分身鳥の恋番

小池 月

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Ⅰ章「分身鳥の恋番」

Side:藤原ルイ①

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<藤原ルイ>

 俺の分身鳥は絶滅危惧種高位のオウギワシ。体長一メートル超の猛禽類で最強。羽を広げれば二メートル。大きな身体で熱帯雨林の木々を避けて自由に飛行する。

野生のオウギワシは、ジャングルのナマケモノやサルを捕食する。ナマケモノを掴んで飛行できるほど力がある。その握力は百キロ超え。爪は十センチあり、クマの爪より大きい。だから、衝動行為で人や分身鳥を傷つけないための管理がされる。

大型鳥の衝動を抑える事。幼少期から厳しく教え込まれる。

衝動行為での殺人事件もたくさん見せられた。世の中は俺たちに優位に動くけれど、傷つけた相手はどう思うか。どれだけの苦痛を、悲しみを残すか。法で守られることが全てではないこと。万が一事件を起こした場合、責任を持って相手に尽くすこと。その通りだと思ってきた。

俺は自分の分身鳥がとても賢い事を知っている。絶対に自分以外のものは傷つけない、と俺の鳥と誓い合って生きてきた。利口なこいつが可愛くて誇らしかった。

 大型猛禽類の衝動行為は大きく二通りに分けられる。一つは怒りや飢餓感による抑えられない暴力衝動。もう一つが、番を見つけた時に、泣き声を出させたくなる愛の衝動。

分身鳥は、生命の危機で必ず鳴く。

大型猛禽類は本能で相手を鳴かせたい、と衝動的に動きケガを負わせてしまうことがある。

近年、暴力衝動は管理教育の成果で事件が激減している。しかし愛の衝動行為による傷害事件は一定数発生している。

愛の衝動行為に関しては、死亡事故まで行かないことが多い。しかし、自分が相手を強制的に鳴かせることが、どれだけの恐怖と負担を負わせるか。そのことが原因で一生結ばれなくなる番もいると教えられた。

好きだと思った相手に、死を覚悟するほどの怪我を負わせて鳴かせるなんて、信じられないと俺の分身鳥と分かち合っていた。俺たちは、番の相手を見つけたら、宝物のように大切にして相手から好きだと言ってもらって鳴いてもらおう、と認識を共有していた。自制心の強い俺の鳥が頼もしかった。

「お前なら大丈夫だよ、衝動行為なんて無縁だよな」と語り掛ける。大きな身体をすり寄せて「当然さ」と伝えてくる俺の鳥が愛おしかった。

 毎年、日本には父と母の実家に帰っている。父の実家は資産家で総合商社を経営している。年に数回の帰国ができる裕福さはありがたかった。おかげで日本語も完璧にマスターできた。

 転校先は日本の関東国立特別鳥高等学校。俺の場合、オウギワシの生息地がアメリカで、保護国もアメリカのため、絶対に問題を起こさないように、と説明を受けた。国際トラブルに発展することは避けたい、と。俺の鳥は利口ですと伝えていた。

 転校初日。初対面の印象が大切だ。俺の鳥にも、穏やかで理性的な所を見せような、と話し合っていた。鳥の習性で大きな鳥は怖がられやすい。初めての日本の学校。楽しみだった。

 教室に入った。後ろの席の綺麗な黒髪の少年と目が合った。

肩に乗るオレンジの可愛い小鳥。心臓がドクリと不思議な音を出した。目の奥がキラキラ光り出すような感覚。

見つけた、という確たる思いが駆け巡った。

その一瞬だった。

俺のオウギワシが、衝動行為に出ていた。高い綺麗な鳴き声が響いた。

悲鳴を上げて、駆け寄った。「ダメだ! 離れるんだ!」伝えても、俺の鳥の興奮状態が続いている。

オレンジの小鳥を、俺の鳥の爪が貫いている。

涙が流れた。倒れ込む美しい少年。目を見開いて、自分の鳥を助けようとしている。

「オウギワシ! お願いだ、俺の声を聞いて!」泣きながら必死で声をかけた。

後ろから俺の鳥を抱き締めて、小鳥から離す。

その時、初めて俺の鳥の声を聞いた。さっきの声よりちょっと低め。響くオウギワシの声。

あぁ、お前も番の相手だってわかったんだね。でも、衝動行為はダメだ。涙を流して俺の鳥を抱き締めた。意識を無くして運ばれる少年と小鳥を、呆然と見送った。

耳に光る金のピアスが二個。キラキラ光っていた。

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