせこけた脩の鳥を見つけた。羽に艶が無く、脩と同じように生きているのかが心配される風貌。あの、逞しく地面を蹴って走っていた脩の鳥が。
昔の輝く笑顔の脩を思い出し、口を押えて涙を流した。俺のシマフクロウは衝撃で凍り付いたように固まっていた。
脩がパニックを起こすかもしれないから面会できる状況か医師が確認するまで接触禁止。視界に入らないように刺激しないように担当医から言われた。脩を遠くから眺めるだけの状況が苦しかった。
日本の保護局から二名の担当医師が派遣されている。カラスが分身鳥の森本医師とライラックニジブッポウソウが分身鳥の石井医師。肩に乗る分身鳥が真っ黒と十四色の羽色の対照的な人たち。
「二人は絶滅危惧種最高位の分身鳥を持つ友人がいて適任ですよ」と保護局の職員。今後のケアは手厚くします、と急に腰を低くし始めた人たち。その態度の変わりように苛立ちが隠せなかった。
脩は俺と育った施設に戻った。行き先が無くて病院に入院する話があったが「穏やかだった幸せな場所に戻したい」と俺が希望した。
施設の入居者は接触しないような造りになっているし病院のようなバタバタする場所より良い。ワンフロアを貸し切り状態にできるからありがたい。
保護局の人は自分たちの管理下に置けることに安心していた。脩の状況が国際保護局に知られたため、十分な保護と補償をしなくては日本としての立場が悪くなる。どこまでも自分たちの事しか考えない者たちだ。そんな彼らにはイラついたが、脩のためには一番いい場所だから自分の気持ちをぐっと飲み込んだ。
脩の様子をカメラ越しにそっと見る。帰国して数日。分身鳥を抱えたままベッドから動かない。食事も口にしない。
森本医師によると極度のストレスとショックで身体活動が極限まで低下している、と。まるで廃人のようで見ていられない。
「先生、俺が傍に居たらダメですか? もう、見ているだけは苦しい」
「そうですね。パニックを起こし自殺行動を起こしかねなくて恋人であった君との面会を避けていた。でも、ここまで衰弱が激しいと生命が維持できない」
はっとして森本医師を見る。石井医師が横から発言する。
「何事にも反応をしない南田さんが、帰国したとき君の名前には反応した。会いたくないと意思表示した。それが、どういう意味か分からないけれど。羽田君、もし今の状態で南田さんが強く興奮すれば不整脈を引き起こし、心停止を起こしかねない。そこを理解してほしい。僕たちは、彼を救いたい。一か八かだけど、会うかい?」
「もう、失いたくない。脩を苦しめたくない。俺がショックの引き金になるなら、顔を隠すよ。俺ってバレなければいいんだろ? 俺、脩に触れたい。脩を抱き締めたい」
「顔を隠しても分身鳥同士が気づくよ。そのまま、会ってごらん。危険だと思ったらすぐに離れるんだよ。パニックを起こしたら鎮静をかけるから」
森下医師と石井医師から許可が出て心から嬉しかった。だけど、脩を失いたくない。刺激しないように、優しく、ゆっくり。ずっと会いたかったんだ。ずっと待っていたんだ。
懐かしい施設内を歩いて脩のもとに向かいながら涙が滲む。幼い頃、あんなに一緒に居たのに、脩の部屋まで来るのはこれが初めてだった。
脩の帰国を見守った。
国際間取引であり俺は同行できない。うちの組織からは国際弁護士資格もある所長と加藤さんが同行。俺は空港で首を長くしていた。
空港ロビーに車いすに乗った侑が見えた。目を閉じて、死んでいるような顔。頬がこけて、青白く、ふと見えた首が頼りなげに細い。薄くなった肩にヤンバルクイナが居ない。どうして? 俺の鳥が一瞬羽を広げる。
「今はダメだ!」声をかけて制止する。
よく見ると膝の上にやせこけた脩の鳥を見つけた。羽に艶が無く、脩と同じように生きているのかが心配される風貌。あの、逞しく地面を蹴って走っていた脩の鳥が。
昔の輝く笑顔の脩を思い出し、口を押えて涙を流した。俺のシマフクロウは衝撃で凍り付いたように固まっていた。
脩がパニックを起こすかもしれないから面会できる状況か医師が確認するまで接触禁止。視界に入らないように刺激しないように担当医から言われた。脩を遠くから眺めるだけの状況が苦しかった。
日本の保護局から二名の担当医師が派遣されている。カラスが分身鳥の森本医師とライラックニジブッポウソウが分身鳥の石井医師。肩に乗る分身鳥が真っ黒と十四色の羽色の対照的な人たち。
「二人は絶滅危惧種最高位の分身鳥を持つ友人がいて適任ですよ」と保護局の職員。今後のケアは手厚くします、と急に腰を低くし始めた人たち。その態度の変わりように苛立ちが隠せなかった。
脩は俺と育った施設に戻った。行き先が無くて病院に入院する話があったが「穏やかだった幸せな場所に戻したい」と俺が希望した。
施設の入居者は接触しないような造りになっているし病院のようなバタバタする場所より良い。ワンフロアを貸し切り状態にできるからありがたい。
保護局の人は自分たちの管理下に置けることに安心していた。脩の状況が国際保護局に知られたため、十分な保護と補償をしなくては日本としての立場が悪くなる。どこまでも自分たちの事しか考えない者たちだ。そんな彼らにはイラついたが、脩のためには一番いい場所だから自分の気持ちをぐっと飲み込んだ。
脩の様子をカメラ越しにそっと見る。帰国して数日。分身鳥を抱えたままベッドから動かない。食事も口にしない。
森本医師によると極度のストレスとショックで身体活動が極限まで低下している、と。まるで廃人のようで見ていられない。
「先生、俺が傍に居たらダメですか? もう、見ているだけは苦しい」
「そうですね。パニックを起こし自殺行動を起こしかねなくて恋人であった君との面会を避けていた。でも、ここまで衰弱が激しいと生命が維持できない」
はっとして森本医師を見る。石井医師が横から発言する。
「何事にも反応をしない南田さんが、帰国したとき君の名前には反応した。会いたくないと意思表示した。それが、どういう意味か分からないけれど。羽田君、もし今の状態で南田さんが強く興奮すれば不整脈を引き起こし、心停止を起こしかねない。そこを理解してほしい。僕たちは、彼を救いたい。一か八かだけど、会うかい?」
「もう、失いたくない。脩を苦しめたくない。俺がショックの引き金になるなら、顔を隠すよ。俺ってバレなければいいんだろ? 俺、脩に触れたい。脩を抱き締めたい」
「顔を隠しても分身鳥同士が気づくよ。そのまま、会ってごらん。危険だと思ったらすぐに離れるんだよ。パニックを起こしたら鎮静をかけるから」
森下医師と石井医師から許可が出て心から嬉しかった。だけど、脩を失いたくない。刺激しないように、優しく、ゆっくり。ずっと会いたかったんだ。ずっと待っていたんだ。
懐かしい施設内を歩いて脩のもとに向かいながら涙が滲む。幼い頃、あんなに一緒に居たのに、脩の部屋まで来るのはこれが初めてだった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる