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Ⅱ章「幸せを運ぶコウノトリと小さな文鳥の幸せ番」
side:宮下徹③
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いた。同じ席に、いる。
学生センターに寄らずに、ココに来ればよかったか。空回りだよ。俺の事を探すそぶりも見せずに教科書と参考書を読んでいるコウノトリの彼。
ため息をついて、学生カフェのコーヒーとスコーンを二つ買って正面に座る。
「はい」
目の前に置かれたコーヒーを見て、仏頂面が俺を見て、さらに眉を顰める。ほんと、期待通りの反応だよ。
「金は、払えない」
「いいよ、これくらい」
ピクリと彼の眉が動く。今日も不機嫌なようですね、心の中でつぶやく。
「加藤幸一くん。合っている?」
「あぁ」
「自己紹介、してほしい」
「加藤幸一。四月に入学したばかり。十九歳」
おいおい。目を合わせない彼を、どう考えるか。
「分かったよ。加藤って呼んでいい? それとも幸一?」
正面の彼が、驚いたように俺を見る。なんだ? 頬を染めて目線を泳がせる彼。もしかして、照れている? 心がドクンと鳴る。ちょっと可愛いかも。
「幸一」
呼ぶと、今度こそ顔を真っ赤にして、下を向く。
心臓がくすぐられたような幸せが沸き上がる。俺の文鳥がコウノトリと身体をすり寄せている。
内気そうなコウノトリ。大型には珍しい態度。通常、大型は威厳に満ちた姿勢をとる。コウノトリは体長一メートル。大型だけど、川魚を捕食するから猛禽類のような衝動行為は少ない。
獰猛ではない大型種。幸一の耳のピアスがキラキラ綺麗。
少し赤みの引いた彼の顔を見る。造形は整っているし、髪の毛のぼさぼさを改善すればばモテそう。服は襟首の伸びきったヨレヨレニット。年季入っているな。オシャレや清潔感は無縁か。今まで周囲に居なかったタイプだ。
「うまぃ」
小さな声。砂糖ミルク入りのコーヒーを飲んでスコーンを大きな口で食べている。夢中な様子がキュンとくる。
「コレも食べる?」
ブルーベリー味を勧める。やや頬を染めて、それを受け取る幸一。
身体の大きな不器用そうな幸一の行動がいちいち可愛い。胸がトクトクする。温かい笑みが漏れてしまう。彼は俺の番で間違いないかも。
俺の文鳥はコウノトリとじゃれ合っている。
「コーヒー好き?」
「いや、どうだろう。飲んだこと、なかった」
え? コーヒー飲んだことない?
「まって、アレルギーとかじゃないよな?」
焦って聞く。
「アレルギーはない。買うお金がなかった。孤児院では出てこなかった」
え? 心臓がドクっと鳴った。
「保護鳥高位だろ? 孤児院って?」
「コウノトリは、絶滅危惧種最高位だった。オレが中学の時に、三百以上の個体確認がされて高位に下げられた。国営保護施設から家庭に戻されたけど、初めて会う家族とは上手くいかなかった。それで孤児院に移された。大学は奨学金で入っているから、講義は休めない」
考えてもみなかった現実に、淡々と話した彼を、見た。俺の鳥といるコウノトリが、申しわせなさそうに身体を小さくして首をしょげる。
勿体なさそうに、両手でコップを持ちコーヒーを飲む幸一に何も言えなかった。
「オレ、次、授業あるから」
ごちそうさま、と言う幸一。ちょっと待って、とカフェ特製スコーンを三つ買って渡す。
少し照れたムッとしたような表情で受け取る。別れ際には、やっぱり幸一の肩のコウノトリが俺の文鳥をじっと見つめていた。
幸一は、大きなものを心に抱えている。何となくそう分かった。
ほんの一時のこの時間で、幸一が特別な存在に思えていた。肩に戻る文鳥をそっと撫でる。
幸一は、俺の番だ。間違いない。
両親に番鳥が出来たことを報告した。相手が絶滅危惧種高位のコウノトリだと言うことも。
相手を知りたいから、調べて欲しい事を伝えた。父の会社の秘書二名を卒業まで俺につけてくれることになった。何かあればすぐに動いてくれる。正直助かる。
その日の夜。調書を見て、泣いた。
幸一は不愛想じゃない。笑うことが、愛情が欠落しているかもしれない。そうすることで自分の心を、自分の鳥を守っている。
世の中の貧困や可哀そうな人たちを遠い存在だと思っていたけれど、俺の番が直面している。その苦境に、ただ泣いた。
俺は、幸一を守りたい。愛したい。その強い思いが沸き上がった。
俺の鳥が幸一の鳥を見て鳴いたのが分かった。俺の鳥は、さすが俺の鳥だった。
幸一を見つけてくれて、ありがとう。心から感謝して抱きしめた。分かっただろ? と心に可愛い声が届く。そうだね。お前と同じ気持ちだ。
俺たちは守るべきものを見つけたね。小さな俺の鳥を撫でて、ほろりと涙がこぼれた。
学生センターに寄らずに、ココに来ればよかったか。空回りだよ。俺の事を探すそぶりも見せずに教科書と参考書を読んでいるコウノトリの彼。
ため息をついて、学生カフェのコーヒーとスコーンを二つ買って正面に座る。
「はい」
目の前に置かれたコーヒーを見て、仏頂面が俺を見て、さらに眉を顰める。ほんと、期待通りの反応だよ。
「金は、払えない」
「いいよ、これくらい」
ピクリと彼の眉が動く。今日も不機嫌なようですね、心の中でつぶやく。
「加藤幸一くん。合っている?」
「あぁ」
「自己紹介、してほしい」
「加藤幸一。四月に入学したばかり。十九歳」
おいおい。目を合わせない彼を、どう考えるか。
「分かったよ。加藤って呼んでいい? それとも幸一?」
正面の彼が、驚いたように俺を見る。なんだ? 頬を染めて目線を泳がせる彼。もしかして、照れている? 心がドクンと鳴る。ちょっと可愛いかも。
「幸一」
呼ぶと、今度こそ顔を真っ赤にして、下を向く。
心臓がくすぐられたような幸せが沸き上がる。俺の文鳥がコウノトリと身体をすり寄せている。
内気そうなコウノトリ。大型には珍しい態度。通常、大型は威厳に満ちた姿勢をとる。コウノトリは体長一メートル。大型だけど、川魚を捕食するから猛禽類のような衝動行為は少ない。
獰猛ではない大型種。幸一の耳のピアスがキラキラ綺麗。
少し赤みの引いた彼の顔を見る。造形は整っているし、髪の毛のぼさぼさを改善すればばモテそう。服は襟首の伸びきったヨレヨレニット。年季入っているな。オシャレや清潔感は無縁か。今まで周囲に居なかったタイプだ。
「うまぃ」
小さな声。砂糖ミルク入りのコーヒーを飲んでスコーンを大きな口で食べている。夢中な様子がキュンとくる。
「コレも食べる?」
ブルーベリー味を勧める。やや頬を染めて、それを受け取る幸一。
身体の大きな不器用そうな幸一の行動がいちいち可愛い。胸がトクトクする。温かい笑みが漏れてしまう。彼は俺の番で間違いないかも。
俺の文鳥はコウノトリとじゃれ合っている。
「コーヒー好き?」
「いや、どうだろう。飲んだこと、なかった」
え? コーヒー飲んだことない?
「まって、アレルギーとかじゃないよな?」
焦って聞く。
「アレルギーはない。買うお金がなかった。孤児院では出てこなかった」
え? 心臓がドクっと鳴った。
「保護鳥高位だろ? 孤児院って?」
「コウノトリは、絶滅危惧種最高位だった。オレが中学の時に、三百以上の個体確認がされて高位に下げられた。国営保護施設から家庭に戻されたけど、初めて会う家族とは上手くいかなかった。それで孤児院に移された。大学は奨学金で入っているから、講義は休めない」
考えてもみなかった現実に、淡々と話した彼を、見た。俺の鳥といるコウノトリが、申しわせなさそうに身体を小さくして首をしょげる。
勿体なさそうに、両手でコップを持ちコーヒーを飲む幸一に何も言えなかった。
「オレ、次、授業あるから」
ごちそうさま、と言う幸一。ちょっと待って、とカフェ特製スコーンを三つ買って渡す。
少し照れたムッとしたような表情で受け取る。別れ際には、やっぱり幸一の肩のコウノトリが俺の文鳥をじっと見つめていた。
幸一は、大きなものを心に抱えている。何となくそう分かった。
ほんの一時のこの時間で、幸一が特別な存在に思えていた。肩に戻る文鳥をそっと撫でる。
幸一は、俺の番だ。間違いない。
両親に番鳥が出来たことを報告した。相手が絶滅危惧種高位のコウノトリだと言うことも。
相手を知りたいから、調べて欲しい事を伝えた。父の会社の秘書二名を卒業まで俺につけてくれることになった。何かあればすぐに動いてくれる。正直助かる。
その日の夜。調書を見て、泣いた。
幸一は不愛想じゃない。笑うことが、愛情が欠落しているかもしれない。そうすることで自分の心を、自分の鳥を守っている。
世の中の貧困や可哀そうな人たちを遠い存在だと思っていたけれど、俺の番が直面している。その苦境に、ただ泣いた。
俺は、幸一を守りたい。愛したい。その強い思いが沸き上がった。
俺の鳥が幸一の鳥を見て鳴いたのが分かった。俺の鳥は、さすが俺の鳥だった。
幸一を見つけてくれて、ありがとう。心から感謝して抱きしめた。分かっただろ? と心に可愛い声が届く。そうだね。お前と同じ気持ちだ。
俺たちは守るべきものを見つけたね。小さな俺の鳥を撫でて、ほろりと涙がこぼれた。
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