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Ⅱ章「幸せを運ぶコウノトリと小さな文鳥の幸せ番」
side:加藤幸一①
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<幸せの鳥コウノトリ>
生まれた時から、国の保護鳥管理局の運営する施設にいた。
世話係や専用のリモート授業。最高位の保護鳥として手厚く育てられた。ただ、管理局の人も施設も人も俺を名前では呼ばない。加藤さん、コウノトリの子、と呼ばれることが多かった。コウノトリは幸せを運ぶ鳥、と言われる野鳥。幸運の子ね、とよく言われた。
幼いころから、守られることが当然で、生きるための不自由ない生活が当然だと思っていた。のちに、食べる事や生きる場所に困窮して、あの頃の環境が恵まれていたのだとやっと分かった。
中学二年の夏。コウノトリが最高位の絶滅危惧種から高位に降格決定がされた。
途端に、保護施設から家庭に返されると伝えられた。管理局の人は事務的に片づけをするだけ。持ち出せる俺の荷物はごくわずかだった。
急に放り出されて、急に冷たい態度の大人。訳も分からず、行けと言われて外の世界に出た。
初めて会う家族は、俺をいらない、と言った。
俺以外の全員がムクドリを肩に乗せていた。同じ顔で同じように拒否の視線を向けてくる。ムクドリは縄張り意識の強い群れる鳥。俺は受け入れられない存在だった。
「最高位を産んだと自慢していたのに! 家に戻ってくるなんて恥さらし!」と毎日責められた。
そのうち、俺の鳥を奪われた。分身鳥と離される恐怖に、悲鳴を上げた。俺の鳥が縛り上げられる苦しさは、心臓が抉られるような絶望的な苦しさ。
「この鳥が悪い!」と飛べないように足をつながれた。「もうやめて、助けてください」と毎日這いずり回って泣き喚いた。分身鳥の足が縛られると、感覚共有で俺も歩けなかった。
面白がって、俺の鳥を攻撃する「家族」と名乗る人たち。
俺の鳥の苦しさが、恐怖が、痛みが身体の芯に響いてくる。「お願いします! やめてください! 俺の鳥を返してください。俺がどんな罰でも受けるから鳥は許してください」と泣き叫んで、家族という人たちを追いかけ続けた。
床を這う芋虫のような姿が面白いと笑われた。
分身鳥を奪われることの真っ暗な恐怖と、震えと、心臓が凍り付くような不安。心に響く、「助けて!」と叫ぶ鳥の声。
心臓が引き裂かれるような苦しみに気が狂いそうだった。
家に戻されて二週間。どうやって生きていたか分からない。よく覚えていない。
保護鳥管理局の抜き打ち家庭調査で俺と俺の鳥が保護された。
俺の肩に鳥が戻ったとき、心が壊れたかのように泣き叫んでいた。もう誰にも触らせない。俺たちを追い出した保護局も、家族と名乗った人たちも、全てが敵だ。許さない。
俺の鳥は長い首をスッと伸ばした美しさを失い、首を下げてオドオドと周りを見るようになった。その姿に、俺の心臓が悲しみで凍えた。堪えても、涙が流れた。それからは周りの敵たちを寄せ付けないように睨み続けた。
俺たちは、俺たちだけが味方だ、守れなくてごめん、鳥に話しかけると悲しい涙を流すコウノトリ。もう、誰も信じない。俺たちだけで生きて行こう。
俺の鳥と固く誓い合った。
俺はもとの保護鳥国家施設には戻れず、市の運営する孤児院に保護された。
誰とも分かり合うつもりはなく、淡々と日々を過ごした。
これまでの国家保護施設が楽園と言える状況。四人部屋のプライバシーのない環境。食事も決まった時間に集団でとる。掃除や家事の分担。質素な食事。毎日言わされる恵まれた人たちへの感謝の言葉。恵んでくれてありがとうございます。俺は乞食か。悔しさと惨めさにいつも拳を握り締めていた。慣れない集団生活に疲弊した。
いつか世の中に仕返ししてやる。その思いだけで勉強に専念した。
お金が、自立した職業が欲しかった。医療系は学費がかかるから行けない。文系で法学部を選択した。俺が振り回された保護鳥を支配する法律。それが何だったのか知りたい。俺の鳥を絶対に守る。生きるための金が欲しい。その思いだけで自分を支えていた。
「家族」に隔離されてから俺の鳥が心を閉ざしている。これまでのように心に言葉を伝えてこない。この現実に心が締め付けられる苦しさを感じていた。周りを睨むことと、唇を噛むことが癖になった。守れなくてごめん、俺からはいつも言葉を伝えていた。
苦しさは、全てが怒りの炎になって、俺の心の底で燃え続けた。
生まれた時から、国の保護鳥管理局の運営する施設にいた。
世話係や専用のリモート授業。最高位の保護鳥として手厚く育てられた。ただ、管理局の人も施設も人も俺を名前では呼ばない。加藤さん、コウノトリの子、と呼ばれることが多かった。コウノトリは幸せを運ぶ鳥、と言われる野鳥。幸運の子ね、とよく言われた。
幼いころから、守られることが当然で、生きるための不自由ない生活が当然だと思っていた。のちに、食べる事や生きる場所に困窮して、あの頃の環境が恵まれていたのだとやっと分かった。
中学二年の夏。コウノトリが最高位の絶滅危惧種から高位に降格決定がされた。
途端に、保護施設から家庭に返されると伝えられた。管理局の人は事務的に片づけをするだけ。持ち出せる俺の荷物はごくわずかだった。
急に放り出されて、急に冷たい態度の大人。訳も分からず、行けと言われて外の世界に出た。
初めて会う家族は、俺をいらない、と言った。
俺以外の全員がムクドリを肩に乗せていた。同じ顔で同じように拒否の視線を向けてくる。ムクドリは縄張り意識の強い群れる鳥。俺は受け入れられない存在だった。
「最高位を産んだと自慢していたのに! 家に戻ってくるなんて恥さらし!」と毎日責められた。
そのうち、俺の鳥を奪われた。分身鳥と離される恐怖に、悲鳴を上げた。俺の鳥が縛り上げられる苦しさは、心臓が抉られるような絶望的な苦しさ。
「この鳥が悪い!」と飛べないように足をつながれた。「もうやめて、助けてください」と毎日這いずり回って泣き喚いた。分身鳥の足が縛られると、感覚共有で俺も歩けなかった。
面白がって、俺の鳥を攻撃する「家族」と名乗る人たち。
俺の鳥の苦しさが、恐怖が、痛みが身体の芯に響いてくる。「お願いします! やめてください! 俺の鳥を返してください。俺がどんな罰でも受けるから鳥は許してください」と泣き叫んで、家族という人たちを追いかけ続けた。
床を這う芋虫のような姿が面白いと笑われた。
分身鳥を奪われることの真っ暗な恐怖と、震えと、心臓が凍り付くような不安。心に響く、「助けて!」と叫ぶ鳥の声。
心臓が引き裂かれるような苦しみに気が狂いそうだった。
家に戻されて二週間。どうやって生きていたか分からない。よく覚えていない。
保護鳥管理局の抜き打ち家庭調査で俺と俺の鳥が保護された。
俺の肩に鳥が戻ったとき、心が壊れたかのように泣き叫んでいた。もう誰にも触らせない。俺たちを追い出した保護局も、家族と名乗った人たちも、全てが敵だ。許さない。
俺の鳥は長い首をスッと伸ばした美しさを失い、首を下げてオドオドと周りを見るようになった。その姿に、俺の心臓が悲しみで凍えた。堪えても、涙が流れた。それからは周りの敵たちを寄せ付けないように睨み続けた。
俺たちは、俺たちだけが味方だ、守れなくてごめん、鳥に話しかけると悲しい涙を流すコウノトリ。もう、誰も信じない。俺たちだけで生きて行こう。
俺の鳥と固く誓い合った。
俺はもとの保護鳥国家施設には戻れず、市の運営する孤児院に保護された。
誰とも分かり合うつもりはなく、淡々と日々を過ごした。
これまでの国家保護施設が楽園と言える状況。四人部屋のプライバシーのない環境。食事も決まった時間に集団でとる。掃除や家事の分担。質素な食事。毎日言わされる恵まれた人たちへの感謝の言葉。恵んでくれてありがとうございます。俺は乞食か。悔しさと惨めさにいつも拳を握り締めていた。慣れない集団生活に疲弊した。
いつか世の中に仕返ししてやる。その思いだけで勉強に専念した。
お金が、自立した職業が欲しかった。医療系は学費がかかるから行けない。文系で法学部を選択した。俺が振り回された保護鳥を支配する法律。それが何だったのか知りたい。俺の鳥を絶対に守る。生きるための金が欲しい。その思いだけで自分を支えていた。
「家族」に隔離されてから俺の鳥が心を閉ざしている。これまでのように心に言葉を伝えてこない。この現実に心が締め付けられる苦しさを感じていた。周りを睨むことと、唇を噛むことが癖になった。守れなくてごめん、俺からはいつも言葉を伝えていた。
苦しさは、全てが怒りの炎になって、俺の心の底で燃え続けた。
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