分身鳥の恋番

小池 月

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Ⅲ章「飛べない鳥と猛禽鳥の愛番」

side:羽田 咲人③

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<再会>

脩の帰国を見守った。

国際間取引であり俺は同行できない。うちの組織からは国際弁護士資格もある所長と加藤さんが同行。俺は空港で首を長くしていた。

空港ロビーに車いすに乗った侑が見えた。目を閉じて、死んでいるような顔。頬がこけて、青白く、ふと見えた首が頼りなげに細い。薄くなった肩にヤンバルクイナが居ない。どうして? 俺の鳥が一瞬羽を広げる。

「今はダメだ!」声をかけて制止する。

よく見ると膝の上にやせこけた脩の鳥を見つけた。羽に艶が無く、脩と同じように生きているのかが心配される風貌。あの、逞しく地面を蹴って走っていた脩の鳥が。

昔の輝く笑顔の脩を思い出し、口を押えて涙を流した。俺のシマフクロウは衝撃で凍り付いたように固まっていた。

脩がパニックを起こすかもしれないから面会できる状況か医師が確認するまで接触禁止。視界に入らないように刺激しないように担当医から言われた。脩を遠くから眺めるだけの状況が苦しかった。


 日本の保護局から二名の担当医師が派遣されている。カラスが分身鳥の森本医師とライラックニジブッポウソウが分身鳥の石井医師。肩に乗る分身鳥が真っ黒と十四色の羽色の対照的な人たち。

「二人は絶滅危惧種最高位の分身鳥を持つ友人がいて適任ですよ」と保護局の職員。今後のケアは手厚くします、と急に腰を低くし始めた人たち。その態度の変わりように苛立ちが隠せなかった。



 脩は俺と育った施設に戻った。行き先が無くて病院に入院する話があったが「穏やかだった幸せな場所に戻したい」と俺が希望した。

施設の入居者は接触しないような造りになっているし病院のようなバタバタする場所より良い。ワンフロアを貸し切り状態にできるからありがたい。

保護局の人は自分たちの管理下に置けることに安心していた。脩の状況が国際保護局に知られたため、十分な保護と補償をしなくては日本としての立場が悪くなる。どこまでも自分たちの事しか考えない者たちだ。そんな彼らにはイラついたが、脩のためには一番いい場所だから自分の気持ちをぐっと飲み込んだ。



 脩の様子をカメラ越しにそっと見る。帰国して数日。分身鳥を抱えたままベッドから動かない。食事も口にしない。

森本医師によると極度のストレスとショックで身体活動が極限まで低下している、と。まるで廃人のようで見ていられない。

「先生、俺が傍に居たらダメですか? もう、見ているだけは苦しい」

「そうですね。パニックを起こし自殺行動を起こしかねなくて恋人であった君との面会を避けていた。でも、ここまで衰弱が激しいと生命が維持できない」

はっとして森本医師を見る。石井医師が横から発言する。

「何事にも反応をしない南田さんが、帰国したとき君の名前には反応した。会いたくないと意思表示した。それが、どういう意味か分からないけれど。羽田君、もし今の状態で南田さんが強く興奮すれば不整脈を引き起こし、心停止を起こしかねない。そこを理解してほしい。僕たちは、彼を救いたい。一か八かだけど、会うかい?」

「もう、失いたくない。脩を苦しめたくない。俺がショックの引き金になるなら、顔を隠すよ。俺ってバレなければいいんだろ? 俺、脩に触れたい。脩を抱き締めたい」

「顔を隠しても分身鳥同士が気づくよ。そのまま、会ってごらん。危険だと思ったらすぐに離れるんだよ。パニックを起こしたら鎮静をかけるから」

森下医師と石井医師から許可が出て心から嬉しかった。だけど、脩を失いたくない。刺激しないように、優しく、ゆっくり。ずっと会いたかったんだ。ずっと待っていたんだ。

懐かしい施設内を歩いて脩のもとに向かいながら涙が滲む。幼い頃、あんなに一緒に居たのに、脩の部屋まで来るのはこれが初めてだった。

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